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2026.01.13
アジア経済
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実体経済と乖離するタイ・バーツ高、先行きはどうなる
~不可解だが市場は当局の足元を見透かしている可能性、政治情勢を注視する必要性は高い~
西濵 徹
- 要旨
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タイでは、実体経済が減速し、景気悪化や隣国カンボジアとの軍事的緊張、自然災害、さらには総選挙を控えた政治空白といった不透明要因が重なっている。こうした状況にもかかわらず、通貨バーツは対ドルで強含み、一時は約4年半ぶりの高値を記録した。政府と中銀はバーツ高を懸念し、利下げや資本流入規制、金取引の管理強化などの対策を講じているが、効果は限定的にとどまっている。
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背景には、デフレ基調のもとで政策金利がASEAN諸国の中でも低水準にあり、追加利下げ余地が乏しいことや、政治空白により当局の対応力が低下しているとの市場の見方がある。バーツ高は不可解な面もあるが、当局への不信が市場取引を活発化させている可能性があり、今後の政治情勢次第で相場が大きく変動する可能性がある。
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このところの金融市場においては、タイの通貨バーツが上昇基調を強める展開が続いている。足元のタイ経済そのものは勢いを欠いており、昨年7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.24%と11四半期ぶりのマイナス成長となるなど、景気に急ブレーキが掛かる動きがみられた。さらに、昨年10月末に米国などの仲介により、隣国カンボジアとの和平合意が調印されたものの、直後に合意が停止され、軍事衝突が起こる事態に発展した。両国は近年、南部経済回廊を通じて経済的な結びつきを強めており、軍事衝突や国境封鎖による経済的損失は毎月140億バーツ(GDP比0.1%弱)に上ると試算されるなど、実体経済に悪影響を与えることが懸念される。なお、先月末に中国の仲介により両国は停戦に合意したものの、その後も互いに非難を応酬する展開が続いており、事態が沈静化するかは見通しにくい状況にある。また、同国南部と隣国のマレーシアでは、昨年11月にサイクロンによる豪雨と洪水が起こり、多数の死傷者や被災者が発生するとともに、復旧途上の状態が続いている。そして、アヌティン首相は先月に突如議会下院(人民代表院)を解散するとともに、2月8日に総選挙を実施する方針を明らかにするなど政治空白状態にある。こうした状況にもかかわらず、バーツの対ドル相場は先月末にかけて上昇基調を強めるとともに、一時4年半ぶりの高値を更新するなど強含みする動きをみせてきた。

タイ経済は、ASEAN(東南アジア諸国連合)のなかでも経済構造面で外需依存度が相対的に高く、バーツ高は財輸出、観光の両面で競争力の足かせとなることが懸念される。こうしたなか、政府はバーツ相場を巡って中銀と協議するとともに、中銀もバーツ高を抑制すべく市場の監視を強化するなどの姿勢をみせてきた。こうしたなか、中銀は先月の定例会合において、バーツ高圧力の軽減を図るべく利下げを決定した(注1)。その上で、バーツ相場に影響を与える外国為替取引の管理方法を検討することで政府と合意したことを明らかにするなど、バーツ高阻止に向けて政府と足並みを揃える方針を示した。先月末には、中銀が度々バーツ高を引き起こす一因と指摘してきた金取引について、中銀が直接管理するとともに、20万ドルを上回る資本流入に対する管理を強化する措置を開始したことを明らかにした。直後にバーツの対ドル相場は一時的に調整する動きをみせたものの、その後もバーツは強含みの展開を続けている。この背景には、足元のインフレ率がマイナスで推移するなどデフレ基調が続いている一方、先月の利下げ実施を受けて政策金利は1.25%とASEAN諸国のなかでも突出して低く、利下げ余地が乏しいことが影響している可能性がある。さらに、来月実施予定の総選挙に向けて政治空白状態が続いており、金融市場においては、当局が適時適切な対策を打ち出せないとの見方が出ていることも、バーツ相場が強含みする一因となっているとみられる。足元のバーツ高を巡っては、実体経済の状況と乖離するなど非常に不可解であるものの、金融市場が当局の足元を見透かす形で取引を活発化させている可能性に鑑みれば、環境が一変すれば状況が大きく変化することも考えられる。とはいえ、総選挙後も政権発足に当たって時間を要する可能性が見込まれるなか、有効な手を打つことができない難しい状況が続くであろう。

注1 2025年12月17日付レポート「タイ中銀、「五重苦」対応へ追加利下げも、今後も困難な局面が続くか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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