インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米中摩擦に変化の兆しも、中国経済の構造問題克服は困難な展開

~供給サイドがけん引役となるなか、過剰生産能力や不動産在庫など問題山積の状況は変わらず~

西濵 徹

要旨
  • 世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に揺さぶられている。米国は貿易赤字の削減を目的に、中国をはじめとする国・地域に高関税を課す方針を示した。なお、中国は報復措置に動いたため、米中間で関税の応酬が続いて貿易戦争に発展した。しかし、今月の直接協議を経て、米中双方は一部関税を撤廃したほか、上乗せ分も90日間停止して協議を行うことで合意するなど、最悪の事態は回避された。
  • 足元の中国経済は、内需喚起策や輸出先の多様化の動きが下支え役となっている。なお、4月の鉱工業生産は前年比+6.1%、小売売上高も同+5.1%、固定資本投資も年初来前年比+4.0%といずれも伸びが鈍化するなど、底入れの動きに一服感が出ている。耐久消費財や設備投資の動きに陰りがみえつつある。さらに、不動産市場は依然低迷が続くほか、国有企業と民間企業の投資動向も対照的な動きをみせている。
  • 足元の中国景気は引き続き供給サイドをけん引役に安定した動きをみせる。他方、過剰生産能力による輸出多様化の動きは「デフレの輸出」を招くなど、世界的に新たな軋轢を生む可能性がある。その意味では、米中摩擦の緩和による中国経済の安定は望ましい一方、その動向に注意を払う必要性は高まっている。

足元の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に翻弄される展開をみせている。米トランプ政権は、貿易赤字の圧縮を目的に関税を材料にしたディール(取引)を仕掛ける動きをみせている。米トランプ政権は、中国に対してフェンタニル対策を理由に追加関税を課すとともに、米国への生産拠点の回帰を促すべく、自動車や鉄鋼・アルミ製品に対して一律25%の関税を課している。さらに、すべての国に一律で10%を課した上で、一部の国・地域には非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。米トランプ政権は先月に一律分に加え、上乗せ関税も一旦発動させたものの、直後に中国を除く国・地域に対する上乗せ関税を90日延期した。

他方、中国は報復関税を発動したため、その後に米中両国は関税を上乗せするなど報復の応酬に発展した。その結果、米国は145%、中国は125%と互いに高関税を課す貿易戦争に発展した。しかし、その後に米国は対中姿勢を軟化させるとともに、中国も表面的には強硬姿勢を維持するも、実体経済への悪影響を警戒して報復関税の適用を一部除外するなど姿勢の変化をうかがわせる動きをみせた。今月初めの直接協議を経て、米中双方が報復の応酬で引き上げた関税を撤廃することで合意した。具体的には、米国は対中関税を追加関税(20%)と相互関税(34%)を合わせた54%とするも、上乗せ分(24%)を90日間停止する。中国も対米関税を34%とした上で、上乗せ分(24%)を米国同様に90日間停止する。そして、停止期間中に米中両国は貿易障壁の緩和などについて協議するとしている。よって、米国の関税政策をきっかけにこう着状態にあった米中関係は大きく変化している。

なお、中国政府は3月の全人代(全国人民代表大会)において、米中摩擦の激化を念頭に、米国以外の国・地域への輸出多様化に加え、幅広い内需喚起によって景気の下支えを図り、経済成長率目標を5%前後に維持する方針を示した。さらに、先月公表された1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+5.4%、前期比年率ベースでも+4.9%と堅調な動きが確認された。この背景には、耐久消費財の買い替え促進による個人消費の下支えに加え、大規模設備投資の更新促進策により企業の設備投資が押し上げられるなど、内需喚起策の効果が顕在化していることがある。また、トランプ関税の発動を前に、対米輸出に駆け込みの動きが出たことも外需を押し上げた。そして、足元の輸出はトランプ関税の発動を受けて対米輸出が大きく下振れする一方、米国以外の国・地域向け輸出の拡大の動きがその影響を相殺する動きをみせている。よって、こうした動きが経済指標に如何なる影響を与えるかが注目される。

4月の鉱工業生産は前年同月比+6.1%と前月(同+7.7%)から伸びが鈍化しており、対米輸出の駆け込みを反映して底入れの動きを強めた流れに一服感が出ている様子がうかがえる。前月比も+0.22%と前月(同+0.44%)から拡大ペースが鈍化するとともに、昨年3月以来の水準となるなど頭打ちの動きを強めている。分野別では、製造業(前年比+6.6%)で堅調な動きがみられ、なかでもハイテク関連(同+10.0%)の高い伸びが生産全体を下支えしている様子がうかがえる。実施主体別では、国有企業(前年比+2.9%)は力強さを欠くも、株式会社(同+6.6%)や民間企業(同+6.7%)の生産活動の堅調さが足元の景気をけん引している。主要財別では、国内外での発電需要を見越して発電機(前年比+124.2%)や太陽光電池(同+33.4%)は高い伸びをみせるとともに、設備投資需要を反映して産業用ロボット(同+51.5%)も引き続き高い伸びをみせる。そして、耐久消費財の買い替え需要を反映して新エネルギー車(前年比+38.9%)は引き続き高い伸びをみせており、生産活動に必要な切削工作機械(同+15.6%)も堅調に推移している。よって、中国国内の過剰生産能力は解消にほど遠い上、足元の景気は供給サイドをけん引役にした動きが続いていると捉えられる。

