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2026.01.16
アジア経済
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台湾と米国が通商協議で合意、相互関税は15%に引き下げ
~対米貿易黒字は大幅拡大も半導体を「てこ」に交渉進展、今後も半導体が台湾を左右するか~
西濵 徹
- 要旨
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米国と台湾は通商協議で合意に達した。輸出依存度が高く対米輸出比率も大きい台湾は、当初32%という高率の相互関税を課されたが、その後の協議を通じて20%まで引き下げられた。しかし、韓国などと比べて不利な状況が続いたため、その後もさらなる関税引き下げを目指して交渉を継続してきた。
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今回の合意により、米国は台湾への相互関税を15%に引き下げ、一部品目を免税とする。一方、台湾の半導体関連企業は米国に最大2500億ドルの直接投資を行い、政府も信用保証で支援する。また、米国は対米投資を行う半導体企業に、一定量の輸入半導体について追加関税を免除するなど優遇措置を設ける。
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台湾経済はトランプ関税の影響が懸念されたものの、関税引き下げと輸出の駆け込み需要により高成長を維持し、対米貿易黒字も大幅に拡大した。世界的に半導体サプライチェーン強化の重要性が高まるなか、台湾は半導体分野での競争力を武器に米国との交渉を有利に進めたと考えられる。
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台湾中銀は先月の定例会合で政策金利を据え置き、インフレや不動産価格の安定を確認した。2026年の成長率は鈍化する見通しだが、AI産業動向や地政学リスクなどを注視している。足元の台湾ドルは調整局面にあるものの、米国の兵器購入や通商合意が下支え要因になる可能性が見込まれる。
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米国政府(商務省)と台湾政府は、通商協議が合意に至ったことを明らかにした。台湾経済を巡っては、アジア新興国のなかでも構造面で輸出依存度が相対的に高いうえ、米国向け輸出比率も約4分の1を占めるとともに、対米輸出額は名目GDP比で18%に達する。よって、トランプ米政権による関税政策に翻弄されることが懸念されていた。米国は当初、台湾に対する相互関税を32%とアジア新興国のなかでも高水準に設定し、その理由として台湾に対する貿易赤字が巨額に上る(個別の国・地域別で6番目)ことなどを挙げた。しかし、その後の協議を経て税率は20%と、ASEAN(東南アジア諸国連合)主要国並みの水準となるも、半導体産業などで競合する韓国(15%)に対して不利な状況が続いた。したがって、その後も関税のさらなる引き下げに向けた協議を継続してきた。

この結果、今回の合意で米国は台湾に対する相互関税を15%に引き下げるほか、自動車部品や木材・木製品への追加関税も15%とする。また、ジェネリック医薬品や航空機部品、『入手困難な天然資源』への関税を免除する。一方、台湾の半導体関連企業は米国の先端半導体やエネルギー、AI(人工知能)分野に対して少なくとも2500億ドル規模の新規直接投資を実施する。さらに、これとは別に台湾政府も企業による投資を促すべく2500億ドル規模の信用保証を供与し、米国の半導体サプライチェーンの強化を支援するとしている。一方、トランプ米政権は半導体に対する追加関税の賦課を検討しているが、米国に新規直接投資を実施する企業を対象に一定量への関税を免除するなど優遇措置を取るとしている。具体的には、米国事業を拡大させる半導体メーカーは、承認された建設期間中について新規生産能力の最大2.5倍の半導体、ウェハーを追加関税なしで輸入可能となり、この枠を超える半導体にも優遇措置が採られる。また、すでに米国で半導体生産工場を建設するメーカーにも、新規生産能力の1.5倍まで追加関税なしで輸入可能となる。今回の合意により、台湾は不利な状況を脱することが可能となる。
前述したように、台湾経済はトランプ関税に翻弄されることが懸念されたものの、実際には協議を経て税率が引き下げられたことに加え、本格発動を前にした輸出の『駆け込み』の動きが景気を押し上げた。2025年7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+7.02%と堅調な推移をみせるとともに、1-9月までの経済成長率も前年比+7.2%と2024年通年(+5.3%)を大きく上回る伸びとなっている。なお、先行きについては駆け込みによる反動が輸出の足かせとなることが懸念されたものの、半導体をはじめとする主力産業を中心に受注は拡大する動きが続くなど、当面の輸出は堅調な推移をみせる公算が大きい。また、2025年の対米輸出が駆け込みの影響で大きく押し上げられたことを反映して、対米貿易黒字額は1501億ドルと前年(647億ドル)の2.3倍以上となり、トランプ関税にもかかわらず米国にとっては貿易赤字が拡大したことになる。こうした事情は通商協議の行方に影響を与える可能性が懸念された。しかし、全世界的に半導体サプライチェーンの強靭化が喫緊の課題となるなか、この分野で世界的な競争力を有する台湾にとっては、その優位性を『てこに』米国との協議を推し進めたと考えられる。その意味では、現時点において米国と協議を継続している国々にとっては、米国に対して優位性を有する技術がある、ないし、米国に相応の投資を実施する余力があるかがカギを握ることを示唆している。

なお、台湾中銀は2025年12月に開催した定例会合において、政策金利を7会合連続で2.000%に据え置いている(注1)。足元のインフレが落ち着いた推移をみせるとともに、一時は高騰が懸念された最大都市の台北市を中心とする不動産価格も、当局による規制強化などを理由に落ち着きを取り戻していることが影響している。また、中銀は2026年の経済成長率は+3.67%と25年(+7.31%)から鈍化するとの見通しを示す一方、AI関連産業の動向のほか、米国経済や貿易政策、中国本土景気の減速リスク、主要国中銀の金融政策、地政学リスク、異常気象など不確実要因を注視する考えをみせている。その上で、金融市場において台湾ドル相場が調整の動きを強めるなど、資金流出圧力に直面していることについて、AI関連投資への過度な期待への修正が影響しているとの見方を示している。一方、先行きの台湾ドル相場については、米国から111億ドル規模の兵器購入パッケージの履行が見込まれることを理由に、一段と調整するとは見込んでいないとしたほか、今回の米国との通商合意も相場を下支えする可能性はあろう。

注1 2025年12月19日付レポート「台湾中銀、景気見通しを上方修正のうえ、7会合連続で金利据え置き」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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