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2025.04.07
アジア経済
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ベトナム、トランプ相殺関税で米中摩擦の漁夫の利は消えるか?
~1-3月は前年比+6.93%と外需駆け込みが下支えに、先行きは大幅な下振れが不可避の可能性~
西濵 徹
- 要旨
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足元の世界経済や国際金融市場は「タリフマン」を自称するトランプ米大統領に揺さぶられている。相互関税は例外なくすべての国に適用するとともに、一部の国に税率が上乗せされるなど外需に深刻な悪影響が出る懸念が高まっている。さらに、一部の国は報復に動くなど貿易戦争に発展する可能性も高まっている。
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ベトナムは、米中摩擦の背後で中国に代わる生産拠点として対内直接投資を活発化させ、対米輸出を伸ばしてきた。しかし、対米貿易黒字の拡大を受けて相殺関税は46%に設定されるなど、その標的となった。結果、足元の金融市場では通貨安、株価下落、国債価格下落の「トリプル安」に直面する事態となっている。
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ベトナム政府は関税引き下げなどの譲歩姿勢を示しているが、対米輸出は名目GDP比2割以上に及ぶなかで景気への深刻な悪影響は必至と見込まれる。なお、1-3月の実質GDP成長率は前年比+6.93%と鈍化するも堅調に推移している。トランプ関税を前にした外需の駆け込みに加え、インフレ鈍化も追い風に個人消費も堅調な動きが続いている。一方、対内直接投資は鈍化するなど景気の足を引っ張っている。
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米中摩擦の漁夫の利が消える懸念があるなか、足元では外需に対する不透明感が急速に高まっている。政府は2月に今年の経済成長率を8%に引き上げるなど高い目標を掲げるが、相互関税が現実となれば目標実現のハードルは極めて高くなる。当面のベトナムを巡っては、近年の経済成長をけん引した米中摩擦の漁夫の利が消えることを念頭にしつつ、経済の在り様を再構築する必要性が高まっていると言える。
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足元の世界経済や国際金融市場は、『タリフマン(関税男)』を自称するトランプ米大統領の一挙一動に揺さぶられている。なかでも今月2日にトランプ氏が発表した相互関税については、すべての国に対して一律で10%の関税を課すとともに、個別に付加価値税(VAT)や為替政策、規制など非関税障壁を勘案した平均関税率を算出し、その水準に基づく税率を設定する方針を示した。結果、トランプ氏は関税政策を巡って『例外なし』との姿勢を示してきたものの、すべての国を対象に相互関税を課すとともに、一部の国が報復措置に動いたことで貿易戦争に発展することが懸念されている。こうしたことも世界貿易、ひいては世界経済に深刻な悪影響を与えることが危惧される。
ここ数年のベトナムを巡っては、激化する米中摩擦の背後で中国に代わる生産拠点として注目を集めてきた。さらに、コロナ禍や世界経済の分断を受けて世界的にサプライチェーン見直しの動きが広がることもそうした動きを後押ししてきた。その結果、同国は『チャイナ・プラス・ワン』の筆頭として対内直接投資の受け入れを拡大させ、対米輸出も大幅に上振れしてきた。こうした動きも追い風に、昨年の対米貿易黒字は過去最高を更新し、米国にとって同国は国別の貿易赤字額が3番目となるなど『トランプ関税』の標的となることが危惧された。よって、ベトナム政府は米国から輸入するLNG(液化天然ガス)のほか、自動車、エタノールに加え、鶏もも肉、アーモンド、りんご、さくらんぼなど農産品に対する関税を引き下げるほか、第2次政権で政府効率化省(DOGE)を率いるマスク氏が代表を務めるスターリンク社が提供する衛星通信サービスの試験サービスを許可するなど『譲歩』する姿勢をみせた。しかし、トランプ氏は同国を「最悪の違反者」リストに載せた上で、非関税障壁を加味した平均関税率を90%(WTOベースでは9.4%)とし、相互関税率を46%とした(注1)。
