株高不況 株高不況

物価上昇に負けても、物価目標には十分な賃上げが達成されている

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月54,000円程度で推移するだろう

  • USD/JPYは先行き12ヶ月160円程度で推移するだろう

  • 日銀は利上げを続け、2026年後半に政策金利は1.0%に到達しよう

  • FEDはFF金利を26年前半までに3.5%へと引き下げ、その後は様子見に転じるだろう

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.2%、NASDAQが+0.3%で引け。VIXは15.4へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.270%(▲0.2bp)へと低下。
    実質金利は1.845%(+3.8bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+57.3bpへとプラス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは155前半で一進一退。コモディティはWTI原油が60.1㌦(+0.4㌦)へ上昇。銅は11620.5㌦(+170.5㌦)へ上昇。金は4212.9㌦(+1.1㌦)へ上昇。

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経済指標・注目点

  • 日本のインフレ動向および日銀の金融政策を読む上で重要な毎月勤労統計(共通事業所版)によると、10月の現金給与総額は前年比+2.4%と9月から0.1%pt鈍化した。内訳は、基本給に相当する概念である所定内給与が同+2.3%、残業代に相当する所定外給与が同+3.1%、主に賞与で構成される特別給与が同+5.7%であった。一人当たり賃金の動向を読む上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は同+2.2%であった。2025年の春闘においてベア相当部分が3%台半ばの上昇率で着地したことを踏まえると、目下の伸び率はかなり見劣りする。

  • この弱さについてはサンプル要因が指摘されている。2025年入り後、本来はサンプル変更の影響を受けにくいとされてきた共通事業所版において一部業種、具体的には卸売・小売業の弱さによって全体の伸びが下押しされている可能性が指摘されている。例えば、日銀の展望レポートのBOX(2025年10月版)では「卸売・小売業の賃金は、本年入り後、他の業種に比べると弱めの動きとなっている。これには、同産業で、昨年から毎月勤労統計の調査サンプルに加わり、本年もサンプルに残存している『共通事業所』において、賃上げ率が低めとなっていることが影響しているとみられる」と指摘されている。何らかの要因等で賃上げ率が劣った企業を統計が、(運悪く)サンプルとして拾ってしまったということである。この要因がなくなれば、2026年入り後の数値は再加速が見込まれる。

  • そこで(マスコミ報道で一般的な)本系列に目を向けると、現金給与総額は同+2.6%、所定内給与は同+2.6%、所定外給与は同+1.5%、特別給与は+6.7%であった。また一般労働者の所定内給与は同+2.7%と、3%が視界に入る水準にある。製造業の影響を強く受ける春闘賃上げ率(ベア相当部分)には見劣りするものの、共通事業所対比では強く、こちらの方が実勢を反映している印象を受ける。

  • ここで賃金と金融政策について考えてみると、現在の3%近い賃上げ率は「十分」との見方もできるだろう。「物価上昇を上回る賃上げ」という視点からみれば、実質賃金がマイナスで推移していることらも明らかなように、賃上げは十分とは言えないが、物価目標2%を念頭に置いた場合、2%後半の賃金上昇率は整合的・理想的と言えるだろう。3%の賃金上昇と2%の物価上昇は相性が良いが、例えば4%の賃上げは望ましいとは言えない。米国が経験したように、賃金と物価の過度な上昇は低所得者層に打撃が集中する。高齢化率が高く、家計が株式等のインフレに強い資産をあまり持たない日本では特に悪影響が表面化し易いだろう。

  • 賃金を重要視する植田総裁の姿勢に鑑みると、春闘の勢いが2025年対比で強まらない限り、継続的な利上げにはならないとの見方もある。しかしながら、過度な賃上げは金融政策の舵取りを却って難しくさせる。春闘の結果が、現時点における民間エコノミストの中心的予想である「2025年対比でやや鈍化」で着地すれば、継続的な利上げの条件は満たされるのではないか。

藤代 宏一


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