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2025.04.23
世界経済
世界経済全般
トランプ関税後で初のIMFの世界経済見通し
~関税引き上げで向こう2年の世界の成長率を▲0.8%ポイント押し下げ~
田中 理
- 要旨
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- IMFはトランプ関税後で初となる世界経済見通しを発表。2日の米政府による相互関税の引き上げ表明を前提としたベースライン・シナリオに加えて、相互関税の引き上げがない場合と、90日間の上乗せ関税停止と米中間の報復の応酬を反映した場合の2つの代替シナリオに基づく見通しを作成した。現実世界では、相互関税の実際の引き下げ幅が圧縮されるとみられる一方、米中間の報復関税がこのまま維持される可能性が高く、IMFのベースライン・シナリオ対比でやや下振れするリスクがある。
国際通貨基金(IMF)は22日、米トランプ政権による関税発動後で初となる世界経済見通し(WEO)を発表した。4月2日の相互関税発表、その後の上乗せ関税の90日間の停止措置、米中間の報復の応酬など、見通しに大幅な影響を与える出来事が相次いでいるため、今回の見通しでは通常の予測前提のカットオフ日(3月下旬)以降の状況を反映した複数のシナリオに基づく予測値が公表されている。ベースラインのシナリオとして提示されているのは、4月4日までに得られる情報に基づく参照予測(reference forecast)で、2日の米政府による相互関税の方針表明や直後の金融市場の動揺を反映しているが、上乗せ関税の90日間の停止措置や米中間の報復の応酬については反映していない。2つめのシナリオは、4月2日以前の予測(pre-April 2 forecast)で、これは通常のカットオフ日までの情報に基づいて作成され、カナダ、メキシコ、中国への国別関税、鉄鋼・アルミニウム、自動車への分野別関税を反映しているが、相互関税や米中間の報復関税は反映していない。3つめのシナリオは、4月9日以降の予測(post-April 9 forecast)で、上乗せ関税の90日間の停止措置や米中間の報復の応酬を反映している。
参照予測の下で、2025年の世界の経済成長率は+2.8%と2024年の+3.3%から減速し、2026年に+3.0%にやや加速する。これは前回1月の見通し対比で、各々▲0.5%ポイント、▲0.3%ポイントの下方修正となる(図表1)。4月2日以前予測の世界の成長率見通しは、2025・2026両年ともに+3.2%で、参照予測と比較した相互関税の正味の影響は、2025年が▲0.4%ポイント、2026年が▲0.2%ポイントとなる。4月9日以降予測の世界の成長率見通しは、2025年が+2.8%、2026年が+2.9%と参照予測に近いが、上乗せ関税の停止と米中相互の報復措置を反映し、その他の国・地域の成長率の押し下げ幅が限定的にとどまる一方、米中両国の成長下振れが大きくなる。
国・地域別の参照予測によれば、米国では、政策を巡る不確実性の高まり、貿易摩擦の激化、消費減速を背景に、2025年の成長率が+1.8%、2026年が+1.7%と、前回見通し対比で各々▲0.9%ポイント、▲0.4%ポイント下方修正された(図表2)。ユーロ圏は、実質賃金の回復とドイツの財政政策転換が下支えとなるが、関税引き上げと不透明感の高まりが重石となり、2025年が+0.8%(▲0.2%ポイントの下方修正)、2026年が+1.2%(▲0.2%ポイントの下方修正)に下方修正された。日本は、賃上げによる消費回復が下支えとなるが、関税引き上げを巡る不透明感が重石となり、2025年が+0.6%(▲0.5%ポイントの下方修正)、2026年が+0.6%(▲0.2%ポイントの下方修正)に下方修正された。中国は、景気対策が下支えとなるが、関税引き上げの影響が上回り、2025年が+4.0%(▲0.6%ポイントの下方修正)、2026年が+4.0%(▲0.5%ポイントの下方修正)に下方修正された。
現実には、米国政府との今後の交渉の結果、多くの国・地域の関税の着地点は、当初米国政府が提示したよりも低い水準となる可能性がある(すなわち、関税率の想定は4月9日以降予測と参照予測の間で前者寄りとなる)。他方で、中国については、このまま高関税が課される可能性が高く、参照予測対比での成長率の下振れは避けられそうにない(関税率の想定は4月9日以降予測に近い)。そのため、IMFの予測を前提に考えると、世界経済全体では、参照予測や4月9日以降予測よりもやや下振れすることが考えられる。
関税引き上げにより、世界の貿易量の伸び率は2024年の+3.8%から、2025年は+1.7%への半減が見込まれる。その結果、世界の成長率は向こう2年間で合計▲0.8%ポイント押し下げられる。リセッション入りこそ回避されるものの、年間の成長率が2%未満に転落するリスク(IMFではこれを世界経済のリセッションに相当する水準と定義している)は、昨年10月時点の17%から30%に上昇すると見込む。IMFはこうした景気見通しには更なる下振れリスクがあると指摘する。下振れリスクとしては、貿易摩擦のエスカレートと関税を巡る不透明感の長期化、金融市場の動揺、長期金利の上昇、社会不満の増大、国際的な協力関係の綻び、労働力不足などを指摘する。逆に上振れリスクとしては、新たな貿易協定の締結、地政学的な緊張の緩和、構造改革の推進、AI主導の成長促進などを挙げている。


田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

