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2025.10.28
アジア経済
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トランプ関税
韓国景気底入れも追加利下げ期待高いが、そのハードルは高い
~政策支援が景気底入れを促すも反動に懸念、一方で不動産高やウォン安が利下げのハードルに~
西濵 徹
- 要旨
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韓国金融市場では、「トランプ関税」による景気悪化懸念から中銀による追加利下げへの期待が高まっている。さらに、李在明政権は企業統治改革や株式市場活性化策を進めており、世界的なAI関連投資の活発化も追い風にKOSPIは最高値を更新するなど株式市場は好調さをみせる。その一方、ウォン相場は米中摩擦のほか、米韓間の通商協議や為替問題などを理由に上値が重いなど対照的な動きをみせている。
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トランプ関税の本格発動による景気への悪影響が懸念されたが、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.75%と1年半ぶりの高い伸びとなるなど景気は底入れしている。輸出は底堅く推移するとともに、政策支援なども追い風に個人消費や固定資本投資など内需の堅調さも確認された。しかし、政策支援など一時的な要因による面が大きく、今後は関税発動の影響や政策効果の一巡が懸念される状況にある。
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その一方、足元では中銀の利下げ実施を受けて家計債務は増大して不動産価格の高騰も続いており、中銀は金融緩和に慎重姿勢をみせる。今後の利下げの判断はこれまで以上に困難さが続くであろう。
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このところの韓国金融市場では、『トランプ関税』が韓国経済に悪影響を及ぼす懸念が広がるなか、中銀による景気下支えに向けた追加金融緩和への期待がくすぶる。さらに、李在明(イ・ジェミョン)政権は商法改正を通じて企業の取締役にすべての株主に対する説明責任を負わせるコーポレートガバナンス(企業統治)改革を推進するとともに、その後も株式譲渡課税を据え置くなど株式市場の活性に取り組んでいる。また、李氏は大統領選の期間中、株式市場において韓国企業が相対的に低く評価されている状況(コリアディスカウント)の解消により主要株式指数を倍増(いわゆる『KOSPI5000』)させる方針のほか、大統領任期中に毎月100万ウォンを国内株式に投資する方針を公約に掲げた。これらの動きが追い風となり、株式市場では個人投資家による株式投資が活発化している。そして、国際金融市場においては全世界的なAI(人工知能)関連投資の拡大を期待する向きが強まるなか、外国人投資家による関連企業への投資による資金流入の動きも活発化している。その結果、主要株式指数(KOSPI)は最高値を更新するなど活況を呈している。

このように株式市場は活況を呈する動きをみせる一方、通貨ウォンの対ドル相場は対照的に上値の重い動きをみせている。なお、国際金融市場においてはトランプ米政権の政策運営の不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測も追い風に、米ドル安が意識されやすい状況が続いている。こうした状況にもかかわらず、ウォンの対ドル相場は上値が抑えられる展開が続いており、このところの米中摩擦の再燃が意識される動きがみられたことを受けて、地理的に中国と近いことに加え、中国を最大の輸出相手とする韓国経済にとって悪影響が伝播しやすいことが警戒された可能性がある。また、年明け以降のウォン相場を巡っては、トランプ米政権との通商協議において為替がその対象になるとの見方を反映してウォン相場が上昇基調を強める動きがみられたものの、結果的に為替が協議の対象となる事態は回避された。その一方、米国は韓国に対する相互関税を当初案の25%から15%に引き下げることで合意したものの、その際に盛り込まれた3,500億ドルの対米投資について米韓双方で認識のズレが表面化している。米国側は韓国企業による直接投資を希望する一方、韓国側は当該額のファンドを設立する方針を示しているとされ、今月末に韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に合わせた合意を模索するも協議は難航しており、こうした事態もウォン相場の重石になっているとみられる。

上述したように、金融市場が中銀による追加利下げ観測を強める背景には、トランプ関税などを理由に景気に下押し圧力が掛かることを警戒しているとみられる。しかし、7-9月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+4.75%と前期(同+2.73%)から加速して1年半ぶりの高い伸びとなるとともに、中期的な基調を示す前年同期比でも+1.7%と前期(同+0.6%)から加速して5四半期ぶりの高い伸びとなるなど、足元の景気が底入れの動きを強めている様子が確認されている。トランプ関税の本格発動を前にした輸出駆け込みの動きに一服感が出るも、引き続き輸出は拡大基調が続くなど足元の景気を下支えしている。さらに、李政権が実施した現金給付をはじめとする消費喚起策の効果発現に加え、インフレ鈍化や中銀による断続的な利下げ実施の効果も追い風に、個人消費は大きく上振れするとともに、景気下支えを目的とする公共投資の進捗の動きは固定資本投資を押し上げるなど、内需の堅調さも確認されている。ただし、足元の個人消費の堅調さは政策支援によるところが大きく、失業率は低水準で推移しているものの、この背景には若年層を中心に労働市場への参入意欲が後退している(経済的な困難や激しい競争を理由に多くのことをあきらめざるを得ない世代として「N放世代」と称する)ことも影響している。その結果、先行きは政策効果の一巡による反動が見込まれるほか、トランプ関税の本格発動を受けて輸出に下押し圧力が掛かることも予想されるなど、内・外需双方で景気の足を引っ張ることが見込まれる。よって、足元の景気底入れの動きが中銀の政策運営に影響を与える可能性は低いと判断できる。

しかし、中銀にとっては依然として追加利下げのハードルが高い状況が続いている。その背景に首都ソウルを中心とする不動産価格の高騰がある。韓国は元々、アジア太平洋地域のなかでも家計債務のGDP比が相対的に高く、その大宗を住宅ローンが占めるなど、不動産市況に左右されやすい傾向がある。さらに、ここ数年は首都ソウル南部の江南(カンナム)区を中心とする不動産価格の高騰が社会問題化しており、中銀は昨年にその『元凶』である受験競争の是正に向けた入試制度改革に関する提言を行った経緯もある。こうしたなか、昨年以降の断続的な利下げ実施を受けて、足元の家計債務残高は拡大ペースを加速させるとともに、首都ソウルを中心に不動産価格は上昇基調を強めている。その結果、中銀は先週23日に開催した定例会合でも、政策金利を3会合連続で据え置き慎重な姿勢を維持している(注1)。中銀は追加利下げに含みを持たせる考えをみせているが、足元では中銀の政策委員がタカ派に傾斜する動きもあり、そのタイミングの判断は難しい状況が続くと予想される。

注1 10月23日付レポート「韓国、株高に踊るも、不動産高やウォン安が中銀の手足を縛る」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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