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2026.03.04
米国経済
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中東情勢の混乱長期化リスク
~停戦時期として、米中首脳会談と夏休み前の6月が意識される~
前田 和馬
中東情勢の混乱は長期化の様相を呈している。2月28日、米国とイスラエルはイランに対する軍事作戦を開始し、イラン最高指導者のハメネイ氏ら政権幹部を殺害した。一方、イランは報復として周辺国や米軍基地への攻撃を続けるほか、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を発表するなど、事態に収束の兆しはみられない。
今回の米国による軍事行動の背景として、米国と対立関係にあるイランの弱体化・非核化、軍事力の誇示と対中国へのけん制、7月の建国250周年や11月の中間選挙に向けた実績作り、イスラエルとの協調行動による宗教右派(福音派)の支持確保、及びトランプ関税の違憲判決やエプスタイン文書問題など自身の逆風に対する批判回避、などが考えられる。
一方、Reuters/Ipsosが2月28日~3月1日に実施した世論調査によると、イラン攻撃への賛成は27%と、2026年初におけるベネズエラへの軍事作戦(マドゥロ大統領の拘束)の時の33%よりも支持が少ない(図表1)。また、支持政党別にみると、共和党員や無党派層でも反対意見が増えている。前者には他国への軍事介入を控えるべきとのMAGA派(アメリカ第一主義)の不満、後者には事態の長期化とそれによるガソリン高への懸念が含まれている可能性がある。今後に関しても、米軍の被害拡大、或いは原油価格の高騰が顕在化する場合、米国民によるイラン攻撃に対する支持は更に低下するだろう。
賭けサイトのPolymarketによると、米国とイランが停戦に達する時期は3月中が42%と半数を下回る一方、6月までは71%に達するなど、数か月の軍事衝突を予想する向きが多い(図表2:3月4日11時時点)。実際、2日にトランプ大統領は「(軍事作戦を)4~5週間よりも長く実行できる」と述べたほか、地上部隊を派遣する可能性も排除しないなど、短期的な収束期待は萎みつつある。なお、早期に軍事作戦を終息させたベネズエラと比べると、イランが過去10年(2015~24年)に費やした軍事費は22倍、直近2020年時点の兵員は1.9倍に達する(世界銀行とSIPRI)。2日のThe New York Timesは、軍事行動の検討段階において米軍のケイン統合参謀本部議長が「イランへのどのような軍事オプションも、マドゥロ大統領の拘束より困難」と大統領に助言したことを報じている。
中東情勢は非常に流動的であるものの、当面の予定として、3月31日~4月2日とみられる米中首脳会談、6月11日~7月19日の北中米ワールドカップ(イランは6月16日に米ロサンゼルスで初戦を予定)、7月4日の米国建国250周年イベントが注目される。ホルムズ海峡の閉鎖はイラン産原油やカタール産LNGを調達する中国経済への打撃となるため、米中首脳会談の前後にて、中国が仲介するかたちで米国・イスラエルとイランの停戦が進展するかもしれない。なお、2023年3月に中国はイランとサウジアラビアの国交正常化を仲介した一方、今回の軍事対立を巡るイランへの関与は現時点で限定的とみられている。
また、3月中に進展が見られない場合、米国経済の観点からは6月頃までが停戦時期として意識されやすいだろう。米国のガソリン価格は原油スポット価格に数週間遅れる傾向があり、11月の中間選挙を見据えて夏の休暇シーズンのガソリン価格を抑えるためには、中東情勢を6月ごろまでに収束させる必要が出てくる。金融政策に関しても、現パウエル議長の任期は5月までであり、後任のウォーシュ新議長(予定)が6月以降に積極的な利下げへ踏み切るためには、その際に少なくとも原油価格が鎮静化している必要があるだろう。ガソリン価格が一時的に上昇するだけならば利下げは可能だが、消費者のインフレ期待を含めて、FRBはエネルギー高が広範な品目に波及しうるリスクに警戒しなくてはならない。ちなみに、FRBのマクロモデル(FRB/US)に基づくと、原油高によるコアPCEインフレ率(エネルギーと食料品を除く)への影響は非常に小さい。
なお、EIAの試算によると、ホルムズ海峡を通過する石油量は、世界消費の19.8%、(パイプライン等を除く)海上貿易の26.9%に達する。目的地の内訳を見ると、中国向けが33.4%と最大であり、インドは13.2%、韓国は12.1%、日本は10.6%と続くなど、ホルムズ海峡の閉鎖長期化はアジア経済を直撃する懸念が強い(図表3)。

前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

