インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

冷え切った米中関係は「雪解け」を迎えることができるか

~関係改善に向けた兆しは世界経済の悪化懸念を和らげるも、大幅改善への過大な期待は難しい~

西濵 徹

要旨
  • 米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感が世界経済や国際金融市場を揺さぶる展開が続く。なかでも、米中摩擦の激化は金融市場の混乱や実体経済への悪影響が懸念されている。その後、米国は一部の中国からの輸入品への相互関税適用除外や中国に対する関税引き下げを示唆するなど、対中姿勢を軟化させる動きをみせる。他方、中国は強硬な姿勢を維持する一方、一部の米国からの報復関税の除外を検討するなど関係改善の兆しもうかがえる。市場では米中協議が進展することへの期待が高まっているが、米トランプ政権の政策意図や米中間の根本的な対立構造は深刻化している。米中間の緊張緩和は世界経済の悪化懸念を和らげることは期待される一方、大幅な関係改善への過大な期待は禁物と捉えられる。

このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感に揺さぶられている。米トランプ政権は、すべての国に一律で10%の関税を課すとともに、一部の国を対象に非関税障壁に応じて関税を上乗せする相互関税を課す方針を示した。今月初めには一律部分に加え、上乗せ部分を一旦発動させたが、直後に中国以外の国に対して上乗せ分の発動を90日間延期するなど、政策は二転三転した。その後も、中国による報復措置を受けて米トランプ政権は上乗せ分を大幅に引き上げた結果、米国は中国に対して145%、中国も米国に対して125%と、ともに高水準の関税をかけるなど貿易戦争に突入した。その結果、貿易戦争の激化を懸念して金融市場は大きく混乱するとともに、家計や企業のマインドも急速に悪化しており、実体経済に悪影響を及ぼすことが懸念された。

こうしたなか、米国政府は関税賦課に伴う米国での価格上昇を懸念して、中国から輸入するスマートフォンなどに対して相互関税の適用を除外するなど、対中政策も揺れ動いてきた。さらに、トランプ氏は中国に対する関税の引き下げを仄めかす発言を繰り返すなど、対中姿勢を軟化させる動きをみせた。その後もトランプ氏は両国間の協議が進んでいると述べるとともに、政権内からもベッセント財務長官が両国の緊張緩和が必要との認識を示すなど、米国の対中政策に変化をうかがわせる動きがみられた。一方、中国側は両国の協議は進展していないとした上で、関係改善の実現には米国側の圧力放棄が前提と述べるなど、米国側とは対照的な対応をみせた。しかし、上述のようにエスカレートする方向で進んできた米中間の関係に変化の兆しが出ていることは、トランプ関税をきっかけにした世界貿易の萎縮が世界経済の足かせとなる懸念を後退させると期待される。

なお、中国側はその後も米国側の動きと異なる形で頑なな姿勢をみせてきたものの、現地報道によれば、米国から輸入するメモリチップを除く半導体製品8品目を報復関税の対象からの除外を検討しているとされる。別の報道では、米国からの医療機器やワクチンのほか、エタンをはじめとする工業用化学品、ジェットエンジンなど、米国製品以外での代替が不可能な計131品目を対象に報復関税の適用除外を検討しているとした。さらに、中国政府は今月10日付で米国の相互関税に対する報復措置として米国からのすべての輸入品への報復関税を発動させているが、適用除外品目については今月10日以降に輸入された分に対してすでに徴収された関税が還付される模様である。こうした動きは、表面的な動きとは異なり、中国側の態度が変化しつつある兆しと捉えることができる。

市場においては、米中協議を巡って6月に何らかの『サプライズ』が演出される可能性が指摘されてきた。その背景には、トランプ氏の誕生日が6月14日、習近平氏の誕生日が翌15日であり、このタイミングに向けて実務者レベルでの協議が進められるとの話がまことしやかに語られてきた経緯がある。しかし、このところのトランプ氏による態度軟化の動きは、金融市場や実体経済に変調の兆しがうかがえるなど政権の足元を揺るがしかねない動きが出ていることを受けて、局面打開に向けた切迫感に迫られている可能性を示唆している。他方、中国経済にとっても関税の報復合戦による悪影響が避けられない一方、何らかの対応が必要になる一方で『面子』の問題として中国側から折れるという選択肢はないなか、米国側からの態度軟化は軌道修正に向けた渡りに船となったと捉えられる。

とはいえ、米国側で検討されている対中関税の引き下げ幅がどれくらいになるかは、現時点では様々な見方が出るなど見通せない状況にある。米トランプ政権は2月にすべての中国からの輸入品に10%の追加関税を、翌3月には税率を10%引き上げて20%とした後、相互関税では当初の税率を34%としており、その際の税率は計54%と大統領選に際して示した水準(最大で60%)に大きく近づいていた。その後は中国側の報復措置を受けて、米国側は相互関税の税率を大きく引き上げるとともに、報復の応酬に発展した経緯があり、関税率の引き下げによる『着地点』は54%がひとつのベンチマークになるものと想定される。一方、米国側が関税率を一定程度引き下げる動きをみせれば、中国側もその水準に合わせる形で報復関税を引き下げることが見込まれるとともに、新たな貿易協議の創設などバイデン前政権以降に没交渉状態が続いた両国間の協議が具現化すると見込まれる。その意味では、世界経済を巡る最悪の事態を回避する一歩目となることが期待される。

ただし、米トランプ政権が各国に対して関税を材料にした交渉を持ち掛けた背景には、中国経済の台頭を受けて世界経済を巡る秩序が変化しつつあるなか、その『揺り戻し』を狙ったものとの見方がある。他方、中国はトランプ関税をきっかけに(実態は別として)『自由貿易の旗手』然とした姿勢をみせるとともに、いわゆるグローバルサウスと称される新興国での影響力拡大の動きを活発化させる動きをみせている。よって、トランプ関税が反って米国の影響力低下を加速化させかねない事態となっていることに鑑みれば、様々なレベルで米中対立の構図が解消するとは見通しにくく、今後も不可逆的に進行することは避けられない。その意味では、短期的にみれば表面的に『雪解け』が演出される可能性は見込まれるものの、そのことが米中関係の大幅な改善に向かうとの過大な期待を抱くことは難しいであろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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