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2025.09.17
アジア経済
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インドネシア中銀は追加利下げも、為替介入の背後で新たなリスク
~中銀の独立性や財政運営への懸念に加え、為替介入により外貨準備高が急減している可能性~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は、16~17日に開催した定例会合で政策金利を25bp引き下げて4.75%とした。昨年からの利下げは累計6回、150bpに達するほか、3会合連続の利下げと金融緩和を進めている。足元のインフレ率が目標域内で推移していることが背景にあるが、反政府デモの激化や政治的不安定さが懸念される。
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なお、政府はデモ沈静化のため、国会議員の住宅手当廃止や内閣改造を実施し、スリ=ムルヤニ前財務相を解任し、後任にはプルバヤ氏を起用している。他方、政府と中銀は協定を締結し、そのなかで中銀が事実上財政支援を可能とする枠組みが導入された。さらに、国会では中銀の独立性を揺るがす法改正案が議論されており、金融市場の懸念が高まる可能性がある。中銀はルピア相場の安定へ断続的に為替介入を実施するが、足元の外貨準備高は減少しており、長期化すれば経済の基礎的条件悪化を招く恐れもある。
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中銀は世界経済の不透明感を指摘しつつ、国内経済は外需や政府消費の拡大を追い風に堅調と評価した。また、ペリー総裁は今回の決定について経済成長支援を強調するとともに、追加利下げの可能性や政府との連携姿勢を示した。しかし、中銀が政府に忖度する動きを強めたことは、中銀の独立性や財政運営に対する懸念が高まなかで、先行きのルピア相場や政策運営の安定性へのリスクに繋がる可能性がある。
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インドネシア銀行(中銀)は、16~17日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を25bp引き下げて4.75%とすることを決定した。同行は昨年から断続的に利下げを実施しており、今回の決定で計6回、累計150bpに達する。さらに、今回は3会合連続の利下げであり、金融緩和を進めている様子がうかがえる。また、今回の決定により政策金利は2022年10月以来の水準となる。同行が断続的な利下げに動いている背景には、一昨年半ば以降のインフレ率が中銀の定める目標域内で推移しており、足元においては目標(3±1%)の中央値を下回る伸びに留まるなど落ち着いた推移をみせていることがある。しかし、同国では先月末にかけて、国会議員の厚遇問題のほか、近年の中国からの輸入拡大による競争激化が製造業を中心とする雇用悪化を招いていることなどを理由として、反政府デモの動きが激化した(注1)。治安当局はデモ沈静化へ強硬姿勢に動いたが、そのなかで死者が発生したことを受けて政府は情報統制を強化するも、政府のそうした姿勢はかえって反発を強めたほか、デモが全土に広がるとともに、一部が暴徒化する事態に発展した。

その後、プラボウォ大統領は反政府デモのきっかけとなった国会議員に対する住宅手当の廃止を決定したほか、治安当局に対する処分を発表するなど、早期の事態収束を目指す動きをみせた。そして、今月8日に内閣改造を実施し、暴徒化したデモの一部が標的としたスリ=ムルヤニ前財務相を解任した(注2)。その上で、後任の財務相にエコノミスト出身で国有証券会社CEO(最高経営責任者)や預金保険公社会長を歴任したプルバヤ氏を起用した。また、政府と中銀は新たな協定を公表したが、そのなかでは政府による中銀預託金利を引き上げ、プラボウォ政権が公約に掲げる政策実現に向けて中銀が事実上の財政支援を行うことが可能となる。さらに、国会では、2023年に施行された金融セクター開発強化法の改正案が議論されている。現地報道などに拠れば、中銀に経済成長と雇用創出を促す取り組みを求めるとともに、中銀の総裁や理事などの解任を大統領に勧告する権限を国会に与えるなど、中銀の独立性に対する疑念が一段と高まりかねない内容が盛り込まれている。金融市場では、トランプ米政権の政策運営に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測が米ドル安圧力を招いているものの、スリ=ムルヤニ氏の解任や中銀を巡る動きをきっかけにルピア安圧力が強まった。当局はルピア相場の安定に向けて、断続的に為替介入を実施している模様である。しかし、先月末時点における外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への体制の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算され、今後も為替介入が長期化すれば経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が一段と悪化することが懸念される。


金融市場では、ルピア相場を巡る懸念などを理由に金利を据え置くとの見方が強まっていたものの、上述したように中銀への『圧力』が強まるなかで一段の金融緩和を迫られた可能性がある。なお、会合後に公表した声明文では、世界経済について「不確実性を理由に弱含んでおり、今年通年の成長率は見通し(3%)を下回るかもしれない」とした上で、金融市場について「懸念されるボラタイルな状況が続く」との見通しを示している。一方、同国経済について「景気は強含んでいる」としつつ「個人消費は力強さを欠くも、外需の想定外の上振れや政府消費の拡大が見込まれる」として、通年の経済成長率も「+4.6~5.4%の中央値を上回ると見込まれる」との見通しを据え置いている。また、対外収支について、通年の経常赤字も「GDP比▲1.3~▲0.5%に抑えられる」との見通しを維持するとともに、ルピア相場については「中銀の安定化策や輸出関連収入のルピア転換義務化に加え、為替介入も追い風に安定している」ほか、「今後も為替介入を継続する」としている。そして、物価動向については「今年も来年も目標域内で推移する」との見通しを維持する一方、足元の金融市場について「貸出金利の低下が遅い」との認識を示しており、中銀がこれまで以上に景気下支えに注力する姿勢を強めている可能性が考えられる。
また、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、今回の決定について「経済成長を支えるため」とした上で、「足元のルピア相場がファンダメンタルズを反映したものとの確証に基づくもの」との考えをみせた。その上で、先行きの政策運営について「インフレ率やルピア相場を考慮しつつ、経済成長を押し上げるべく追加利下げの余地を検討する」とし、「貸出や経済成長を支えるべくマクロプルーデンス政策を緩和し、金融緩和を進める」との考えを示すなど、さらなる利下げに含みを持たせている。そして、「金利の決定にはFRBの動きを考慮している」とし、「より良い経済成長を実現する必要があり、さらなる政策支援が必要」との認識を示した上で、「安定を維持しつつ、経済成長を支援する政策を全面的に展開する」として経済成長を重視する考えを前面に押し出している。また、「我々は慎重かつ節度ある原則に基づきあらゆる方策を取る」とした上で、「政府による新たな景気刺激策を歓迎している」と述べるなど、これまで以上に政府と歩調を合わせる考えを強調した。上述したように、中銀の独立性や財政運営に対する懸念が高まるなか、中銀がこれまで以上に政府に対する『忖度』を強める動きをみせたことは、先行きのルピア相場を取り巻く環境に影響を与えるとともに、政策運営を自ら厳しくする可能性がある。足元の金融市場は、米ドル安が意識されるなかで大きな問題とはなっていないものの、市場を取り巻く環境が変化した際の対応は困難さが増すことに要注意と捉えられる。
注1 8月29日付レポート「インドネシアで反政府デモ激化、民主化の行方に不透明感も」
注2 9月9日付レポート「インドネシア財務相解任、デモ収束への「生け贄」か、財政運営に懸念」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

