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2025.10.23
アジア経済
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韓国、株高に踊るも、不動産高やウォン安が中銀の手足を縛る
~中銀は追加利下げに含みも、政策委員のタカ派は増加、政策の手足が縛られる展開が続く可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国銀行(中銀)は23日の会合で政策金利を2.50%に据え置くことを決定した。同行は昨年以降に計4回の利下げを実施したが、今年7月以降は効果を見極めるべく3会合連続で様子見姿勢を維持している。
- 足元の景気はトランプ関税の影響で輸出が下振れする動きがみられるほか、米中協議の不透明感も高まっている。インフレ率は目標近傍で推移するなど追加緩和は可能な環境にあるが、ソウルを中心とした不動産高騰や家計債務の拡大が中銀の慎重姿勢の一因となっている。株式市場はAI投資や企業統治改革を背景に活況を呈しており、KOSPIは最高値を更新する一方、ウォンはドルに対して上値が重く、輸入物価上昇によるインフレ懸念はくすぶる。
- 声明文では、景気下振れリスクを意識しつつ利下げスタンスを維持する考えを示している。会合後の記者会見で、李昌鏞総裁は不動産高騰を理由に即時利下げを見送ったと説明し、今後は半導体市況や米中協議、金融市場動向を注視すると述べている。ウォン安と外貨準備高の低下が進むなか、中銀は追加利下げに含みを持たせたが、その判断は難しい局面が続くことが予想される。
韓国銀行(中銀)は、23日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を2.50%に据え置くことを決定した。同行は昨年10月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切り、その後も今年5月まで計4回、累計100bpと断続的な利下げを実施するなど金融緩和を進めてきた。その一方、同行は7月の定例会合で過去の利下げによる効果を見定めるべく様子見に転じ、8月の前回会合、今回と3会合連続で金利を据え置いている。
このところの韓国経済を巡っては、トランプ米政権の関税政策に翻弄される展開が続いている。韓国経済にとって対米輸出は輸出全体の約2割を占めるとともに、名目GDP比でも7%弱に達するなど、その動向は景気を大きく左右する。米国は当初、韓国に対する相互関税を25%としたものの、その後の二国間協議を経て15%に引き下げられており、関税による影響は懸念された状況に比べて軽減されることが期待される。なお、トランプ関税の本格発動を前にした駆け込み需要を反映して、外需が景気を下支えしている様子がうかがえる。しかし、今月上中旬(20日まで)の輸出額は前年同月比▲7.8%と大きく下振れしており、トランプ関税の本格発動により景気の足を引っ張る影響が顕在化している。さらに、足元では米中協議の行方に不透明感が高まっており、両国は今月末に韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に併せて首脳会談を予定しているものの、依然として協議には紆余曲折が見込まれる。米中協議の動向は、米中双方への輸出依存度が高い韓国経済にも影響を与えると見込まれ、予断を許さない状況にある。

このように先行きの景気の不確実性は高まっていることに加え、昨年後半以降のインフレ率は時に上下に振れるも、中銀が定めるインフレ目標(2%)の近傍で推移しており、コアインフレ率も同様の動きをみせていることも、中銀の昨年以降の断続的な利下げ実施を後押ししてきた。直近9月のインフレ率は前年同月比+2.1%、コアインフレ率も同+2.0%とともに目標近傍で推移しており、中銀にとっては一段の金融緩和に動きやすい環境にある。こうした状況にもかかわらず、中銀が3会合連続で金利を据え置くなど様子見姿勢を維持している背景には、不動産バブルの懸念が再燃している。韓国は元々、アジア太平洋地域のなかでも家計債務のGDP比が相対的に高く、その大宗を住宅ローンが占めるなど、不動産市況に左右されやすい傾向がある。さらに、ここ数年は首都ソウル南部の江南(カンナム)区を中心とする不動産価格の高騰が社会問題化しており、中銀は昨年にその『元凶』である受験競争の是正に向けた入試制度改革に関する提言を行った経緯もある(注1)。こうしたなか、昨年以降の断続的な利下げ実施に加え、金融市場においては景気の先行き不透明感を理由に一段の利下げに動くとの期待が高まったことを受けて、足元の家計債務残高は拡大ペースを加速させるとともに、首都ソウルを中心に不動産価格は上昇基調を強めている。


