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2025.07.09
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マレーシア中銀、トランプ関税警戒で「予防措置」として利下げ実施
~対米協議の難航も予想され、景気見通しの悪化が見込まれるなかで予防措置に舵~
西濵 徹
- 要旨
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- マレーシア中銀は9日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ2.75%とした。同行の利下げは5年ぶりとなる。同行はこれまでインフレ抑制やリンギ相場の安定などを目的に引き締め姿勢を維持してきたが、米トランプ政権の関税政策による景気への不確実性が高まるなか、予防措置として方針転換に動いた。
- 米トランプ政権は同国への相互関税を当初24%としたが、構造面で輸出依存度や対米輸出への依存度が高く、実態経済への影響は必至である。こうしたなか、米国は来月から適用する相互関税を25%に引き上げたほか、通商協議では様々な分野で強い要求を突き付けた模様である。同国政府は楽観姿勢を崩さないが、ベトナムとの合意内容や交渉過程などを勘案すれば、今後の協議も難航する可能性は高いであろう。
- 中銀は今回の決定について、国内外で米国の関税政策による悪影響が懸念されるなか、予防措置としての利下げを行ったとしている。足下のリンギ相場は堅調だが、今後の動向には注意が必要になるであろう。
マレーシア・ネガラ銀行(中銀)は、9日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて2.75%とすることを決定した。同行による利下げはコロナ禍の2020年7月以来で丸5年ぶりとなるほか、過去2年強にわたって金利を据え置く引き締め姿勢を維持してきたが、方針転換に動いた。足元の物価動向を巡っては、ここ数年のインフレを招いた商品高の一巡に加え、中銀がコロナ禍以降も引き締め姿勢を維持したため、比較的落ち着いた推移をみせている。こうした状況にもかかわらず、中銀はこれまで引き締め姿勢を維持してきた。その背景には、過去数年の国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)によるタカ派姿勢を反映して米ドル高圧力が強まり、通貨リンギ安による輸入物価の上昇によるインフレが警戒されたことがある。他方、年明け以降の金融市場では、米トランプ政権の政策運営を巡る不透明感を反映して米ドル相場は調整し、それを反映してリンギ相場は底入れに転じたものの、その後も中銀は引き締め姿勢を維持した。これは、コロナ禍を経て同国の公的債務残高は法定上限(GDP比65%)近傍で推移するなど財政余力が低下しており、アンワル政権は財政の持続可能性の向上を目的とする増税や補助金削減に動いており、物価への影響が警戒されたことがある。しかし、足下のインフレは世界経済の不透明感による商品市況の調整なども追い風に、引き続き落ち着いた水準で推移している。

こうしたなか、足下の世界経済や国際金融市場は米トランプ政権の関税政策に翻弄され、同国もその『標的』となっている。同国は米国の貿易赤字国として14番目に位置しており、米国は同国に対する相互関税の税率を当初24%と周辺国に比べて低めに設定した上で、上乗せ分の延期期間中に個別協議を進めてきた。なお、同国は経済構造面でASEAN(東南アジア諸国連合)のなかで輸出依存度が相対的に高い上、対米輸出額は名目GDP比10%強に及ぶため、仮に高関税が課されれば実体経済に深刻な悪影響が出ることは避けられない。さらに、ここ数年の同国では、中国の景気鈍化を受けて対中輸出が頭打ちする一方、米中摩擦が激化する背後で対米輸出は拡大する対照的な動きをみせており、米国経済への依存を強めてきた。こうしたなか、米トランプ政権は協議期限の直前に各国に書簡を送るとともに、来月1日付で適用する相互関税を明らかにし、そのなかで同国に対する税率を25%と当初案から1pt引き上げた。なお、同国政府に拠れば、一連の協議に際して米国からデジタル課税や電子商取引、医療基準、ハラル認証、政府調達などに関連して強い要求が行われた模様である。その上で、米国との協議を巡って「『レッドライン』を越えることはない」との認識を示す一方、「取引のための取引はしない」としつつ「未解決の課題は協議を経て解決可能と確信している」との考えを示している。ただし、米国とベトナムの合意では相互関税を20%、第三国から同国経由の輸出品への関税を40%としており、この水準が『ベンチマーク』となることが予想される(注1)。よって、今後予定される協議が難航する可能性は低くないと見込まれる。

こうしたことから、中銀はこれまで引き締め姿勢を維持したものの、米国の関税政策など実体経済への不透明要因が山積するなか、景気下支えに向けた予防措置として利下げに動いたものと捉えられる。会合の公表した声明文では、世界経済について「引き続き拡大が見込まれる」としつつ、「関税政策を巡る不確実性や地政学リスクの影響を受けるとともに、国際金融市場や商品市況のボラティリティを高める」との見方を示している。一方、同国経済については「足下では堅調な内需を下支え役とする拡大が続いている」とした上で、「通商協議が良好な形で進めば輸出の改善が見込まれる」としつつ、「景気見通しへのリスクバランスは下振れ方向にある」との認識を示している。また、物価動向については「世界的な物価上昇圧力の後退に加え、内需による押し上げも小さく緩やかな推移が続く」とした上で、「構造改革による物価への影響も全体的に抑制される」との見通しを示している。他方、リンギ相場については「引き続き外部環境に左右される」とした上で、「良好な景気動向と構造改革、資金流入促進への取り組みがリンギ相場を下支えする」との従来からの見方を維持している。そして、政策運営について「外部環境を巡る不確実性が景気に影響を与える可能性があるなか、予防措置として利下げを実施する」とした上で、「引き続き景気動向と物価を巡るリスクバランスを評価しつつ状況を注視する」との考えを示した。足下のリンギ相場は米ドル安の動きを反映して堅調な動きをみせるが、先行きは米ドル安が下値を支える可能性はあるものの、中銀によるさらなる利下げが意識されることで上値が抑えられることも考えられる。

注1 7月3日付レポート「ベトナムが米国との通商協議で合意」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

