- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- オーストラリア、景気底入れ確認で金融政策や豪ドルはどうなる?
- Asia Trends
-
2025.09.03
アジア経済
アジア経済見通し
アジア金融政策
オーストラリア経済
為替
トランプ関税
オーストラリア、景気底入れ確認で金融政策や豪ドルはどうなる?
~インフレ鈍化と利下げで家計消費がけん引役に、インフレ再燃懸念は豪ドル相場を下支えする展開も~
西濵 徹
- 要旨
-
- 世界経済はトランプ米政権の関税政策に翻弄されている。トランプ関税によるオーストラリアへの直接的な影響は限定的と見込まれる。しかし、オーストラリアは中国経済への依存度が高く、米中関係の行方が間接的に影響を与える可能性はあり、その動向を注視する必要性は依然として高いと捉えられる。
- 一方、オーストラリア国内では長引くインフレと高金利が景気の足かせとなる展開が続いてきた。しかし、足元の物価は安定しており、RBA(中銀)も利下げに踏み切っている。これにより、家計消費や不動産市場は活性化するなど、景気は底入れの兆しをみせてきた。4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.43%と加速し、輸出や家計消費が景気をけん引しており、政府消費に依存してきた状況から変化している。
- しかし、利下げの副作用として不動産市況は再び上昇しているほか、インフレ再燃の懸念も高まっている。RBAは追加利下げに慎重になる可能性もあり、当面の豪ドル相場は底堅い推移が続くと見込まれる。
このところの世界経済や金融市場は、トランプ米政権の関税政策に翻弄されている。米国は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正に向けて関税政策を用いるとともに、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境構築を図っている。こうしたなか、オーストラリアは米国にとって貿易黒字国であり、トランプ米政権はオーストラリアに対する相互関税を一律分と同水準の10%としている。さらに、オーストラリア経済にとって対米輸出額は名目GDP比1%未満である上、輸出全体に占める対米比率も5%未満に留まるため、トランプ関税による直接的な影響は限定的と見込まれる。その一方、オーストラリアにとっては中国が最大の輸出相手であり、米中関係の行方や中国景気の動向に左右されやすい特徴を有する。米中関係については、両国の協議を経て上乗せ関税や輸出規制の一時停止措置が延長されるなど、最悪期を過ぎている様子がうかがえる。よって、外需を巡る不透明感が景気の足かせとなる懸念については、当面のところは後退していると捉えられる。
その一方、ここ数年のオーストラリアにおいては、長引くインフレが懸案事項となってきたほか、RBA(中銀)も長期にわたって物価抑制を目的とする金融引き締めを余儀なくされるなど、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる懸念に直面してきた。しかし、一時は33年ぶりの高水準に達したインフレも一昨年初めを境に鈍化に転じており、昨年アルバニージー政権が実施した物価抑制策の効果も重なり、RBAが定める目標(2~3%)の域内に収まるなど落ち着きを取り戻している。さらに、物価の安定を受けて、RBAは今年2月に4年3ヶ月ぶりの利下げを実施し、その後も5月、8月と断続的な利下げを行った。よって、景気の足かせとなってきた物価高と金利高の共存状態の解消に向けた歩みは前進している。ただし、インフレは落ち着きを取り戻す一方、RBAの利下げ実施を追い風に不動産市場への資金流入が再び活発化して価格の上昇ペースが加速しており、早くも副作用とも言える動きがすでに現れている。

こうしたなか、オーストラリア経済は持ち直しの動きが確認されている。4-6月の実質GDP成長率は+2.43%と引き続きプラス成長で推移するとともに、前期(同+1.03%)から伸びが加速している。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.8%と前期(同+1.4%)から加速して7四半期ぶりの伸びとなっており、景気は持ち直しの動きを強めている。需要項目別では、トランプ関税の本格発動を前にした『駆け込み』の動きを反映して輸出は2四半期ぶりの拡大に転じるとともに、8四半期ぶりの高い伸びとなるなど景気底入れの動きをけん引している。また、インフレ鈍化やRBAによる利下げ実施を受けた実質購買力の押し上げに加え、雇用環境の堅調さも追い風に家計消費を下支えしている。さらに、安全保障環境が厳しさを増すなかで連邦政府による国防費の大幅引き上げを受け、政府消費も大きく拡大している。その一方、RBAによる利下げにもかかわらず、トランプ関税を巡る不透明感が重石となるなかで設備投資需要は力強さを欠くとともに、公共投資の進捗鈍化も重なり固定資本投資は低迷している。このところのオーストラリア景気を巡っては、物価高と金利高の共存長期化を理由に頭打ちの様相を強める展開が続いてきたものの、足元ではそうした状況に変化の兆しがうかがえる。

