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2025.07.14
欧州経済
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欧州経済全般
トランプ関税
米EU間の関税協議は延長戦に
~米国はEUに30%の関税示唆、EUは米国に報復関税や反威圧措置を示唆~
田中 理
- 要旨
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- トランプ大統領は12日、7月9日の交渉期限を経過していたEUに対する関税を、8月1日以降、30%に引き上げる方針を明らかにした。これは4月に発表した20%の相互関税を上回るが、5月に示唆した50%の関税を下回る。EU側はこれを受け、一時停止の期限が迫る報復関税の発動を8月初旬まで延期し、8月1日までの関税協議の合意を目指す。双方の報復に発展した第一期トランプ政権時の関税協議と比べると、米国側は最終的には協議期限を延長、EU側は報復措置を自制している形で、今のところ全面衝突を回避している。米国側はこれまでのEU側の譲歩が不十分との認識で、さらなる譲歩を促している。EU側はトランプ大統領を過度に刺激しないように配慮しつつ、追加の報復関税や反威圧措置の発動も示唆する硬軟を取り混ぜ、米国側の譲歩を引き出そうとしている。8月1日までに関税協議が合意できない場合、更なる延長戦に入るのかどうかは予断を許さない。
米国のトランプ大統領は12日、8月1日以降、EUからの輸入品に一律30%の関税を課す方針を明らかにした。これは4月2日にトランプ大統領が発表したEUに対する一律20%の相互関税を上回る。当初、日本を下回っていた関税率は、引き上げ示唆後に逆転した(日本は24→25%、EUは20→30%)。なお、トランプ大統領は5月23日に、6月1日以降、EUへの関税を50%に引き上げると発言し、その後、関税引き上げの期限を7月9日に延期していた。そこを起点に考えれば、EUに示唆する関税率は引き下げられたと言うこともできる。
米国は4月5日に一律10%の相互関税を開始し、4月9日にEUを含む約60ヵ国に上乗せ関税を発動するのと同時に、中国以外への追加関税を90日間停止することを発表した。その期日となる7月9日までに、米国が関税協議に合意したのは、英国とベトナムの2ヵ国にとどまる。7月7日には日本や韓国など14ヵ国に対して、7月9日にもブラジルやフィリピンなど8ヵ国に対して8月1日から適用される新たな関税率を通知した。EUとの関税協議は7月9日の交渉期限を経過した後も継続していたため、合意に向けて前進しているとの期待も一部にあったが、結局、合意に至らなかった。
米国との関税協議は8月1日までの延長戦に入った形で、EUも交渉継続を優先して報復措置を自制している。米国側の上乗せ関税の90日間停止に合わせて、EU側も3月12日に発動された鉄鋼・アルミニウム関税に対する210億ユーロの報復措置の発動を90日間停止した。その停止期限が7月15日に迫るが、EU側は8月1日の新たな期限までに米国と関税協議で合意することを目指し、報復措置の発動を8月初旬まで延期する方向で調整している。EUはまた、米国との交渉が決裂した場合、4月の相互関税引き上げに対する報復措置として、米国からの720億ユーロ相当(当初の950億ユーロ相当からは減額)の輸入品に対する関税引き上げを準備しているが、こちらの発動も見送る。もっとも、EU内も一枚岩ではない。報道によれば、ドイツなどが産業界への悪影響を懸念し、早期に関税協議で合意すべきとの考えなのに対して、フランスなどは安易な妥協をせずに交渉を継続すべきと考えているようだ。
米EU間の貿易は、財収支がEUの大幅黒字・米国の大幅赤字に対して、サービス収支がEUの大幅赤字・米国の大幅黒字となっている。米国が関税を引き上げるEU製品の総額が約3800億ユーロに上るのに対して、EU側が関税引き上げを準備する米国製品の総額は1000億ユーロに満たない(前述の210億ユーロ+720億ユーロ=930億ユーロ)。8月1日までに関税協議で合意しない場合、EU側は米国企業を公共調達契約の対象から除外するなど、米国のハイテク企業や金融業などを対象とした反威圧措置を発動する可能性も示唆している。
なお、米国とEUは第一期トランプ政権の時にも関税の引き上げを巡って全面衝突した。米国が2018年3月に国家安全保障を理由にEUからの鉄鋼・アルミニウム製品の関税を引き上げたことを受け、EU側は報復措置として米国製品の関税を引き上げた。その後、2018年7月にトランプ大統領と欧州委員会のユンケル委員長(当時)が、追加関税の一時停止と交渉継続で合意した。だが、米国とEUが鉄鋼・アルミニウム関税で暫定合意に達したのは、トランプ大統領退任後の2021年10月で、米国はEU向けの関税を一部撤廃し(一定量まで関税を免除する関税割当を導入)、EUは米国への報復関税を停止した。また、WTOを舞台に続いていた米EU間の航空機補助金を巡る係争も、第一期トランプ政権時代に双方が関税を引き上げる事態に発展した。EUの航空機に対する補助金がWTO協定違反と認定されたことを受け、米国は2019年10月にEUの航空機に10%、その他の工業製品や農産品に25%の追加関税を課した。その後、2020年3月には航空機に対する追加関税を15%に引き上げたほか、トランプ大統領の退任間近の2021年1月には関税引き上げの対象品目を追加した。これに対してEUは、米国による航空機に対する補助金もWTO協定違反と認定されたことを受け、2020年11月に米国の航空機や農産品などに最大25%の追加関税を発動した。トランプ大統領退任後の2021年6月、米国とEUは報復関税を5年間停止し、補助金問題の恒久的解決を目指すことで合意した。
双方の報復に発展した第一期トランプ政権時の関税協議と比べると、米国側は大幅関税引き上げを示唆しつつも、最終的には協議期限を延長し、EU側は報復措置を自制している形で、今のところ全面衝突を回避している。米国側はこれまでのEU側の譲歩が不十分との認識で、更なる譲歩を促している。対するEU側もトランプ大統領を過度に刺激しないように配慮しながらも、関税協議がまとまらない場合には、追加の報復関税や反威圧措置の発動も示唆する硬軟を取り混ぜ、米国側の譲歩を引き出そうとしている。8月1日までに関税協議が合意できない場合、更なる延長戦に入るのかどうかは予断を許さない。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

