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- 時評『推し活をめぐる陰と陽』
今年のゼミ生に自己紹介シートを書いてもらったところ、意外なことに気づいた。「推し」を持つ学生が大半だった。
名前を見てみると、K-POPアイドル、国内グループ、声優、ユーチューバー、サッカー選手と実にさまざまだ。趣味の欄にはゲームのコンテンツ名も並び、推しの対象は必ずしも芸能人とは限らない。
私が学生だった頃なら、多くの学生が同じ人気タレントやアイドルの名を挙げただろう。しかし今は違う。誰もが知る「国民的スター」を共有する時代から、一人ひとりが異なる推しを持つ時代へと変わったように見える。共有される対象が失われた時代に、推し活はそれぞれの拠りどころとなっているのかもしれない。
「推し活」とは、特定の人物やグループ、キャラクターなどへの愛着や支持をもとに、継続的に応援や消費、ファン同士の交流を楽しむ活動である。ライブやイベントへの参加、グッズ購入、SNSでの情報発信など、その活動は多岐にわたる。グーグルトレンドでみると、「推し活」は2020年頃から使われ始め、年々検索数を増やしており、2026年の検索指数は、2020年頃と比べて10倍以上となっている。学生の関心も高く、過去の卒業論文をみると2022年から「推し活」をテーマにした論文が現れ、企業とのコラボレーションや経済効果を扱うものなど、人気のテーマとなっている。
経済面でも興味深い。推し活は単なるグッズ購入にとどまらない。ライブ遠征で新幹線に乗り、ホテルに泊まり、現地で飲食をする。アニメやドラマの舞台を訪ねる「聖地巡礼」は地域経済の活性化にもつながる。CDを複数枚購入するファンも少なくない。同じ曲でもジャケットが違う版があり、それらをすべて集めるファンもいる。日本レコード協会によるとCDアルバムの生産数量は2020年以降下げ止まり、こうしたファンの購買意欲も背景となり、2025年のCDアルバム生産数量は前年比10%増加した。
もっとも、推し活に対する見方は一様ではない。「宗教のようだ」と評されることもある。ファン同士が「布教」と呼んで魅力を伝えたり、「聖地巡礼」と称してゆかりの地を訪れたりする様子には、宗教社会学が指摘する儀礼性や共同体性との共通点を見いだすこともできる。ただし、宗教そのものというより、人々が共感や連帯感を育む現代的なコミュニティとして理解するのが適切だろう。
肯定的にとらえれば、「推し」は日常生活に小さな目標や楽しみを与えてくれる存在である。現代社会では、地域や職場の共同体の結びつきが以前ほど強くない。単身世帯の増加やSNSの普及もあり、人との関係は広がった一方で、孤独感を抱える人も少なくない。共有される対象を失った時代に、推し活は新しいつながりの場を作っているとも言える。
推し活はいくつかの効用をもたらす。一つ目は非日常性である。コンサートは一種のお祭りであり、日常を離れた高揚感がある。遠方のイベントへ「遠征」すれば旅行の要素も加わる。コスプレで変身したり、うちわやペンライトを掲げたりすることは、自己表現の解放にもつながる。
二つ目は、他者を応援する喜びである。推し活による消費の中には、自己の利益追求では説明できない消費が多い。ファンが資金を出し合って広告を出すなど、ファンが集まることで、一人では実現できない企画も可能になる。
三つ目は、安心感である。コミュニティができることで、人とのつながりが感じられる。ファン研究や社会心理学では、ファンコミュニティへの参加による所属感や社会的つながりが、幸福感を高めることが報告されている。
むろん、陰の部分が消えるわけではない。過度の支出の恐れや同調圧力といった面は、確かにある。それでも、「来月のライブまで仕事を頑張ろう」「新曲の配信を楽しみに今週を乗り切ろう」といった気持ちには共感できる。推し活は陰と陽の両面を抱えながらも、現代社会を生きる人々の日常を静かに支える存在となっている。
山澤 成康
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。