トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

中国による対米迂回輸出の検証

~半導体関税による世界経済の減速リスク~

前田 和馬

要旨
  • 足下における中国の輸出は、対米輸出の落ち込みをEUやASEAN向けで補うことで堅調さを保っている。一方、ASEAN諸国やインドでは対米輸出と対中輸入の増加が同時に生じており、中国から輸入した部品や最終財を活用して、対米輸出を拡大している可能性がある。

  • 米国においてASEAN諸国やインドからの輸入が拡大している財の特徴をみると、「相互関税の対象から概ね除外されている」ほか、「一部の財はもともと比較優位を持っていなかった」ことが挙げられ、迂回輸出の懸念が強く残る。

  • 特にスマホやノートPCなどの情報関連財において、米国の輸入は中国からアジア新興国へシフトしている。今後発動が見込まれる半導体関税の実施、或いはトランプ政権による迂回輸出の取締り強化は、ASEAN諸国等の対米輸出の減少を招き、最終的には中国の輸出減速へと繋がる懸念がある。

安定している米国の輸入と中国の輸出

一連のトランプ関税にも関わらず、米国の名目輸入は大きな落ち込みを示していない(図表1)。2025年7月における米国の輸入金額は前年比+1.4%(6月:-0.2%)と、1~3月期の駆け込み需要の反動減を示しつつも、2024年対比では堅調さを保っている。この間、中国の輸出をみると、直近8月は+4.3%(7月:+7.1%)と堅調さを保っており、国・地域別では米国向けが大きく減少する一方、それを補う形でASEANやEU向けの輸出が伸びている(図表2)。

図表1,2
図表1,2

各国・地域の2025年4~6月期における対中・対米貿易動向をみるために、図表3は横軸に対米輸出額、縦軸に対中輸入額それぞれの前年変化を示したものだ。日本やEUの対米輸出がトランプ関税を背景に小幅な増加に留まる一方、これらの国・地域の対中輸入額は増加しており、中国による米国向けの輸出財が他の先進国に流入しているとみられる。一方、ベトナムやタイなどのASEAN諸国、及びインドなどは対米輸出と対中輸入の双方が同時に増加している。

中国が米国向けの財をEUなどの先進国に向けている点に違和感はない一方、消費者嗜好や購買力の違いを踏まえると、こうした財がアジア新興国においても強い需要があるのかはやや疑問が残る。むしろ、ASEAN諸国等における対中輸入の拡大は対米輸出増加の裏返しであるかもしれない。すなわち、中国から輸入した部品を加工し米国へ輸出する、或いは中国からの完成品をそのまま米国へ輸出する(高関税を回避するための「迂回輸出」)可能性が考えられる。本稿では米国の品目別輸入データを用いて、こうした迂回輸出の可能性を検証する。

図表3
図表3

ASEAN諸国やインドは追加関税が課されない品目の輸出を拡大

まず、米国における中国とそれ以外の貿易相手との輸入動向を確認するため、輸入品目を6桁のHSコード(約5,500品目)を用いて下記の3グループに分類する。

  1. 米国の対中輸入が減少した一方、中国以外からの輸入が増加した品目

  2. 米国の対中輸入が減少したほか、中国以外からの輸入も減少した品目

  3. その他の品目(中国からの輸入が増加した品目や中国からの輸入実績がない品目など)

図表4は米国における2025年4~6月期の輸入額の前年変化を、上記品目別に分解したものである。品目①は中国とその他の国が競争関係にあり、対中関税による競争条件の変化が他国の輸出を誘発したものとみられる。こうした押し上げ効果はASEANや台湾などのアジア地域で顕著だ。一方、メキシコやEUも米国において中国の市場シェアを奪っているものの、品目②の押し下げ効果によって、全体の変化は緩やかに留まっている。なお、品目②は中国とその他の国が補完関係にある(例えば関連する部品同士)、或いは全世界的な関税等を背景に米国内の需要が減少した品目と考えられる。他方、日本や韓国への影響は総じて限定的に留まっており、これらの国々は米国市場で中国企業とさほど競合していない、すなわち対中関税引き上げによる漁夫の利が少ない可能性を示唆している。

図表4
図表4

次に、2025年4~6月期における実効関税率の変化と輸入金額の変化を確認する。図表5は各品目を関税率の変化(上昇幅)毎に分類し、輸入額の変化を集計したものだ。中国からの輸入は、追加関税が20%或いは30%程度課されている品目で大きく減少している。これは米国が対中輸入の広範な品目に20%のフェンタニル関税(不法薬物対策)、半導体や医薬品等を除く一部の品目には更に10%の相互関税(合計で30%の追加関税)を課しているためだ。一方、ASEAN諸国や台湾、インドなどからは関税が追加的にはほぼ課されていない品目、すなわち相互関税の対象外とみられる品目の輸入が増加している。また、日本や韓国でもこうした傾向は確認されるものの、その程度はその他のアジア諸国よりは弱く、また自動車の追加関税率であった25%前後の品目で減少が目立つ。

図表5
図表5

もちろん、従来から中国とASEAN諸国等が米国市場で競合する財を生産しており、対中関税の大幅な引き上げがASEAN諸国等の競争条件を改善させ、市場シェアの拡大に結び付いた可能性はある。この点を検証するため、国連が算出している2024年時点のRSCA(顕示対象比較優位)指数別に(注1)、輸入額の変化を集計したのが図表6である。RSCA指数は-1~1の値を取り、1に近いほどその国が比較優位を持つ輸出財であるため、相対的に競争力を持つ財といえる。