さらに、金融市場においては中銀による追加利下げへの期待に加え、李在明(イ・ジェミョン)政権が商法改正により企業の取締役にすべての株主への説明責任を負わせるコーポレートガバナンス(企業統治)改革を推進し、その後も株式譲渡課税を据え置くなど株式市場の活性化に取り組んできたほか、世界的なAI(人工知能)関連投資の拡大を期待した動きも重なり、主要株式指数(KOSPI)は上昇基調を強めて最高値を更新するなど活況を呈している。また、李氏は大統領選において、株式市場において韓国企業が相対的に低く評価される事態(コリアディスカウント)の解消と主要株式指数を倍増(いわゆる『KOSPI5000』)させる方針に加え、任期中に毎月100万ウォンを国内株式に投資する方針を公約に掲げた。こうした動きも追い風に、韓国株式市場においては個人投資家による株式投資が活発化しているほか、外国人投資家による資金流入も活発化しており、目標実現に向けた動きも進展している。ただし、株式市場の活況とは対照的に、国際金融市場においてはトランプ米政権の政策運営の不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ実施も追い風に米ドル安が意識されやすい状況にもかかわらず、通貨ウォンの対ドル相場は上値の重い展開が続いている。ウォン安は輸出競争力の向上を通じて景気を押し上げることが期待される一方、韓国は食料品やエネルギーなど生活必需品を輸入に依存しており、輸入物価の押し上げによるインフレ圧力を増幅させることが懸念される。こうした事情も、景気の先行きに不透明感が山積しているにもかかわらず、中銀が追加利下げに躊躇する一因になっていると考えられる。


会合後に公表した声明文では、今回の決定について「インフレが安定するなか、景気を巡る不確実性は依然として高いが消費と輸出を中心に改善が続いている上、不動産価格や家計債務に与える影響やウォン相場の動向などを注視する必要があり、現行水準での維持が妥当」と前回会合と同じ理由を挙げた。その上で、世界経済について「トランプ関税の影響が顕在化し始めるなかで緩やかに鈍化している」とした上で、先行きは「米中協議の動向やトランプ関税の行方、主要国の政策運営の影響を受ける」との見通しを示している。一方、同国経済は「建設投資の低迷にもかかわらず、個人消費の回復や輸出の好調さが景気を押し上げている」としつつ、先行きは「内需の回復が見込まれる一方、トランプ関税が輸出に与える影響は徐々に拡大する」として「今年の経済成長率は+0.9%、来年は+1.6%」との見通しを据え置いた。同時に「上下いずれにも振れる不確実性は高まっている」との認識も示している。また、物価動向について「ウォン安にもかかわらず、需要の弱さや原油価格の安定を理由にインフレ率は2%前後に留まる」との見通しを示しつつ、「国内外の景気動向、ウォン相場、原油価格、政府の物価安定化策の影響を受ける」としている。そして、金融市場について「概ね安定しているが、ウォン相場や金利のボラティリティはやや高まっている」との認識を示した上で、「家計債務の拡大ペースは鈍化しているが、ソウル周辺を中心とする不動産価格や取引量は再び拡大している」との認識を示している。そして、先行きの政策運営について「景気の下振れリスクを軽減すべく利下げスタンスを維持しつつ、国内外の政策運営の変化を注視し、物価と金融市場の安定への影響を検証しながら、さらなる利下げのタイミングとペースを調整する」と引き続き追加利下げに含みを持たせる考えをみせている。

また、会合後に記者会見に臨んだ中銀の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定について「全会一致ではなかった」とした上で、前回会合同様に「辛星煥(シン・ソンファン)委員が利下げを主張した」ことを明らかにした。ただし、先行きの政策運営について「4人の政策委員が利下げへの道を開くべき」とする一方で「2人が維持すべき」と主張したとして、前回会合に比べて慎重派が1人増えているものの、「政策運営はデータ次第」との考えを示した。また、足元の景気について「潜在成長率を下回っている」との認識を示す一方、「仮に今日利下げを行えば不動産価格の高騰を招く可能性があった」として、慎重な見方を示した。その上で、「次回会合に向けては半導体サイクルの動向、米中協議の行方を注視する」としつつ、「それ以上に金融市場の動向を注視する必要がある」との考えを示している。そして、先行きの政策運営について「現時点で来年も利下げ局面が続くかを話すのは時期尚早」としつつ、「家計債務に関する懸念は諸施策によって緩和しつつある」との認識を示している。なお、ウォン相場について「ボラティリティの高さを注視している」とした上で、「韓国人による海外投資がウォン安を招いている」、「米韓合意による対米輸出を巡る不確実性もウォン安の一因」、「円安もウォン安を招く一因になっている」としつつ、「仮にウォン安が進んでも物価安定が続くと見込まれる」としている。しかし、「ソウルの不動産価格は高過ぎる」、「不動産価格の急上昇は景気全体に悪影響を与える」とする一方、急上昇する株価について「他の国に比べれば高過ぎることはない」としつつ、「緩和サイクルが資産価格を押し上げていることは懸念される」との見方を示している。ウォン安が進む背後では、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算されるなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが懸念される動きもみられる。その意味では、中銀は追加利下げに含みを持たせる考えをみせているが、そのタイミングの判断は難しい状況が続くと予想される。

注1 2024年9月12日付レポート「韓国の激烈な受験競争(SKY)は韓国中銀の利下げを阻むか?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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