分野ごとの生産動向を巡っても、家計消費の堅調な動きを反映して小売、卸売関連のほか、金融市場における取引が活発化していることも追い風に、金融関連や不動産関連など幅広くサービス業の生産が押し上げられている。さらに、過去1年にわたって低迷が続いた鉱業部門の生産も、最大の輸出相手である中国景気が比較的堅調な動きをみせているほか、トランプ関税の発動を前にした輸出駆け込みの動きも追い風に幅広く拡大する動きが確認されている。また、農林漁業関連の生産はペースこそ鈍化するも拡大傾向を維持しており、物価安定とともに、景気下支えにも寄与している様子がうかがえる。その一方、建設業の生産は力強さを欠いているが、不動産関連の活動はRBAによる追加利下げへの期待から拡大基調を維持している。また、家計消費の底入れにもかかわらず製造業の生産は減少基調が続いており、過去数年にわたって豪ドル高が続いたことによる価格競争力の低下などを理由に、製造業において外資系企業などが同国からの撤退の動きを強めたことも影響しているとみられる。

RBAは先月の定例会合において年明け以降3回目の利下げを決定するとともに、ブロック総裁は先行きの追加利下げに言及する一方、慎重姿勢を維持する姿勢をみせている(注1)。一方、足元のインフレ鈍化を巡っては、アルバニージー政権が実施した物価抑制策によって促されてきたほか、先行きについてはその効果が減退することが見込まれる。アルバニージー政権は今年度(2025-26年度)予算でも物価抑制策や減税を盛り込むなど一連の政策を継続しているものの、先行きのインフレ率は加速に転じることは避けられないと予想される。こうしたなか、7月のインフレ率は早くも加速に転じる動きが確認された(注2)。RBAが四半期ベースの物価統計を重視していることを勘案すれば、この動きが政策判断に与える影響は不透明ではある。しかし、金融市場においてはRBAが一段の利下げに慎重になるとの見方が強まり、豪ドルの対米ドル相場は底堅く推移しているほか、日本円に対しては上値を探る展開をみせている。足元の景気は底入れするとともに、そのけん引役も政府消費から家計消費など民間需要にシフトしている様子が確認されたことは、RBAのハト派姿勢を後退させる可能性が考えられ、当面の豪ドル相場は底堅い動きをみせると見込まれる。

注1 8月12日付レポート「RBAが全会一致で利下げ、ブロック総裁は会見で追加緩和に言及」
注2 8月27日付レポート「オーストラリア・7月物価は予想外に加速、金融政策や豪ドルは?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
豪州・2月失業率悪化も、非正規主導で雇用拡大(Asia Weekly(3/16~3/19)) ~台湾中銀は8会合連続の金利据え置きも、中東情勢の長期化を念頭に将来の利上げに含み~
アジア経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀が2024年5月以来の利下げ、慎重な金融緩和に舵 ~インフレ見通しの上方修正も利下げ実施、レアル相場と株式相場は中東情勢次第の展開が続くか~
新興国経済
西濵 徹
-
NZ景気回復の足場は乏しく、早期利上げの可能性は一層低下 ~オセアニア通貨は「オージー(豪ドル)」>「キウィ(NZドル)」の様相を強める展開が続くか~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回 ~中東情勢の悪影響を警戒、中銀の姿勢は正しい一方、政府との「板挟み状態」が激化する懸念も~
アジア経済
西濵 徹
-
豪中銀が2会合連続の利上げ、追加利上げの行方は不透明に ~決定は「5対4」の僅差で当面は様子見姿勢へ、「有事の米ドル買い」も豪ドル相場の重しとなるか~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
豪州・2月失業率悪化も、非正規主導で雇用拡大(Asia Weekly(3/16~3/19)) ~台湾中銀は8会合連続の金利据え置きも、中東情勢の長期化を念頭に将来の利上げに含み~
アジア経済
西濵 徹
-
NZ景気回復の足場は乏しく、早期利上げの可能性は一層低下 ~オセアニア通貨は「オージー(豪ドル)」>「キウィ(NZドル)」の様相を強める展開が続くか~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回 ~中東情勢の悪影響を警戒、中銀の姿勢は正しい一方、政府との「板挟み状態」が激化する懸念も~
アジア経済
西濵 徹
-
豪中銀が2会合連続の利上げ、追加利上げの行方は不透明に ~決定は「5対4」の僅差で当面は様子見姿勢へ、「有事の米ドル買い」も豪ドル相場の重しとなるか~
アジア経済
西濵 徹
-
中国経済、2026年の出だしは良好も、先行きに不透明要因山積 ~供給サイド優位の状況は変わらず、統計改訂で景気認識や政策対応が影響を受ける可能性も~
アジア経済
西濵 徹

