- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- マレーシア4-6月GDPは前期比年率+8.77%と景気底入れを確認
- Asia Trends
-
2025.08.15
アジア経済
アジア経済見通し
アジア金融政策
マレーシア経済
為替
トランプ関税
マレーシア4-6月GDPは前期比年率+8.77%と景気底入れを確認
~インフレ鈍化で内需堅調の一方、在庫の積み上がりや外需の低迷など不透明要因は山積~
西濵 徹
- 要旨
-
- 世界経済と金融市場は、トランプ米政権の関税政策に翻弄されている。米国はマレーシアへの相互関税を当初比較的低く設定したが、交渉の難航が懸念された。しかし、最終的に税率は19%で合意し、医薬品などは関税対象外となった模様である。一方、マレーシアは米国への関税を大幅に引き下げ、非関税障壁も緩和するほか、米国からの設備購入やLNG輸入拡大のほか、対米投資を行うことで合意した模様である。
- マレーシア景気はトランプ関税の発動を前に頭打ちしたものの、本格発動の延期を受けて4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+8.77%と前期(同+2.95%)から大きく加速しており、足元における景気底入れが確認されている。インフレ鈍化の動きは内需を押し上げる一方、輸出は鈍化しているほか、在庫の大幅な積み上がりが確認されており、先行きの景気に対する懸念材料となることに注意する必要がある。
- 中銀は関税の影響を考慮して利下げを実施し、政府も物価高対策として現金給付を決定しており、個人消費を下支えすると期待される。一方、公共投資の一巡や在庫圧縮による反動の影響が懸念される。さらに、中国からの輸入依存度の高さは外需への不透明要因となることに注意が必要である。金融市場では、米ドル安を受けてリンギ相場は底堅く推移するが、外部環境の変化に警戒する必要がある。
このところの世界経済や金融市場は、トランプ米政権の関税政策に翻弄されている。米国は今年4月、貿易赤字の縮小を目的として、すべての国に一律10%、一部の国や地域に税率を上乗せする相互関税を課すことを表明した。米国は、同国に対する相互関税を24%と周辺のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国をはじめとするアジア新興国のなかでも低めに設定した。しかし、同国は経済構造面で外需依存度が相対的に高く、対米輸出額も名目GDP比で1割強に及ぶため、仮に高関税が課されれば実体経済に深刻な影響が出ることは避けられない。米国は相互関税を一旦発動させるも、直後に上乗せ分を90日間停止した上で各国・地域と個別に協議を行ったが、先月に米国は同国の相互関税を1pt引き上げて25%とする書簡を送付した。その後の協議を経て、相互関税は19%と周辺国と同水準とすることで合意するとともに、マレーシア政府の発表に拠れば医薬品は関税の対象外とされるほか、一部の農産品(カカオ、天然ゴム、パーム油)の扱いも焦点となっている模様である。一方、マレーシアは米国からの輸入品のうち98.4%に対する関税の引き下げ、ないし撤廃するとともに、一部の非関税障壁の緩和を迫られた模様である。また、マレーシアは、国内の半導体や宇宙航空、データセンターに関連して米国企業から今後5年間で最大1,500億ドルの設備購入を行うほか、年間34億ドル相当の液化天然ガス(LNG)を購入し、貿易不均衡の是正に向けて今後5年間で700億ドルの対米投資を行う内容が盛り込まれたとされる。よって、マレーシア経済にとっては最悪の事態は避けられているが、外需を巡る環境はこれまで以上に厳しくなることが懸念される。

こうしたなか、年明け以降のマレーシア経済は、トランプ関税の本格発動を前に頭打ちする動きが確認された(注1)。しかし、上述のように相互関税の上乗せ分の延期により高関税が課される事態が回避されたことは景気の下支え要因となることが期待される。事実、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+4.4%と前期(同+4.4%)から横這いで推移するなど、底堅い動きをみせている。なお、前期比年率ベースの成長率は+8.77%と前期(同+2.95%)から2四半期連続のプラス成長となるとともに、大幅に加速するなど勢いを増している。年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めており、実質購買力の押し上げが個人消費の拡大を促している。さらに、トランプ関税により外需に不透明感が高まったものの、公共投資の進捗を反映して固定資本投資が押し上げられるとともに、政府消費も堅調な推移をみせるなど、幅広い内需拡大の動きが足元の景気をけん引している様子がうかがえる。一方、周辺国などではトランプ関税の本格発動を前にした『駆け込み』の動きが輸出を押し上げたものの、同国では輸出は鈍化するなど勢いを欠いている。よって、内需の堅調さを反映して輸入が拡大したことを受けて、純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲15.67ptの大幅マイナスとなっている。その一方、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで+7.94ptと大幅プラスとなるなど在庫の積み上がりが確認されており、先行きは在庫圧縮の動きが景気の足かせとなることが懸念される。

