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2026.03.17
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インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回
~中東情勢の悪影響を警戒、中銀の姿勢は正しい一方、政府との「板挟み状態」が激化する懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は、3月の定例会合において政策金利を6会合連続で4.75%に据え置いた。中銀は2024年9月以降に累計150bpの利下げを断続的に実施してきた。背景には、中銀法改正による成長支援義務のほか、プラボウォ大統領が掲げる成長率8%目標など、景気重視の姿勢を求められたことが影響している。
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2025年に入りインフレは再加速しており、2月は前年比+4.76%と目標上限を大きく上回っている。電力料金引き下げ措置の反動のほか、ルピア安による輸入物価上昇が影響している。さらに、足元では中東情勢悪化による原油高も重なり、インフレ懸念が高まっている。さらに、インドネシアは2004年を境に原油の純輸入国となっており、原油高の長期化はルピア安を招くとともに、経済の脆弱性を一層高めることが懸念される。
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中銀は、金利据え置きの理由として、ルピア相場の安定とインフレ目標達成という政策目標を挙げた。世界経済成長率見通しをわずかに下方修正する一方、国内成長率見通しは維持している。中東情勢悪化による経常赤字の拡大リスクやルピア安への懸念を示すも、為替介入強化と先行きの安定を見込んでいる。
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ペリー総裁は、ルピア相場の安定に向けて為替介入と外貨取引規制の強化を発表。そして、これまで繰り返し示してきた利下げの可能性を撤回したうえで、ルピア安定を最優先とする姿勢に転換した。これまでの為替介入を受けて、外貨準備高はIMFが示す適正水準を下回るなど対外的な脆弱性が高まっていることが影響している。一方、政府の圧力と金融安定の板挟みが一層深刻化する懸念がある。
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インドネシア銀行(中央銀行)は、3月16~17日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を6会合連続で4.75%に据え置くことを決定した。中銀は、2024年9月にコロナ禍後初の利下げに踏み切り、その後も一時休止を挟みつつ、2025年9月まで計6回、累計150bpと断続的な利下げを実施してきた。インドネシアにおいては、インフレ率が2023年半ばから中銀目標(2.5±1%)の範囲内で推移するなど落ち着きを取り戻したことも、中銀の利下げ実施を後押しした。中銀を巡っては、法改正により政策目標に経済成長の支援が加えられるとともに、大統領が危機的事態を宣言した際に、政府から国債を直接購入する「財政ファイナンス」が認められるなど、政策運営に当たって景気を重視せざるを得ない状況にある。さらに、2024年に大統領に就任したプラボウォ氏は、自身の任期中に経済成長率を8%に引き上げる方針を掲げており、過去数年は5%程度で推移してきたことを踏まえれば、3pt程度押し上げる必要性がある。こうした事情も、中銀が利下げに積極姿勢を示す一因になってきた。

しかし、2025年のインフレ率は再加速に転じているうえ、足元では昨年1~2月に時限措置として実施された電力料金引き下げ策の反動も重なり大きく上振れしている。2月のインフレ率は前年比+4.76%と目標の上限を上回るとともに、2023年3月以来の高い伸びとなっているほか、食料品など生活必需品のみならず、金融市場での通貨ルピア安を受けた輸入物価の押し上げもインフレ圧力となっている。また、2月末のイスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけとする中東情勢の不安定化を受けて、その後の原油価格は高止まりしている。インドネシアは産油国であるものの、国内需要の拡大に加え、精製能力不足も重なる形で2004年に原油の純輸入国に転じており、その後は赤字幅が拡大している。したがって、原油価格の上昇はルピア安も重なる形でガソリンなどエネルギー価格の上昇を招くほか、貿易赤字の拡大など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを高めることが懸念される。インドネシア市場では、プラボウォ政権の財政運営への懸念、中銀の独立性に対する懸念、そして、株式市場の情報開示を巡る問題を理由に、通貨ルピア安圧力がかかる動きがみられた(注1)。こうしたなか、足元では「有事のドル買い」の動きも重なる形でルピア安圧力が強まっている。よって、先行きのインフレ率は高止まりするとともに、長期化するリスクも意識されるなか、中銀は様子見姿勢を維持したと考えられる。

会合後に公表した声明文では、今回の決定について「中東情勢の悪化による悪影響を回避するとともに、ルピア相場の安定を目指す政策方針に合致したもの」としたうえで、「2026年から27年にかけてのインフレ率を目標域に安定化させることに資する」との考えを示した。世界経済について「中東情勢の悪化が見通しの悪化につながる」とし、「2026年の世界経済の成長率は+3.1%」とこれまでの見通し(+3.2%)からわずかに下方修正した。一方、同国経済について「中東情勢の悪化が内需に悪影響を与えることを危惧している」としつつ、「家計消費が成長を支える」として「2026年の経済成長率は+4.9~5.7%」と従来の見通しを維持している。対外収支については「世界経済の成長見通しの低下や原油価格の上昇が悪影響を与える可能性を注視している」として、「2026年の経常赤字はGDP比▲0.9~▲0.1%の下限近傍になることが懸念される」との見方を示した。また、ルピア相場について「地政学リスクの高まりが悪影響を与えている」として、「為替介入に注力している」としつつ「先行きは景気の堅調さやインフレが管理可能な水準にとどまるなかで安定が見込まれる」との見通しを示している。そして、物価動向について「2026年も27年も目標域にとどまる」ほか、「食料品価格は世界的な要因に左右される一方、コアインフレ率は管理可能な水準にとどまる」との見方を示した。先行きの政策運営については、引き続き「経済の安定維持を目指しつつ、より高い経済成長を促すべく強化する」との方針を維持しており、景気下支えを重視している様子がうかがえる。

なお、会合後に記者会見に臨んだ中銀のペリー総裁は、ルピア相場の安定に向けて「オフショアとオンショアのNDF(ノン・デリバラブル・フォワード)市場とスポット市場での為替介入を強化している」とした。さらに、「4月から外国為替取引に関する新たな指針(1人当たりの月間外貨購入限度額の引き上げ)を実施する」ことを明らかにしている。そのうえで、中銀が中東情勢の長期化による影響に関する試算を行っていることを明らかにし、「中東情勢を巡る地政学リスクの高まりを理由に、利下げの可能性に関する見解を撤回する」とした。前述したように、中銀を巡っては景気下支えに向けて政権から圧力を受ける場面がみられ、ペリー氏は度々利下げの可能性に言及してきた。しかし、「ルピア相場の安定に全力を尽くす」と述べるなど、そうした姿勢を一旦取り下げている。これは、ルピア安圧力が高まるなかで中銀が為替介入を積極化させてきた結果、外貨準備高の水準はIMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」の下限を下回ると試算されるなど、対外収支を巡る脆弱性が高まっていることも影響している。中銀の姿勢転換はルピア相場の安定に資する一方、政府からの圧力が強まることで板挟み状態が一段と強まることも懸念される。したがって、中銀を取り巻く状況をこれまで以上に注視する必要性が高まっている。

注1 2月10日付レポート「インドネシア市場にさらなる懸念、信頼回復への道筋を描けるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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