まず、米国の対中輸入は(中国の)RSCA指数が0.4近傍の財が大きく減少しており、トランプ関税によって中国が比較優位を持っていた財に影響が及んでいることがわかる。また、メキシコや台湾は従来から比較優位が強い財の対米輸出を増加させており、米国による対中関税の引き上げを背景に輸出競争力を持つ財の米国市場シェアを拡大しているといえる。一方、ASEAN諸国に関してはRSCAが高い財の輸出が増える一方、比較優位が弱い財、或いは比較劣位にある財の輸出も相対的に増やしている。例えば、マレーシアやインドネシアの対米輸出の増加は従来の比較優位との関係性が弱く、一部に迂回輸出の可能性が示唆される。なお、日本からの輸入も比較劣位にある財(医薬品及び医薬製品や電動機・同部品)などの増加がみられるが、対日輸入の全体的な規模と比べると、その変化幅は限定的に留まっている。

図表6
図表6

半導体関税が世界経済の減速リスク

最後に、ASEAN諸国やインドが具体的にどのような財の対米輸出を増やしているのかを確認する。標準国際貿易分類(SITC2桁)に基づくと、米国の対中輸入は2025年4~6月期において前年から359億ドル減少しており、このうち46%はスマホなどの「電気通信及び録音装置」、或いはノートPCを含む「事務機及びデータ処理機」といった情報通信機器である。前述したとおり、これらの機器の多くはASEANやインドなどの相互関税の対象から除外されているとみられるものの、対中フェンタニル関税20%の対象にはなっており、中国とそれ以外で大きな関税差が生じている。

具体的な品目として、スマートフォン(HSコード:8517130000)とノートPC(同、8471300100)の輸出動向を示したのが図表8~9だ。スマホは2024年末からインドの対米輸出が拡大しはじめており、対中関税の発動を見据えて米大手スマホメーカーが生産移管を先行して進めていた。とはいえ、生産に必要な多くの部品を中国のサプライーチェンに依存しているとみられており、これが足下におけるインドの対中輸入拡大に繋がったとみられる(注2)。他方、ノートPCはASEAN諸国からの輸出が2023年以降に増加傾向にあり、25年3月に入るとその規模が急拡大した。PCメーカーはトランプ関税以前より中国からベトナム等への生産移管を進めていたとみられ(注3)、トランプ政権の対中関税措置を受けてそのスピードを加速したとみられる。ただ、ASEANからのノートPCの輸出金額は数か月で3倍以上も膨らんでおり、「数か月の短期間でそのような生産拡大が実現できたのか」、「中国からの輸入品に実質的な加工をほぼ実施せずに輸出していないか」といった疑問は残る。

図表7
図表7

図表8,9
図表8,9

今後の動向としては二つの点が焦点となる。まず、トランプ政権は品目別関税として半導体や医薬品への導入を検討しており、半導体関税にスマホやノートPCなどの情報通信機器が含まれるとなると、ASEAN諸国やインドは低関税のメリットを受けられなくなる。仮に中国とそれ以外の関税率の差が残ろうとも、関税コストの上昇は米国におけるこれらの財への需要を抑制し、米国の個人消費や設備投資を下押しするリスクがある。この場合、ASEAN諸国やインドの対米輸出が減少する結果、中国によるこれらの国への輸出、及び生産も大幅に減少する懸念が強い。この際に景気悪化のリスクが大きいのは、まず輸出が落ち込む懸念が強い中国、次にインドのように部品組み立て工場が立地する国々となる。一方、半導体関連製品の対米輸出を巡って、(迂回輸出を中心に)加工度合いが少ない国であるほど、同産業の生産を担う国内雇用者数が限定的と見込まれるため、景気への影響は抑制されるだろう。

次に、トランプ政権がこうした迂回輸出の取締りを強化するかだ。トランプ政権は7月31日の大統領令において、迂回輸出が判明した場合には貿易合意に基づく相互関税率ではなく、40%の追加関税を課す方針を示しているものの、迂回輸出の具体的な基準は依然示していない。この背景として、トランプ政権以降の急速な政策変更により、米国税関・国境警備局(CBP)の実務的な対応リソースが不足している、或いはインフレ抑制のために迂回輸出を黙認している可能性が考えられる。一方、米中貿易摩擦が激化する、或いは米国のインフレ加速が思ったよりも生じない場合、トランプ政権が迂回輸出の取締りに本腰を入れる可能性がある。取締りが実際に実効性を持つ(持てる)のかは不透明であるが、仮に取締り強化が中国経済の減速を鮮明とする場合、これも世界経済を巡るリスク要因となろう。

【注釈】

  1. 標準国際貿易分類(SITC3桁)に基づく。顕示比較優位指数(Revealed Comparative Advantage: RCA指数)=特定国における対象品目の総輸出に占める割合÷全世界における対象品目の総輸出に占める割合。顕示対象比較優位指数(Revealed Symmetric Comparative Advantage: RSCA指数)=(RCA-1)÷(RCA+1)。

  2. 2025年8月13日付けWall Street Journal「アップルのインド生産、数年来の戦略が結実」。

  3. 大木(2025)「PCの輸出拠点に変貌したベトナム~台湾EMSの操業が相次ぐ~」国際貿易投資研究所フラッシュ。

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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