先行きについては、中銀が先月の定例会合においてトランプ関税による景気への悪影響を軽減すべく利下げに動いたほか(注2)、アンワル政権も生活必需品を中心とする物価高への対策としてすべての成人に対する現金給付の実施を決定しており(注3)、個人消費を下支えすることが期待される。なお、4-6月の生産動向を巡っては、公共投資の進捗が建設業の生産を大きく押し上げる動きが確認されており、先行きはそうした動きが一巡することで反動が出る可能性に留意する必要がある。また、輸出は力強さを欠く推移をみせているにもかかわらず、製造業の生産は堅調に推移しており、その背後で在庫が積み上がっている可能性を勘案すれば、先行きは在庫圧縮の動きが生産の足かせとなることも考えられる。一方、アジア新興国のなかには異常気象の余波で農林漁業関連の生産に悪影響が出る動きがみられるものの、同国においては生産拡大の動きが確認されており、生活必需品を中心とする物価が高止まりしている状況が緩和する可能性はある。中銀は先月末、トランプ関税を巡る不透明感が景気の足かせとなる可能性を勘案して、今年通年の経済成長率見通しを+4.0~4.8%と従来見通し(+4.5~5.5%)から下方修正している。上述したように、米国と相互関税の税率引き下げで合意しており、中銀の想定に比べて幾分下押し圧力が後退することが期待される。今年前半の経済成長率は+4.4%と中銀見通しの下限を上回る伸びとなっているが、先行きの景気には好悪双方の材料が混在するとともに、外需に不透明感がくすぶるなかでは高い成長を期待することは難しい。さらに、中国からの輸入依存度の高さを勘案すれば、中国による『デフレの輸出』やそれに伴う競争激化が外需の制約要因となる可能性にも留意する必要がある。

足元の金融市場は、トランプ米政権の政策運営を巡る不透明感が米ドル安を招くなか、同国の通貨リンギの対ドル相場は底堅い動きをみせている。先行きについても米ドル相場の行方がリンギ相場の動向を左右する展開が見込まれる一方、同国の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が乏しいなどファンダメンタルズ(基礎的条件)が比較的脆弱であることを勘案すれば、外部環境の変化に注意を払う必要性が高まっている。

注1 4月18日付レポート「マレーシア経済もトランプ関税を前に頭打ち、先行きも不安要因山積」
注2 7月9日付レポート「マレーシア中銀、トランプ関税警戒で「予防措置」として利下げ実施」
注3 7月24日付レポート「マレーシア・アンワル政権が「物価対策」ですべての成人に現金支給へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
韓国中銀、政策委員は当面据え置き示唆も、新たなリスクの懸念 ~不動産高騰に加え、レバレッジ投資が株価急騰の一因に、家計債務やウォン相場にリスクは残る~
アジア経済
西濵 徹
-
タイ中銀が「背水の陣」で予想外の利下げ、構造問題に対応できるか ~バーツ高に加え、構造問題への対応で財政政策と協調も、余地が限られるなかで困難さが増すか~
アジア経済
西濵 徹
-
オーストラリアは1月もインフレ確認、RBAはタカ派傾斜を強めるか ~豪ドル高・NZドル安が続くなか、RBAのタカ派傾斜は豪ドル相場を支える展開も~
アジア経済
西濵 徹
-
中国商務部、日本の20企業・団体への軍民両用品の輸出禁止 ~中国は経済的威圧を着実に強化、日本として中国リスクの低減に向けた取り組みは不可避~
アジア経済
西濵 徹
-
米連邦最高裁が相互関税に違憲判決、新興国はどうなる? ~当面は追い風となり得るが、米国の「脅し」が通じにくくなるなか、日本としての立ち位置も重要に~
新興国経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
韓国中銀、政策委員は当面据え置き示唆も、新たなリスクの懸念 ~不動産高騰に加え、レバレッジ投資が株価急騰の一因に、家計債務やウォン相場にリスクは残る~
アジア経済
西濵 徹
-
タイ中銀が「背水の陣」で予想外の利下げ、構造問題に対応できるか ~バーツ高に加え、構造問題への対応で財政政策と協調も、余地が限られるなかで困難さが増すか~
アジア経済
西濵 徹
-
オーストラリアは1月もインフレ確認、RBAはタカ派傾斜を強めるか ~豪ドル高・NZドル安が続くなか、RBAのタカ派傾斜は豪ドル相場を支える展開も~
アジア経済
西濵 徹
-
堅調な動きをみせる豪ドル相場の背景とは ~RBAのタカ派傾斜、労働市場の堅調さ確認、ハト派に傾くRBNZとの違いも影響している~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・1月はロシアからの輸入が大幅下振れ(Asia Weekly(2/16~2/20)) ~金価格の上昇を受けて、輸出入双方で金・宝飾品関連が活発化する動きも~
アジア経済
西濵 徹

