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2024.11.25
アジア経済
シンガポール経済
シンガポール与党PAP、世代交代完遂で総選挙へ体制固めを進める
~首相に次いで与党PAP書記長もウォン氏に、経済・政治ともに困難のなかで総選挙に立ち向かう~
西濵 徹
- 要旨
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- シンガポールでは今年5月にウォン首相が誕生して約20年ぶりに政権交代が行われた。ここ数年、同国ではリー前首相からの政権禅譲を見据えた動きが活発化してきたが、コロナ禍でとん挫し、2020年の総選挙での与党PAP惨敗を経て見直しを余儀なくされた。その結果、「ポスト・リー」には党内第4世代のウォン氏に白羽の矢が当たり、PAPの結党70周年の今年に向けて一気に動きだした。こうしたなか、24日に結党70周年の節目の党大会が開催され、ウォン氏が党トップの書記長に就任するなど世代交代が完遂した。同国では来年11月までに次期総選挙が実施されるなかで党勢の維持・拡大が急務となる。足下の景気は堅調さがうかがえるが、食料インフレや外需に不透明要因が山積している。リー一族が一線を退くなか、ウォン体制の下で次期総選挙に向けて経済、政治の両面で困難に立ち向かう必要に迫られている。
シンガポールでは、今年5月にローレンス・ウォン氏が首相に就任して約20年ぶりとなる政権交代が行われた。2004年に首相に就任した前任のリー・シェンロン氏は、予てより自身が満70歳を迎えるまでに首相を退任する意向を公言しており、その「Xデー」となる一昨年2月を念頭に政権の禅譲に向けた動きを活発化させてきた。しかし、その直前にコロナ禍を受けた経済や社会の混乱に直面し、政権は事態収拾に注力せざるを得ない事態が続いたことで、結果的に首相退任の時期は先送りされた。さらに、コロナ禍の最中である2020年に実施された総選挙では、1965年の同国の独立以降に一貫して政権与党の座を維持する与党PAP(人民行動党)の得票率が過去3番目の低水準となるなど苦戦を強いられ、政権交代を危ぶむ向きが強まった。PAP内でリー氏の後継者と目されるとともに、総選挙の陣頭指揮を執ったヘン・スイキャット副首相(当時)が高齢を理由に次期首相の座を降りる決定を行い、政権移行の動きはふりだしに戻った。その後にPAP内で次期首相人事に関する議論が進められ、リー氏の後任にヘン氏をはじめとする『第3世代』ではなく、その次の世代に当たる『第4世代』へと一気に世代交代を進める方針が示された。その結果、ヘン氏の後任として財務相に就任したウォン氏が次期指導者に選任され、その後にウォン氏は副首相(兼、財務相)のほか、PAP副書記長、金融管理局(中銀)長官、政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)のGIC副会長に就任するなど、政権移譲への段取りが進められた。さらに、昨年11月のPAP党大会において、リー氏は今年(2024年)がPAPの結党70周年に当たることを念頭に首相を退任する方針を明らかにし、上述のように今年5月にウォン氏が首相に就任するなど政権交代が行われた。ウォン氏自身は官僚出身であり、貿易産業省在職中にリー首相の首席秘書官を務めたほか、その後に政界に転身した後、文化・社会・青年相、国家開発相、教育相を歴任してきた。なかでも、教育相としてコロナ禍対策チームの共同議長を担うなどその陣頭指揮を担うとともに、実績を上げたことがポスト・リーの筆頭格に躍り出る一因になったとみられる。なお、政権交代に当たっては、継続性と安定を重視する観点から内閣改造は最小限に留めるとともに、リー氏も上級相として閣内に留まることにより内政・外交の両面でウォン首相を支える形が採られている。しかし、建国以来一貫して国政を担ってきたリー一族は政治の一線から退いた格好であり、上述の経緯もあってウォン氏自身はPAP内での政治的求心力は乏しく、自身を含む第4世代による集団指導体制を通じて党内統治を確固たるものにする必要に迫られている。こうしたなか、24日にPAPは結党70周年の節目となる党大会を開催し、党トップである書記長を務めるリー氏(上級相)は演説で「書記長として党大会最後の演説になる」と退任する意向を示すとともに、「中央執行委員会でウォン氏を推薦する。これでリーダーシップの移行が完了する」と述べた。党大会後に開催された中央執行委員会を経てウォン氏はPAP書記長に就任し、リー氏は中央執行委員会に残るも、これによって政府のみならず、党においても世代交代が完全に移行したこととなる。シンガポールでは建国以来、PAPが事実上の一党支配を続けるとともに、PAPにとって有利な選挙制度が築かれているものの、上述のようにこのところは野党が勢力を伸長させており、来年11月までに実施される次期総選挙までに党勢の維持、拡大を図ることができるかが課題となっている。こうしたなか、ウォン氏への世代交代を完遂させることで党への支持の引き締めを図るとともに、ウォン体制を盤石なものとすることにより次期総選挙への体制作りを加速化させたいとの思惑も透けてみえる。足下の同国経済を巡っては、7-9月の実質GDP成長率が前期比年率+13.63%と前期(同+2.04%)から一段と伸びが加速するとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+5.4%と3年弱ぶりの高い伸びとなるなど底入れの動きを強めており、政府は今年通年の経済成長率見通しを+3.5%前後と従来見通し(+2~3%)から上方修正している。また、足下ではインフレは落ち着きを取り戻しているものの、食料品など生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まっているほか、外需を巡っても、中国経済を巡る不透明感や米トランプ次期政権の通商政策など懸念要因が山積している。同国は世界有数の都市国家ゆえに、世界経済、とりわけ世界貿易の動向の影響を受けやすく、その動向を無視し得ない。リー一族という強力な『リーダーシップ』を失うなかで、ウォン体制は次期総選挙に向けて政治、経済の両面で困難に立ち向かうことになる。


西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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