インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ニュージーランドの景気失速、大幅利下げ観測がNZドルの重石に

~4-6月GDPは3四半期ぶりのマイナス成長、RBNZは大幅利下げを迫られる可能性~

西濵 徹

要旨
  • 世界経済や金融市場はトランプ米政権の関税政策に翻弄されており、対米輸出や中国への依存度の高さを通じてニュージーランド経済にも影響を与える可能性がある。足元の米中関係は最悪期を脱する様子がうかがえるも、先行きについては依然として不透明であり、ニュージーランド経済に対するリスクは残る。
  • ニュージーランド国内では、長期に及んだインフレが落ち着き、RBNZ(中銀)は昨年8月以降に累計250bpの利下げを実施した。しかし、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲3.74%と3四半期ぶりのマイナス成長に転じるなど景気は急失速している。個人消費は緩やかに拡大する一方、公共投資や設備投資、輸出は低迷しており、在庫の積み上がりが成長率を下支えするなど、景気実態は数字以上に悪いと捉えられる。
  • 産業全体の大半で生産が下振れしており、農林漁業関連の生産低迷は物価上昇圧力を招く可能性がある。また、不動産市場は低迷が続いており、隣国オーストラリアが不動産バブル懸念に見舞われる状況とは対照的である。金融市場では、米ドル安を背景にNZドル相場は底堅く推移したが、景気失速を受けて追加での大幅利下げ観測が強まることが予想され、先行きは上値の重い展開となる可能性が高まっている。

このところの世界経済や金融市場は、トランプ米政権の関税政策に翻弄されている。トランプ政権下の米国は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に、関税政策を用いるとともに、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境構築を図っている。こうしたなか、米国のニュージーランドに対する貿易赤字は小幅に留まるため、米国は同国への相互関税を一律分と同じ10%としている。ただし、ニュージーランド経済にとって対米輸出額は名目GDP比で2%強、輸出全体に占める対米比率は13%弱に達しており、トランプ関税による直接的な影響は相応に生じる可能性に注意する必要がある。さらに、ニュージーランドの輸出全体に占める中国向け比率は4分の1を上回るなど、中国経済への依存度が高く、米中関係の行方は間接的に同国の輸出に悪影響を与えることが懸念される。足元の米中関係は、両国による協議を経て上乗せ関税や輸出規制の一時停止措置が延長されており、最悪期を過ぎている様子がうかがえる。しかし、今後の行方については依然として不透明なところが少なくない上、その動向に揺さぶられる可能性に注意が必要な状況は変わらない。

その一方、ニュージーランドではここ数年、長期化するインフレが懸案事項となってきたなか、RBNZ(中銀)は物価抑制を目的とする金融引き締めを余儀なくされたため、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなった。しかし、インフレ率は2022年半ばに一時30年ぶりの高水準に達したものの、一昨年以降は鈍化に転じた。さらに、昨年後半以降はRBNZが定めるインフレ目標(2~3%)の範囲内に収束するなど、落ち着きを取り戻す動きが確認された。よって、RBNZは昨年8月に約4年ぶりの利下げに動くとともに、その後も今年5月の定例会合まで6会合連続の利下げを実施した。なお、RBNZは今年7月の定例会合で利下げを一時休止させるも、8月の定例会合では2会合ぶりの利下げに動いており、昨年8月以降の累計の利下げ幅は250bpに達するなど金融緩和を進めている(注1)。また、8月会合の決定では大幅利下げを主張する向きがあったほか、先行きの追加利下げを示唆する動きがみられるなど、金融市場において通貨NZドル相場に上昇圧力が掛かるなかでNZドル安を志向している様子もうかがえた。

図表
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なお、RBNZが『ハト派』姿勢を強める動きをみせた背景には、足元の景気が失速した可能性があることに言及していた。こうしたなか、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲3.74%と前期(同+3.82%)から3四半期ぶりのマイナス成長に転じるとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も▲0.6%と5四半期連続のマイナス成長で推移しており、足元の景気が急失速している様子が確認されている。インフレ鈍化による実質購買力の押し上げに加え、RBNZによる断続的な利下げ実施による債務負担の軽減も重なり、個人消費は緩やかに拡大している。一方、年度前半における公共投資の進捗が一巡していることを反映して政府消費は拡大ペースが鈍化しているほか、景気の先行き不透明感の高まりが設備投資や不動産投資の足かせとなるなど、固定資本投資は下振れしている。また、足元の貿易統計では、トランプ関税の本格発動を前にした駆け込みの動きが確認されたものの、世界経済を巡る不透明感の高まりが輸出の足かせとなる形で下振れしている。こうしたなか、在庫投資による成長率寄与度が前期比年率ベースで+2.01ptとプラスとなるなど、在庫の積み上がりの動きが成長率を下支えしている。よって、足元の景気実態は数字以上に厳しい状況にあると捉えられる。

図表
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分野ごとの生産動向を巡っても、全16産業のうち10産業で生産が下振れする動きが確認されており、幅広い分野で景気が下振れしている様子がうかがえる。足元のインフレ率はRBNZが定める目標域内で推移しているものの、農林漁業関連の生産が下振れする動きが確認されており、先行きは供給不足が食料品など生活必需品を中心とする物価上昇圧力を招く可能性がある。その一方、RBNZによる断続的な利下げ実施にもかかわらず、新築住宅着工許可件数は依然としてピークの約半分に留まるとともに、不動産価格も過去2年以上ほぼ横這いで推移してピークを2割程度下回っている。隣国オーストラリアにおいては、不動産価格が過去最高値を更新する展開が続くなどバブル化が警戒されており、RBA(オーストラリア準備銀行)による利下げを阻む一因となっている様子がうかがえるものの、ニュージーランドについてはまったく状況が異なっていると捉えられる。

図表
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金融市場においては、トランプ米政権の政策運営に対する不透明感に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ実施も追い風に米ドル安が意識される状況が続いている。よって、ニュージーランドの通貨NZドルについては、RBNZによる断続的な利下げ実施に加え、先行きも追加利下げに動く可能性を示唆しているにもかかわらず、対米ドル相場は米ドル安が強く意識されてきたことを反映して底堅い動きをみせてきた。しかし、先行きについては景気の急失速が確認されたことで、RBNZが想定以上の大幅利下げに動く可能性が意識されると見込まれ、NZドルは上値の重い展開をみせることが予想される。足元の景気を巡っては、持ち直しを示す経済指標がみられるものの、当面のNZドル相場については力強さを欠く推移が続く可能性に留意する必要がある。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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