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2025.06.30
アジア経済
米中関係
アジア経済見通し
中国経済
株価
トランプ関税
中国、ハードデータとソフトデータの動きの乖離が意味するもの
~需要を伴わない生産拡大が続き、市場の楽観に修正が必要となる可能性に引き続き要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの世界経済や金融市場は、米トランプ政権の関税政策などの影響を大きく受けている。米国は自動車や鉄鋼・アルミ製品に追加関税を課し、貿易赤字の是正を目的に相互関税を課す方針を打ち出した。その後に米中の対立が激化し、貿易戦争に発展したが、米中協議を経て緊張緩和の兆しがうかがえる。足元では最悪期を過ぎているものの、今後も協議の行方に揺さぶられる可能性はくすぶる展開が続こう。
- 中国では、米国向け輸出減を受けて、米国以外の国・地域向け輸出増により影響緩和を図る動きをみせるが、輸出全体は頭打ちの様相をみせる。6月の製造業PMIは49.7と3ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る。足元の生産活動は拡大する一方、外需の弱さが重石となっている。さらに、近年の省力化投資の進展を追い風に雇用が伸び悩んでおり、個人消費の回復を妨げる一因となっている可能性がある。
- 一方、6月の非製造業PMIは50.5と50をわずかに上回るなど堅調に推移するが、業種によって明暗が分かれている。建設業は公共投資に支えられる一方、サービス業では業種間の格差が大きく、特に小売や飲食など「コト消費」に関する分野は低迷が続いている。総合PMIは改善傾向を示すが、内需の回復力の乏しさがあらためて確認されており、幅広い分野で雇用不安がくすぶることが消費の足かせとなっている。
- なお、5月の経済統計では小売売上高の伸びが加速するなど個人消費の堅調さが確認されたが、これは当局の政策支援効果によるものであり、持続的な消費拡大には繋がっていない。堅調な株価は個人消費を下支えする可能性はあるが、不動産価格の調整や雇用回復の遅れが家計部門の不安要因となる状況は変わらない。その意味では、現時点において中国景気への過度な楽観は避けるべきであろうと見込まれる。
このところの世界経済や国際金融市場は、関税政策をはじめとする米トランプ政権の政策運営に翻弄されている。米国は、安全保障上の脅威を理由に、自動車や鉄鋼製品、アルミ製品の輸入に追加関税を課している。さらに、貿易赤字の縮小を目的に、すべての国に一律10%、一部の国や地域に非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。なお、米国は4月に相互関税を一旦発動させた。しかし、直後に金融市場が動揺したことを受けて、中国以外の国や地域に対する上乗せ分を90日間延期し、個別に協議を行う方針を示した。他方、中国は報復措置に動くとともに、その後に米中はともに報復措置を展開したことで互いに高関税を課す貿易戦争に発展した。しかし、5月にスイスで実施された米中協議を経て、互いに報復関税を撤廃するとともに、上乗せ分を90日間停止して追加協議を行うことで合意した。とはいえ、その後も米トランプ政権内から協議の行き詰まりを示唆するとともに、米国は中国への半導体輸出制限のほか、留学生に対するビザ(査証)を取り消す動きがみられた。米中首脳による電話協議に加え、英国での閣僚級協議を経て、米中双方がスイス協議での合意事項の履行を確認するとともに、追加的な了解事項で合意したことが明らかにされるなど、米中関係は最悪期を過ぎつつある様子がうかがえる。一連の協議では、中国が世界精製量の大半を独占するレアアース(希土類)と永久磁石が交渉の『切り札』になっていることがあらためて浮き彫りになっており、今後もこの扱いが協議の焦点となる展開が続くであろう。足元の金融市場は、追加的な了解合意による事態打開を期待している向きがあるものの、中国が切り札を易々と譲り渡すとは見通しにくく、この問題を巡って今後もトランプ氏の『暴言(TALO)』と『尻込み(TACO)』が繰り返されることに留意する必要がある。
上述したように、米中関係は最悪期を過ぎつつあると捉えられるものの、中国からの米国向け輸出は前年を大きく下回る伸びが続いており、米国『以外』の国や地域向け輸出を活発化させることにより、対米輸出の大幅減の影響を軽減させている。しかし、足元の輸出は対米輸出の低迷が重石となる形で頭打ちの様相を強めるとともに、米国との協議の行方に不透明感がくすぶるなど外需の行方は見通しが立ちにくい状況にある。こうしたなか、6月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.7と前月(49.5)から+0.2pt上昇するも、3ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る水準で推移しており、最悪期を過ぎるも回復力に乏しい展開が続いている。足元の生産動向を示す「生産(51.0)」は前月比+0.3pt上昇して2ヶ月連続で50を上回るとともに、3ヶ月ぶりの高水準となるなど生産活動を活発化させている様子がうかがえる。また、先行きの生産に影響を与える「新規受注(50.2)」は前月比+0.4pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復する一方、「輸出向け新規受注(47.7)」は同+0.2pt上昇するも引き続き50を大きく下回る水準に留まるなど、外需を中心に回復感に乏しい動きが続く。足元の生産活動が活発化していることを受け、「購買量(50.2)」は前月比+2.6pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回るなど素材、部材に対する需要が拡大するも、「輸入(47.8)」は同+0.7pt上昇するも依然50を大きく下回るなど、海外からの原材料輸入は伸び悩んでいる。よって、中国国内における生産拡大の動きにもかかわらず、中国向け輸出への依存を強める新興国や資源国経済にとって追い風になりにくい状況にあると捉えられる。さらに、生産拡大にもかかわらず「雇用(47.9)」は前月比▲0.2pt低下して雇用調整圧力が強まるなど、当局が推進する更新投資促進策の背後で省力化投資が活発化し、製造業における雇用創出能力が低下しているとみられる。こうした事情も、個人消費の回復力が乏しい動きをみせる一因になっている可能性がある。

