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データでみる米国のベネズエラ攻撃の背景

~薬物・石油・中国との結びつきに加えて、ベネズエラの特殊性~

前田 和馬

1月3日、米トランプ政権はベネズエラへの軍事行動に踏み切り、同国のマドゥロ大統領を拘束した。同氏は即時に米国へ輸送され、5日には麻薬密輸に関連する罪を巡りニューヨーク連邦地裁に初出廷した。本稿では米国によるベネズエラへの軍事介入を巡る背景を、各種データを基に確認する。

① 違法薬物対策

米司法省はマドゥロ氏が麻薬密輸に関与していると指摘する。具体的には同氏が国内の麻薬カルテル(太陽のカルテル)を率いるほか、世界最大のコカイン生産国であるコロンビアのテロ組織と共謀し、米国における違法薬物流入を招いていると批判する。

一方、米国はマドゥロ大統領を拘束したのみであり、麻薬組織そのものへの対処法が現時点で不明ななか、今回の軍事行動が米国の違法薬物対策に有効か否かは定かではない。米国の違法薬物の押収場所に基づくと、その多くはメキシコと接する南西部国境(陸路)から流入しているとみられ、麻薬関連組織は複数国にわたり活動しているとみられる。また、米国における不法移民の拘束者数ではベネズエラがメキシコに次ぐ2番手であり、こうした不法移民が各種犯罪に結びついているとの指摘もある。しかし、そもそもベネズエラからの不法移民流入には同国の経済・社会不安が背景にあり、治安が改善しない限り不法移民の流入が鈍化する可能性は低い。

図表
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② 石油利権

トランプ大統領は数十億ドルの支出を通じ同国の石油インフラを修復すると述べるなど、米国(或いは米系企業)が石油産業に関わる可能性を否定していない。ベネズエラは世界最大の原油埋蔵国であり、その世界シェアは19%に達する(OPECによる2024年時点集計)。一方、同国の重質油は生産コストの高さが指摘されるほか、政情不安等によるインフラ老朽化を背景に足下の原油生産は世界シェアの1%弱に留まる。一方、2015年と同等の生産量を回復する場合、日量100~150万バレル(世界生産の1~1.5%程度)の増産が見込まれ、世界的な原油相場への一定の価格下落圧力となるだろう。11月の米中間選挙でインフレが重要なテーマとなるなか、こうした供給増加観測に基づくガソリン価格の下落はトランプ大統領と共和党への追い風となる。ただし、大幅な増産には巨額の投資が必要とみられ、短期的に生産量が拡大するのかは不透明感が強い。なお、米国は2000年代後半以降のシェール開発を背景に既に石油の純輸出国へ転じているため、他国で石油利権を獲得する必然性は歴史的にみると高くない。

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③ 中国との結びつき

中南米諸国は2000年代初頭まで米国と活発な貿易を行っていた一方、2000年代後半以降は中国との経済的な結びつきが強まっている。特に中南米諸国は食料や資源等を中国へ輸出する一方、中国からは工業製品等を輸入する構図にある。また、中国は資源開発やインフラ整備等のための資金提供を行っており、特にベネズエラに対する融資総額は600億ドルに達するとみられている。

一方、トランプ政権は中南米地域における中国の台頭を警戒しており、12月に公表した国家安全保障戦略では「米国の西半球における優位性の回復」を強調した。特に同地域において「非西半球の競争相手が軍隊等を配置すること」、或いはインフラや資源などの「重要な資産を所有・支配」することを否定する方針を示している。とはいえ、中国の代わりとして、米国が多くの資源や食料の買い手となる、或いは安価な工業製品を中南米諸国に提供するのは現実的にハードルが高く、少なくとも貿易面においては中南米諸国と中国の結びつきは当面続くとみられる。

図表
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④ ベネズエラの特殊性

ベネズエラに対する軍事行動後、トランプ大統領はコロンビアやメキシコ、グリーンランドへの介入の可能性を示唆しており、社会主義国であるキューバを含めて更なる軍事行動の観測が浮上している。特にコロンビアやメキシコには麻薬組織への爆撃に言及し、各国政府に積極的な薬物対策を取るよう圧力をかけているとみられる。

一方、今回の軍事行動を巡ってはベネズエラの特殊性に留意する必要がある。まず、長期にわたって経済危機にあるベネズエラは社会情勢が極めて不安定であり、マドゥロ氏が当選した2018年と24年の大統領選挙のプロセスは国際社会からその正当性を巡る疑義が呈されてきた。加えて、マドゥロ政権は「反米の急先鋒として度々米国批判を展開(日本外務省)」するなど、米国との対立姿勢が鮮明であった。こうした背景もあり、日本を含めた主要先進国は国際法を尊重する姿勢を示しながらも、(安全保障を依拠する同盟関係にある)米国への直接的な批判を避けている。一方、中国やロシアなどは米国の行動が国際法違反と非難している。

以上を踏まえると、米国によるベネズエラへの軍事行動を決断するに至った背景としては、薬物対策、石油生産、中国との結びつきといった複合的な要因に加えて、社会的に不安定かつ反米的なベネズエラの特殊性があるものと考えられる。

図表
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以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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