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2025.04.03
世界経済
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トランプ政権
トランプ関税
トランプ相互関税の影響は?
~マッドマンセオリーが世界を揺るがす~
田中 理
- 要旨
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- 米国のトランプ政権が2日に発表した相互関税は約100年振りの高水準。20%強の実効関税率は金融市場の想定を遥かに上回り、世界経済のリセッション・リスクを高める。今後の報復関税や軽減措置の有無で最終的な関税の着地点は変わってくるが、米国の物価上昇と景気下振れ、米国以外の国・地域の景気と物価の下振れが避けられない。
米国のトランプ大統領が「解放の日」とする2日に発表した相互関税は、金融市場の想定を遥かに上回り、米国のスタグフレーション・リスクと世界のリセッション・リスクを高める。米国は5日から全ての国・地域に一律10%の関税を課すとともに、米国に対して高関税や非関税障壁を課し、為替操作を行う国・地域に対しては、9日から上乗せ関税を課す方針を明らかにした。
上乗せ分を含めた関税率は、カンボジア(49%)、ベトナム(46%)、ミャンマー(44%)などが40%台、タイ(36%)、中国(34%)、台湾(32%)、インドネシア(32%)などが30%台、インド(26%)、韓国(25%)、日本(24%)、EU(20%)などが20%台、フィリピン(17%)、ノルウェー(15%)などが10%台、英国(10%)、ブラジル(10%)、シンガポール(10%)、オーストラリア(10%)、トルコ(10%)などは上乗せ関税なしの10%となる。
既に20%の追加関税が課されている中国は、34%が上乗せされる形で54%となる。25%の追加関税が課されているカナダとメキシコについては、相互関税の対象から当面除外され、現行の追加関税が終了した後に12%の相互関税に移行する。また、製品別の関税賦課が決まっている鉄鋼・アルミニウム(25%)、自動車・同部品(25%)については、今回の相互関税から除外される。米国の輸入シェアに基づいて変更後の実効関税率を計算すると、現在の2.5%から20%強に上昇する。これは1930年代以来の関税率の高さで、1860年代に匹敵する引き上げ幅となる。
関税回避に向けて多くの国や地域がトランプ政権に対する働きかけや米国製品の輸入拡大などの提案をしたが、こうした試みの大半は失敗に終わった。トランプ大統領はEUのリベラルな価値観を毛嫌いし、しばしば標的にするが、そのEUよりも日本に対する上乗せ関税率が高かった。このことからは、今回の関税決定が、トランプ大統領の個人的な嗜好、首脳間の個人的な関係、外交努力などを反映したものではなく、積算根拠は必ずしも明瞭ではないが、対米貿易黒字の規模や非関税障壁を機械的に算出したものと考えられる。但し、対米貿易黒字の金額はEUが日本を上回り、経済規模対比での貿易黒字額をみたGDP比率も日EU間でほとんど差がない。また、EUは厳しい食品安全基準や環境規制を課し、日本と比べて遥かに高い付加価値税率を設定している。結局、米国は日本の貿易黒字の大半を自動車が占めることを問題視し、日本市場での米国の自動車メーカーの低いシェアが日本の排ガス基準や自動車の安全基準によるものであるとし、厳しく評価した。
今後の焦点は、諸外国による報復措置と米国による再報復がエスカレートするかと、逆に何らかのディールを通じて軽減措置が講じられるかどうかだろう。トランプ大統領は今回決定した関税率を寛大な措置としており、報復措置が取られた場合、更なる関税引き上げの余地がある。米国側の出方を見極めるうえでは、報復の可能性を示唆していたEUの今後の対応が参考になりそうだ。
関税引き上げの世界経済への影響をどう考えるか。輸入製品から米国製品への切り替えが進むとしても、関税引き上げは、米国の消費者物価を大幅に押し上げ、景気を下押しする。また、米国以外の世界経済にとっても深刻な打撃となる。米国の関税引き上げによる価格競争力の低下で、米国向けの輸出数量が落ち込むに加えて、今後の報復関税などに対する不透明感が投資活動を抑制し、関税回避に向けた生産拠点の移管が企業収益を圧迫する。また、こうした景気下押しの影響で世界経済が下振れすることで、米国以外の国・地域向けの輸出も落ち込む。米国以外の国のインフレ率に与える影響は、報復関税を実施した国・地域については物価に上昇圧力が及ぶが、景気下押しによる財・労働需給緩和の影響が上回り、全体としては物価の下押し要因になるとみられる。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