上述のように、ここ数年のベトナムでは対内直接投資の流入や対米輸出の拡大が景気を押し上げる一助となっており、昨年の対米輸出額は名目GDP比で2割を上回り、中国経済が勢いを欠くなかで対中輸出が頭打ちの様相を強めるのと対照的な動きをみせてきた。したがって、仮に米国がベトナムからのすべての輸入品に一律で46%の相互関税を課した場合の直接的な影響は名目GDP比で12%弱に達すると試算されるなど、深刻な悪影響が出ることが予想される。よって、同国金融市場ではトランプ氏の相互関税発表直後から通貨ドンの対ドル相場が調整して最安値を更新するとともに、主要株式指数(VN指数)も調整の動きを強めたほか、国債価格も大きく下落するなど『トリプル安』に直面している。これは、ここ数年の同国経済が米中摩擦の『漁夫の利』を最も受ける国のひとつと見做されてきたものの、そうした見方への大幅な修正が必要になっているとの見方を反映している。その後に米越首脳は電話会談を行い、ベトナム側は米国との合意に向けて米国からのすべての輸入品に対する関税をゼロにするための協議の準備ができているとの考えを示すなど、今月9日の相互関税の発動延期を求める動きを活発化させている。当面の金融市場は両国の協議の行方に右往左往させられる展開が続くことは避けられないであろう。
他方、上述のように同国経済は米中摩擦の漁夫の利を受ける展開が続いたことに加え、昨年末にかけては米トランプ政権の発足を前に関税政策を警戒した駆け込みの動きが外需を押し上げる動きが確認された。その反動も影響して、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+6.93%と前期(同+7.55%)から伸びは鈍化するも、引き続き堅調な動きをみせていることが確認された。ただし、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースではプラス成長で推移するも、頭打ちするなど米トランプ政権の関税政策の余波が早くも幅広い経済活動の足かせとなっている様子がうかがえる。分野ごとの生産動向を巡っては、農林漁業関連の生産が下振れするとともに、製造業や鉱業部門の生産拡大の動きに一服感が出ているほか、サービス業の生産も同様に鈍化するなど幅広い分野で生産活動が鈍化している。ただし、1-3月の輸出は拡大傾向を強めるなど、米トランプ政権の関税政策の発動を前にした駆け込みの動きが出ていると捉えられる。また、外国人来訪者数も同様に拡大するなど外需をけん引役にした景気拡大の動きが続いている。そして、足元の物価は落ち着いた推移をみせるなか、年明け以降の小売売上高も拡大の動きが確認されるなど、個人消費も堅調な動きをみせている。その一方、対内直接投資の流入は鈍化しており、同国進出企業の間に外需を取り巻く環境の悪化に対する警戒感を強めている。よって、先行きは外需を巡る不透明感の高まりが幅広い経済活動の足かせとなることは避けられない。
足元ではトランプ相殺関税の動向に加え、その適用を巡る不透明さを理由に通関業務などは停滞している模様であり、4-6月以降の景気に一段と下押し圧力が掛かる可能性が高まっている。2月に開催された臨時国会では、省庁再編による公的部門の効率化に向けた取り組みが前進するとともに、今年の経済成長率目標を従来の+6.5~7.0%から+8%と引き上げる方針が決定した(注2)。目標引き上げを巡っては、米トランプ政権の動きが足かせとなることが懸念されたものの、現実に同国を『標的』とする姿勢をみせたことに鑑みれば、そのハードルは極めて高まっていることは間違いない。チン首相は米国の相互関税を受けても成長率目標を変更しないとの考えを示しているものの、上述のように同国経済にとって対米輸出は名目GDP比2割以上と高水準にあり、相互関税による悪影響は極めて大きくなることは避けられない。さらに、外需の低迷は対内直接投資の減少を通じて企業部門による設備投資の重石となるとともに、輸出を巡って周辺国との競争が激化することも景気の足かせとなることも考えられる。よって、当面のベトナム経済を巡っては、米中摩擦の漁夫の利が消えることを念頭に在り様を再構築する必要に迫られている。
注1 4月3日付レポート「「トランプ関税」の新興国経済への影響は?」
注2 2月21日付レポート「ベトナム、成長率目標を「8%」に引き上げもハードルは極めて高い」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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