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英国次期首相選びの前哨戦

~バーナム氏の国政復帰とその後の展開について~

田中 理

要旨
  • 18日に迫る英下院補選では、次期首相就任を目指すバーナム・マンチェスター市長が国政復帰と党首選への切符を手に入れそうだ。スターマー首相の辞任とバーナム氏の後継首相就任の可能性が高まっている。労働組合に近く、公共サービスを重視するバーナム氏が首相に就任すれば、財政拡張が意識されやすい。金融市場の不安定化を避けるため、バーナム氏も財政運営を巡る発言を軌道修正しているが、スターマー政権時代の緊縮的な財政運営から何らかの変化があると考えるのが自然だ。財政運営の陣頭指揮を執る財務相候補としては、バーナム氏に近いソフトレイバー路線のミリバンド元党首、ブレア改革の踏襲者と目されるストリーティング元保険相、スターマー首相に近いマフムード内相などの名前が挙がる。財務相人事の行方とともに、次期政権がどの程度財政運営を修正するかに注目が集まる。

18日に予定されるイングランド北部メーカーフィールド選挙区の下院補欠選挙では、マンチェスター市長のバーナム氏が首相就任を目指し、国政復帰の機会を窺っている。補欠選挙の結果を占う世論調査は少ないが、公表されている全ての調査で、労働党のバーナム氏がリフォームUKのケニヨン氏をややリードしている。バーナム氏は、過去に英国のEU再加盟に前向きな発言をしたことがあるが、この問題は有権者の間でも依然として意見が割れ、リフォームUKに攻撃材料を提供することにもつながるため、EU再加盟を公約に盛り込んでいない。今回の選挙戦では、政治への信頼回復、経済再生、地方自治拡大、公共住宅の建設、若者のコミュニティ活動支援などを重点政策として掲げている。対するケニヨン氏は、バーナム氏の過去の発言などへの個人攻撃のほか、不法移民規制の強化、公共住宅からの移民の排除、開発制限地域の開発反対、病院建設、経営難のパブへの支援などを掲げている。

リフォームUKは、英国独立党(UKIP)やブレグジット党を率いて英国のEU離脱を扇動したファラージ氏が、離脱確定後の2018年に英国の改革を掲げて新たに旗上げした右派ポピュリスト政党だ。各種の世論調査でリードするなか、次期総選挙での政権奪取を目指し、保守党を離党した大物政治家を招き入れるとともに、極端な政策主張を封印している。こうした同党の現実路線への転換に反発した離党者が、今年2月に新興右派ポピュリスト政党「リストア・ブリテン」を結党した。リストア・ブリテンは今回の補選にも候補者を擁立しており、保守党と労働党の二大政党支配に批判的な有権者の票をリフォームUKと奪い合っている。結果的に、国政選挙の世論調査でも今回の補選の世論調査でも、リフォームUKの支持率が伸び悩んでいる。このままバーナム氏が逃げ切り、国政復帰と次期党首選への切符を手に入れる可能性が高い。

バーナム氏が勝利した場合、速やかにスターマー首相の党首辞任を求め、「党首チャレンジ」を開始するとみられる。5月の統一地方選挙で歴史的な敗北を喫したスターマー首相を取り巻く政治環境は一段と厳しさを増している。11日にはヒーリー国防相とカーンズ軍務担当相が、政府の財政緊縮措置で防衛予算が抑制され、英国の安全保障環境を危険に晒していると批判し、閣僚を辞任した。労働党は下院の多数決を保持しており、労働党の党首選挙は事実上、次の首相選びを意味する。党首選が行われる場合、バーナム氏に加えて、スターマー首相も出馬する意向を示唆しているほか、5月の統一地方選挙後に保険相を辞任したストリーティング氏、先日軍務担当相を辞任したカーンズ氏などの出馬の可能性が取り沙汰されている。

投票は労働党の党員と支持母体である労働組合の構成員が投票権を持ち、郵送で行われる可能性が高い。複数の候補が立候補する場合、各投票で最下位の票を獲得した候補が脱落し、過半数の支持を得る候補が現れるまで投票を繰り返す。後継党首がどのタイミングで判明するかは、党首選の投票日程、候補者の数、過半数確保までに必要な投票回数に左右される。何れにせよ秋の労働党の党大会までには、後継党首が確定することになりそうだ。

2024年7月の総選挙で労働党を地滑り的な勝利に導き、14年振りの政権交代を実現したスターマー首相は、2年余りで退任する可能性が濃厚だ。労働党の支持母体である労働組合からは、中道寄りで緊縮的な政策に固執するスターマー首相とリーブス財務相に対する反発が強い。後継党首選では、労働組合に近く、公共サービスの拡充を重視する穏健左派(ソフトレフト)路線のバーナム氏が勝利する可能性が高い。金融市場では、バーナム氏が拡張的な財政運営に舵を切ることが不安視され、国債利回りに上昇圧力が及びやすい状況が続いている。バーナム氏も金融市場の反応に配慮し、このところ発言を軌道修正しているが、スターマー政権の緊縮的な財政運営から何らかの変化があると見るのが自然だろう。

バーナム政権下の財務相候補としては、党首経験者でもあるミリバンド・エネルギー安全保障ネットゼロ担当相、バーナム氏の国政復帰前の党首チャレンジを見送り、同氏の首相就任への道を開いたストリーティング元保険相、野党時代に影の財務次官(ミリバンド党首時代)や影の財務相(コービン党首時代)を務めたマフムード内相などの名前が浮上している。市場安定に配慮して、リーブス財務相が留任するとの見方も一部にあるが、労働党の党勢凋落を招いた張本人である同氏が再任される可能性は低い。ミリバンド氏はバーナム氏に経済政策での助言をしているとされ、財政規律の重要性を訴えているとされるが、バーナム氏と同じソフトレイバー路線の中心人物で、財政拡張が意識されやすい。ブレア路線の後継者と目されるストリーティング氏が財務相に就任する場合、親ビジネス・財政規律重視・構造改革路線と受け止められそうだ。スターマー首相に近いマフムード氏の場合、スターマー・リーブス路線が踏襲されるとの見方から、財政規律重視と受け止められやすい。財務相人事の行方とともに、次期政権が財政運営をどの程度修正するかに注目が集まる。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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