インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米中の緊張緩和は中国景気の曇りを払しょくできるか

~10月PMIは米中摩擦の再燃が重石に、緊張緩和は改善を促す一方で新たな対立を招く可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 今月9日に中国がレアアースの輸出管理を強化する方針を発表したことを受け、トランプ米大統領は追加関税引き上げと輸出規制を警告するなど、米中関係の悪化懸念が強まった。しかし、韓国で実施された米中首脳会談を経て、レアアース管理強化策の1年延期や追加関税撤廃などで合意し、緊張状態の緩和が図られた。短期的には関係改善が見込まれるが、中長期的には不透明要因が山積する展開が続くであろう。

  • 中国の10月製造業PMIは49.0と低下しており、米中関係の悪化を受けて生産や輸出向け新規受注などが落ち込むなど、企業マインドの悪化が鮮明となった。一方、非製造業PMIは50.1とわずかに改善したものの、建設業の低迷や業種間のバラつきが鮮明になっている。結果として総合PMIは50.0に低下しており、過去数ヶ月にわたって改善の動きがみられた流れは米中関係の悪化を理由に一変したと捉えられる。

  • 足元の中国景気は外需への依存を強めており、今回の合意による関税引き下げなどは当面の企業心理を改善させると期待される。しかし、関税を巡る不透明さやトランプ米政権の動向次第では、米中摩擦が再燃するリスクは残る。今後も中国景気は外需が主導する形で不安定な動きが続く可能性が見込まれる。

米中関係を巡っては、今月9日の中国政府によるレアアースの輸出管理強化策を発表したことを受け、直後にトランプ米大統領が中国に対する追加関税を100%に引き上げるほか、航空機や航空機部品への新たな輸出規制を課す方針を示すなど、関係悪化への懸念が急速に高まった。ただし、トランプ氏の言動については、過去にもTALO(攻撃)とTACO(尻込み)を繰り返して収束する展開がみられるとともに、米中両国はその後も実務者協議を継続して意思疎通を図ってきた。この背景には、韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に合わせて米中首脳会談の開催が予定されたことも影響した。首脳会談の直前には、クアラルンプールで閣僚級協議を開催して首脳会談に向けた『地ならし』が行われた。クアラルンプール協議では、中国によるレアアースの輸出管理強化策の1年延期と米国の追加関税の撤回、中国による米国産農産品の輸入拡大、米国が問題視する合成麻薬フェンタニル対策への中国の協力といった話題が話し合われた模様である。その結果、30日に韓国で開催された米中首脳会談では、クアラルンプール協議での合意内容に沿う形で、レアアースの輸出管理強化策を1年延期し、それに伴い米国は100%の追加関税を撤廃することで合意した模様である。さらに、中国はフェンタニルの違法取引の取り締まりを強化することで合意し、それに呼応して米国はこの問題を理由に課してきた追加関税(20%)を10%に引き下げる。また、米国は輸出管理措置(貿易制限リストへの中国企業の追加と中国船に対する入港手数料の徴収)を1年間停止させるとともに、中国も特別港湾料の徴収を停止するとした。そして、中国は大豆をはじめとする米国産農産品の輸入を即時拡大させるとした。なお、米中は11月10日に迫る関税の上乗せ分の停止措置も1年間延長することで合意したが、直後にトランプ氏は中国に対する関税が「47%」になると発言しており、関税の行方には不明なところが多く、中国による米国産農産品の輸入拡大への行方にも影響を与える可能性は残る。首脳会談を経て米中関係は一旦落ち着きを取り戻したものの、依然として両国には懸案事項が山積しており、いずれも合意が困難な課題であることを勘案すれば、中長期的な米中関係の行方は不透明な展開が続くと見込まれる。

このように米中関係を巡っては、短期的には事態収拾が期待される状況の一方、今月に入って以降の緊張感の高まりを受けて、持ち直しの動きをみせる製造業企業のマインドに悪影響を与えたものと考えられる。31日に国家統計局が公表した10月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.0と7ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る水準で推移するとともに、前月(49.8)から▲0.8pt低下して6ヶ月ぶりの低水準となった。足元の生産動向を示す「生産(49.7)」は前月比▲2.2ptと大幅に低下して6ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、米中関係の悪化を警戒して企業が生産活動を抑制した様子がうかがえる。さらに、先行きの生産に影響を与える「新規受注(48.8)」は前月比▲0.9pt、「輸出向け新規受注(45.9)」も同▲1.9ptとともに低下しており、特に輸出向け新規受注の落ち込みが顕著であるなど、外需への悪影響が意識された。また、受注動向の悪化を受けて「輸入(46.8)」は前月比▲1.3pt、「購買量(49.0)」も同▲2.6ptとともに低下するなど、原材料に対する需要が下振れしており、中国経済への依存が高い国々に悪影響が広がる動きがみられる。また、原油をはじめとする商品市況の調整の動きを反映して「購買価格(52.5)」は前月比▲0.7pt低下しており、こうした動きが川下に伝播する形で「出荷価格(47.5)」も同▲0.7pt低下するなど、ディスインフレ圧力の根強さを示唆する動きもみられる。さらに、減産の動きを反映して「雇用(48.3)」も前月比▲0.2pt低下するなど雇用調整圧力が強まる動きもみられ、個人消費の足を引っ張る形でディスインフレ圧力が増幅されることが見込まれる。

