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トランプ政権が相互関税を発表

~相互関税の概要、経済的影響、今後の焦点を巡るQ&A~

前田 和馬

4月2日、トランプ政権は事前の予定通り「解放の日(Liberation Day)」に世界各国への相互関税を発動した。本稿では同政策の概要、各国の物価・GDPへの影響、今後の展開を取り上げる。

Q. 関税の概要は?

A. 4月5日に全世界に対して一律10%の追加関税、9日に約60か国・地域に対する関税率の引き上げを実施する。既に発動されたメキシコ・カナダ・中国への関税と同様、法的根拠は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく。ただし、既に25%関税が課されているメキシコとカナダのほか、ロシアや北朝鮮は対象から除外されている(メキシコとカナダは25%関税が終了した際に12%の相互関税へ移行)。また、既に関税発動済みの自動車や鉄鋼・アルミには税率が追加されない一方、分野別の関税発動が見込まれる医薬品や半導体、エネルギーなども相互関税の対象から除外されている。

Q. 関税率とその算定根拠は?

A. 主要国・地域の関税率は中国:34%(既存の20%追加関税に上乗せ)、インド:26%、韓国:25%、日本:24%、EU:20%、英国・ブラジル・オーストラリア:10%となっている。それぞれの関税率は貿易相手国に対する米国の「貿易赤字額÷輸入額÷2」と概ね等しく(米国が貿易黒字の国は10%)、従来想定されていたような関税率の差や付加価値税率(消費税率)などを用いたものではない。このため、対米貿易黒字が相対的に大きい国々、すなわち東アジアや東南アジア諸国の関税率が高くなる傾向がみられる。ちなみにトランプ氏は「貿易赤字額÷輸入額」を相手国が米国に課す関税と指摘し、それを半分にしたのは「親切な相互関税」と述べている。なお、自動車や半導体などが除外されているため、相互関税の対象になるのは米国における(メキシコ・カナダを除く)輸入総額の7割程度と見込まれる。

図表
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Q. 相互関税の目的は?

A. 不公正な貿易慣行が米国経済を弱体化させているほか、米国や同盟国の安全保障上の理由を指摘している。相互関税に関する大統領令では「米国の貿易相手国は賃金や消費を抑制することで、人為的に自国の競争力を高めている」ほか、「輸入障壁、許認可の制限、不要な衛生・植物検疫措置、投資障壁、補助金、国有企業の優遇、贈収賄・汚職」や「通貨慣行や付加価値税、国内政策による市場の歪み」などが非関税障壁になっていると述べられた。そのうえで、「米国が自国民と国土を防衛する」ためには過度な輸入を是正し、「自動車や造船などの先端産業分野における国内製造能力を維持する必要性が特に高い」と指摘した。また、米国内の生産能力は「同盟国が効果的な安全保障の傘を維持する」ためにも必要と、貿易問題が各国の安全保障問題とも密接に関連する可能性が示唆された。また、「貿易相手国は新たな関税交渉を含む多国間の解決を妨げている」と述べ、従来の米国の通商戦略には誤りがあり、今後は米国の輸入減と輸出増へと結びつくような貿易交渉を進める考えを示した。

Q. 米国経済への影響は?

A. FRBの用いるマクロ計量モデル(FRB/US)に基づくと、今回の措置は米国の短期的な実質GDP水準を-0.2%(失業率は0.2%pt)、他国が同等の追加関税を課す報復措置に踏み切る場合には-0.5%(同、0.3%pt)程度下押しする。輸入物価の上昇が消費者物価に波及することで個人消費は抑制されるほか、報復関税は米国の輸出・生産を下押しすると見込まれる。また、貿易政策の不確実性が企業の設備投資の先送りへと繋がる場合、負の影響は増幅する懸念がある。また、2000年以降のPCEインフレ率と輸入物価の弾性値を基にすると、今回の相互関税措置はPCEインフレ率を1.1%pt程度押し上げると試算される。

これまでに米国は20%の対中関税、メキシコ・カナダへの25%追加関税(USMCAに準拠した製品を除く)のほか、鉄鋼・アルミ、自動車・同部品などへの関税を実施しており、これらが全て実行された場合の実効関税率は2024年の2.4%から21.1%へと+18.7%pt上昇する見込みだ。上記と同様の前提を用いる場合、実質GDP水準は報復関税を踏まえると-0.9%(失業率は0.5%pt)押し下げられ、PCEインフレ率は2.0%pt押し上げられると試算される。

Q. 日本を含む世界経済への影響は?

A. 関税措置によって米国の輸入が落ち込み、諸外国の米国向け製品の生産や輸出が大幅に減少することが見込まれる。輸入の価格弾力性を1と仮定し各国の対米輸出割合を用いると、実質GDP水準への直接的な影響は日本:-0.5%、中国:-0.7%、韓国:-0.9%、インド:-0.4%、EU:-0.4%と、対米貿易黒字が相対的に大きい東アジア諸国などへの影響が懸念される。また、世界貿易が滞り各国の消費や設備投資マインドの悪化へと繋がる場合、これらの影響は増幅すると考えられる。一方、今回の関税政策がドル高を招く場合、米国におけるドル建て輸入価格の上昇が一部吸収されるため、米国の輸入減少と米国以外の対米輸出減少が抑制される可能性がある。他方、物価への影響を巡っては短期的には需要急減と供給過剰によりデフレ圧力となりやすい一方、中長期的には経済合理性に基づくサプライチェーン構築の見直しが生じることで世界的な製造コストを押し上げると見込まれる。

図表
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Q. 今後の焦点は?

A. まず、世界各国の対応だ。中国やEUは対抗措置を示唆する一方、日本やオーストラリアは報復措置を控えながら交渉を進める方針を示している。一方、米ベッセント財務長官は「報復しなければ、現在の数値が上限となる」と述べるなど、報復措置を控えるよう要求している。報復関税を実行する国や地域が増えるほど、米国の輸出が下押しされ、世界的な貿易の停滞と経済的な悪影響が拡大する。

次に、今回の相互関税から除外された半導体や医薬品などの扱いである。トランプ政権は安全保障上の重要産業として「鉄鋼・アルミ、自動車、半導体、医薬品、木材、銅」などを指摘しており、既に実行済みの鉄鋼・アルミと自動車への25%関税に加えて、残りの品目に対しても25%関税が実施される懸念がある。なお、3日には25%の自動車関税が発動され、5月3日にはエンジンなどの部品に対象が拡大する予定だ(メキシコとカナダからUSMCAの原産地規則を満たす輸入に関しては、完成車が米国外の部品比率に応じて課税、部品は商務長官が官報で公示するまで除外)。

最後に、米国におけるトランプ政権への風当たりである。1日に実施されたウィスコンシン州最高裁判事選挙では民主党が支持するリベラル候補が勝利した一方、フロリダ州の2つの下院補欠選挙(マット・ゲーツ、及びマイク・ウォルツ氏の辞職によるもの)では事前予想通り共和党候補が議席を維持したものの、そのリードは昨年11月よりも10%pt程度縮小した。双方の選挙は相互関税発表前に実施されたものであるが、それ以前の関税政策等への米国民の不満が一部に現れたものとみられている。また、2日には上院でカナダへの25%関税を停止する決議案が賛成多数で可決された。民主党議員の提案した同案が下院で可決される可能性は低いものの、上院では共和党からマコネル前院内総務など4人が賛成しており、2026年11月の中間選挙を控え共和党内部からの反発がどれほど強まるかが注目される。

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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