他方、製造業に対して比較的堅調な動きをみせてきた非製造業PMIは50.5と前月(50.3)から+0.2pt上昇するとともに、50を上回る水準で推移するなど引き続き堅調な動きをみせている。業種別では、「建設業(52.8)」は前月比+1.8pt上昇して3ヶ月ぶりの水準となるなど底打ちする一方、「サービス業(50.1)」は同▲0.1pt低下して2ヶ月ぶりの水準に留まるなど、業種ごとのバラつきが鮮明になっている。建設業におけるマインド改善を巡っては、インフラ関連を中心とする公共投資の進捗の動きを反映している一方、住宅や商業用不動産、オフィス向け不動産需要の弱さが足かせとなる展開が続いているとみられる。また、サービス業のうち、物流関連や通信関連、ソフトウェア・情報技術関連、金融関連などは堅調な動きをみせる一方、小売関連や運輸関連、観光関連、飲食関連、不動産関連は50を下回る推移をみせるなど対照的な動きをみせている。なお、足元の経済活動は活発化している様子がうかがえるものの、先行きに影響を与える「新規受注(46.6)」は前月比+0.5pt上昇するも引き続き50を大きく下回る推移をみせているほか、「輸出向け新規受注(49.8)」も同+1.8pt上昇するもわずかに50を下回る推移をみせるなど、受注動向は回復の道半ばの状況にある。さらに、内需の弱さがあらためて確認されており、当局による需要喚起策にもかかわらず個人消費の底上げに繋がっていないことに留意する必要がある。そして、全体的な経済活動は活発化しているにもかかわらず「雇用(45.5)」は前月比±0.0ptと横這いで推移するとともに、50を大きく下回るなど調整圧力がくすぶる状況は変わらず、個人消費の足かせとなる懸念は残る。製造業と非製造業を合わせた総合PMIは50.7と前月(50.4)から+0.3pt上昇して50を上回る推移をみせているが、需要がないなかでの生産拡大により改善していることを勘案すれば、実態との乖離が一段と広がっている可能性がある。

実態との乖離という観点では、5月の経済統計においては小売売上高(社会消費支出)の伸びが加速するなど、個人消費が予想外に堅調な推移をみせていることが確認されており(注1)、金融市場はそうした動きを好感している様子がうかがえる。6月の企業マインド統計をみると、製造業では内需向けに回復の動きがみられるものの、これは当局の補助金などを通じた政策支援を受けて需要が喚起される一方、昨年から支援対象とされた自動車需要は頭打ちの様子をみせており、自動車に代わる形で耐久消費財需要が押し上げられているに過ぎない。よって、先行きについては需要が一巡した後にその反動が出る可能性に留意する必要がある。また、非製造業における内需の弱さは、政策支援の対象外であるいわゆる『コト消費』に対する需要が喚起されにくい状況にあることを意味しており、個人消費の動きを巡って色分けが一段と鮮明になっている様子がうかがえる。足元の株価が堅調な推移をみせていることは、資産効果を通じて個人消費を一定程度押し上げる可能性はある。その一方、家計部門における資産の大部分を占める不動産価格は依然として底がみえない状況が続いており、逆資産効果は雇用回復の遅れと相俟って個人消費の足かせとなる展開が続く可能性はくすぶる。ハードデータの堅調さは統計の信頼性に対する懸念を示唆している可能性もあり、現時点において中国景気の行方に過度に楽観的な見方を示すことは難しいと捉えられる。

注1 6月16日付レポート「中国の個人消費は予想外に加速も、バラつきは一段と鮮明に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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