図表1
図表1

その一方、10月の非製造業PMIは50.1と好不況の分かれ目となる50をわずかに上回るとともに、前月(50.0)から+0.1pt上昇するなど製造業と対照的な動きをみせている。ただし、分野別では「サービス業(50.2)」が前月比+0.1pt上昇して50を上回る水準を維持する一方、「建設業(49.1)」は同▲0.2pt低下するとともに3ヶ月連続で50を下回る水準で推移しており、不動産需要の弱さが建設需要の足かせとなる展開が続いている。なお、国慶節連休が重なったことも影響して、サービス業のうち輸送関連や物流関連、宿泊関連、文化・スポーツ・娯楽関連が好調な動きをみせる一方、保険関連や不動産関連は対照的に弱含む展開が続いており、業種ごとのバラつきがこれまで以上に鮮明になっている様子がうかがえる。足元の経済活動はわずかに上向く動きをみせているものの、先行きの経済活動に影響を与える「新規受注(46.0)」は前月比±0.0ptと横這いで推移する一方、「輸出向け新規受注(46.2)」は同▲3.6ptと大幅に低下しており、製造業同様に外需向けで悪化の動きが鮮明になるなど、米中関係の悪化懸念が受注動向の重石となったとみられる。上述したように、製造業においてはディスインフレ圧力が広がる動きがみられるものの、「投入価格(49.4)」は前月比+0.4pt上昇する動きがみられるとともに、こうした動きを反映して「出荷価格(47.8)」も同+0.5pt上昇しており、サービス業や建設業においては緩やかに物価上昇圧力が強まる動きが確認できる。また、経済活動が拡大していることを反映して「雇用(45.2)」と前月比+0.2pt上昇しており、製造業において雇用調整圧力が強まる状況と対照的な動きをみせているものの、依然として50を大きく下回る水準に留まるなど、雇用拡大にはほど遠い状況にある。よって、個人消費を中心とする内需は勢いを欠く推移が続くと見込まれるとともに、根強いディスインフレ圧力が続く可能性は高い。

図表2
図表2

この結果、製造業と非製造業を合わせた総合PMIは50.0と前月(50.6)から低下しており、9月にかけて緩やかに底入れの動きを強めてきた流れは変化している。7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+4.8%、前期比年率+4.5%と供給サイドをけん引役にした動きが続いていることが確認されている(注1)。なお、需要サイドは個人消費も固定資本投資もともに力強さを欠く推移をみせるなか、中国当局が米中摩擦の激化を念頭に、米国以外の国や地域向けの輸出を活発化させることで対米輸出の減少の影響を相殺させており(注2)、外需への依存を強めている様子がうかがえる。今回の米中首脳会談を通じて米中関係の緊張緩和が図られたことを受けて、当面は緊張再燃が企業マインドの重石となった状況の解消が進むことが期待される。さらに、中国政府の発表によれば米中双方が関税の上乗せ分の停止期間を1年間延長することで合意したとされ、フェンタニル問題を理由とする追加関税の引き下げ(20%→10%)も重なり、米国の中国からの輸入品に対する関税は20%に引き下げられる。仮にこの税率が適用されれば、米国がASEAN(東南アジア諸国連合)主要国などに課す相互関税とほぼ同率となり、これまで中国の輸出を支えたとみられる『迂回輸出』の必要性は低下する。一方で、トランプ氏は追加関税の引き下げを加味した場合の中国に対する関税率が「47%」になると発表したが、米国政府に拠れば、これはトランプ1次政権時代に中国に対して課した約25%の追加関税、相互関税の一律分(10%)、フェンタニル問題を理由とする追加関税(10%)、そして、従来からの最恵国待遇に関連した関税率を合わせたものとしている。よって、トランプ2次政権発足以降に追加的に課された関税の水準は他のアジア新興国とほぼ同水準であるなか、足元の人民元相場は上昇しているが、主要貿易相手国通貨に比べてそのペースは緩やかなものに留まるなど、輸出競争力は高止まりしている。こうした状況を勘案すれば、当面の中国景気は外需への依存度を一段と強める展開が続くと見込まれる。ただし、そうした動きは再びトランプ氏の『逆鱗』に触れることも予想されるほか、米中摩擦を再燃させる一因となる可能性には引き続き注意が必要である。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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