図表
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その一方、個人消費の動きを反映する4月の小売売上高(社会消費支出)も前年同月比+5.1%と前月(同+5.9%)から伸びが鈍化しており、鉱工業生産同様に底入れの動きに一服感が出ている。前月比も+0.24%と前月(同+0.47%)から拡大ペースも鈍化しており、そのペースも昨年6月以来となるなど、昨年後半以降に当局が個人消費の喚起を目的とする政策強化に動いてきた勢いに陰りが出る兆しがうかがえる。なお、3月の統計公表に際しては、過去の季節調整値が遡って上方修正されるなど、個人消費の動きが底堅かったとされた。しかし、今回は一転して過去に遡ってわずかに下方修正されており、個人消費の実態をみえにくくさせている。種類別では、耐久消費財の買い替え促進策の動きを反映して、家電製品・AV機器(前年比+38.8%)のほか、通信機器(同+19.9%)で堅調な動きがみられる。さらに、当局による不動産安定化策を追い風に一部の大都市で住宅需要が喚起されていることも追い風に、家具(前年比+26.9%)や建材(同+9.7%)の需要も底打ちしている。そして、宝飾品(前年比+25.3%)やスポーツ・娯楽関連(同+23.3%)も堅調な動きをみせるなど、個人消費は二極化の様相を強めている可能性がある。他方、昨年来の買い替え促進策を追い風に高い伸びをみせた自動車(前年比+0.7%)は伸びが鈍化しており、需要喚起の動きが一巡して息切れ感が出ている様子がうかがえる。

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そして、大規模設備投資の更新促進策を追い風に固定資本投資が押し上げられる動きがみられるなか、4月は年初来前年比+4.0%と前月(同+4.2%)から伸びが鈍化している。当研究所が試算した単月ベースの前年同月比も4月は+3.6%と前月(同+4.3%)から伸びが鈍化しており、底入れの動きに一服感が出ている。前月比も4月は+0.10%と前月(同+0.19%)から拡大ペースは鈍化しており、昨年3月以来のペースとなるなど頭打ちの動きを強めている。実施主体別では、足元の生産活動は民間企業がけん引役であるものの、国有企業(年初来前年比+6.2%)に対して民間投資(同+0.2%)は力強さを欠くなど、対照的な動きをみせる。また、対象別では、設備投資関連(年初来前年比+18.2%)は引き続き高い伸びをみせており、更新投資促進策が追い風になっている状況が続いている。

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なお、4月の不動産投資は年初来前年比▲10.3%と前月(同▲9.9%)から4ヶ月ぶりのマイナス幅となっており、単月ベースの前年同期比も4月は▲11.4%と前月(同▲10.0%)からマイナス幅が拡大して4ヶ月ぶりの伸びに鈍化している。当局による不動産安定化策にもかかわらず、依然として厳しい状況が続いている。主要70都市の新築住宅価格も4月は前月比±0.0%と下落の動きに一服感が出ているものの、中古住宅は引き続き下落基調が続いており、家計部門がバランスシート調整圧力に晒される状況は変わらない。昨年末時点の住宅在庫は、面積ベースで昨年販売分の6年分を上回る水準にある上、販売不振を受けて単位面積の縮小も予想されることを勘案すれば、在庫水準が膨れ上がることも考えられる。中銀(中国人民銀行)は今月、本格的な金融緩和に舵を切るなど市況の追い風となる動きがみられるものの、住宅需要のボリュームゾーンである若年層を中心とする雇用は回復が遅れており、見通しの立ちにくい展開が続く可能性はくすぶる。

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足元の中国景気については、トランプ関税による悪影響が懸念されたものの、需要サイドについては勢いを欠く一方、供給サイドをけん引役に底堅い動きが続いていることが確認された。先行きは米中摩擦の緩和が外需を下支えするとともに、中国当局による輸出先分散化の動きも外需を押し上げるほか、内需喚起の取り組みも景気を支える展開が見込まれる。よって、当面の中国経済は公的部門による支援に依存した動きが続くと考えられる。そして、米中摩擦の緩和も中国経済の安定を促すことが期待される。その一方、世界的には過剰生産能力を追い風にした割安な中国製品が溢れる『デフレの輸出』動きが混乱を引き起こすことで、新たな軋轢が生まれることに注意を払う必要性が高まっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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