トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

2025年3月FOMCプレビュー

~関税政策の評価に注目~

前田 和馬

要旨
  • 3月FOMC(3/18~19開催)にてFRBは2会合連続で政策金利を据え置く見通しだ。大幅な関税引き上げによるインフレ再燃や景気後退への懸念が強まるなか、FRBは今後の展開とその影響を見極めるために現行の金利水準を維持するとみられる。
  • 声明文における景気・物価認識では景気の下振れリスクへの言及が見られるかが注目される。パウエル議長は7日の講演で「経済は総じて堅調」と述べた一方、2025年1~3月期における実質GDP成長率は関税発動前の輸入急増を背景に12四半期振りのマイナス成長に陥る可能性がある。
  • 先行きの利下げ再開の時期を巡っては同時に公表される四半期経済見通し(SEP)が注目される。トランプ新政権による関税政策の影響が一定程度織り込まれる可能性が高く、GDP成長率の下方修正幅、インフレの修正幅、及び年内の利下げ見通し(24年12月時点:2回)が焦点となる。

2会合連続の据え置き

3月FOMC(3/18~19開催)において、FRBは政策金利であるFF金利の誘導目標を4.25~4.50%に据え置く見通しだ。FF金利先物に基づく3/13時点のFedWatchによると、同FOMCにおける金利据え置き予想は98%に達し、利下げ予想は2%に留まる(次の利下げ時期予想の中央値は6月FOMC;図表1)。トランプ新政権による積極的な関税引き上げを背景に足下の株価が軟調に推移する一方、現時点の経済指標において景気後退を示唆する内容は限定的に留まっている。トランプ新政権による関税・移民・財政政策の見通し、及びその経済的影響を巡る不確実性は非常に高い状況にあり、FRBは現行の金利水準を維持することを通じて、これらの展開を注視する姿勢を示すとみられる。

足下の経済指標をみると、2月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+15.1万人(1月:+12.5万人)と堅調な増加ペースを維持した一方、失業率は4.1%(同、4.0%)と小幅ながら3か月振りに上昇した。なお、足下では連邦職員削減の動きが進んでおり(早期退職プログラムの応募者と試用期間職員の解雇で20万人弱)、これが3月以降の雇用統計のかく乱要因となる可能性がある。他方、1~3月期実質GDP成長率(2025/4/30公表)を巡っては、3/6時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率-2.4%(2024年10~12月期実績:+2.3%)と12四半期振りのマイナス成長が予想されている。とはいえ、同マイナス成長は関税発動前の駆け込み需要を背景とした輸入拡大が主因であり、個人消費や設備投資は増加が見込まれている(図表2)。この間、2月消費者物価指数(CPI)における食品・エネルギーを除くコアベース指数は前月比+0.2%(1月:+0.4%)と前月から減速したものの、短期的なトレンドを示す3か月前比年率は+3.6%(+3.8%)と依然高水準にある。

なお、3月FOMCまでには3/14に3月ミシガン大学消費者信頼感指数、3/17に2月小売売上高、3/18に2月輸入物価指数が公表され、足下の消費動向及び対中関税の影響を見極めるうえで注目される(注1)。

景気の下振れリスクへの言及

1月FOMCの声明文では「経済活動は堅調な拡大を続けている。失業率はここ数か月低水準で安定しており、労働市場は引き続き底堅い。インフレ率は幾分高止まりしている」と、概ね従来通りの景気・物価認識が示された。5日公表の2月地区連銀経済報告(ベージュブック;2/24時点の情報に基づく)では「経済活動は総じて僅かに拡大した」とまとめられたほか、パウエル議長は7日の講演で「消費支出は2024年後半と比較し減速感がみられるものの、経済は堅調なペースで成長している」と述べるなど、足下で景気認識を大きく変更している様子はみられない。

とはいえ、2月下旬以降はトランプ新政権による関税政策を背景に株価が軟調に推移するなど、米国経済の先行き不透明感が増している。2月ベージュブックの要約コメントでは12地区中6地区が景気や経済政策の不確実性を強調した。また、パウエル議長も前述の講演において、こうした不確実性が家計や企業の消費・投資行動に及ぼす影響を注視する姿勢を示している。

1月FOMCの声明文では「経済見通しは不透明」「雇用とインフレ目標の達成に向けたリスクは概ね均衡している」と言及された一方、3月の声明文においては「政策不透明感の高さ」「景気の下振れリスク」「インフレの一時的な上振れリスク」などを強調するかたちで、文言が微修正される可能性がある。

関税政策の評価

3月FOMCではFOMCメンバーによる四半期経済見通し(SEP)が同時に公表される。前回12月時点の予測においては、一部の参加者がトランプ新政権による政策の影響を織り込んだ一方、一定数のメンバーは政策不確実性を背景にこうした影響を考慮しなかった。1月20日のトランプ大統領の就任以降、中国・カナダ・メキシコ等への追加関税が発動されており(当社試算[3月12日時点]:実行関税率:+6.5%pt、PCEインフレ率の押上げ効果:+0.71%pt、実質GDP成長率への下押し効果:-0.32%pt)、こうした展開は2025年を中心に実質GDP成長率の下方修正、及び物価見通しの上方修正へと繋がる可能性が高い。

先行きの貿易政策を巡っては、4月2日以降における対象国・地域の拡大(相互関税の導入)の可能性、貿易相手国による報復措置の規模、こうした貿易戦争の持続性、及びこれらによる経済・物価への影響などに関する不透明感が非常に強い。加えて、政府閉鎖・債務上限・連邦職員削減を巡る財政政策の動向、及び移民規制による労働市場への影響など、足下の不確実性要因は枚挙にいとまがない。パウエル議長はこうした不透明感が高いなか、当面はこうした影響を注視する姿勢を強調する一方、トランプ政策による経済的な影響に関しては引き続き踏み込んだ発言を控える可能性がある。

先行きの利下げ再開の時期を巡っては、ドットチャートの動向が注目される。多くのFOMC参加者が「様子見」姿勢を支持するのであれば、2025年における2回の利下げ見通しは変化しない可能性がある。12月時点では19人中10人が2回の利下げを予想しており、利下げ見通しの中央値が変化するためには少なくとも5人の予想が変化する必要がある。仮にこうした状況で年内の利下げ回数が3回へと増加する場合、パウエル議長を含む複数のメンバーが早期の利下げを想定している可能性が高く、市場にはハト派的なメッセージと捉えられるかもしれない。

また、パウエル議長の記者会見においては、関税政策による物価押し上げと景気の下押しが予想されるなか、先行きの金融政策の判断基準を巡る質問が想定される。こうしたトレードオフに直面した際の政策判断に関して、セントルイス連銀のムサレム総裁は「インフレ期待が安定しているか否かが重要」と言及している。パウエル議長がこうした認識を示しながら、「関税による物価押し上げはあくまで一時的」であり、「中長期のインフレ期待が安定していること」を強調する場合、ハト派的なスタンスと捉えられよう。一方、パウエル議長が政策の不確実性を指摘しながら「様子見姿勢」を当面続ける可能性を示唆する場合、タカ派的なメッセージと認識される可能性がある。

図表
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以上

【注釈】

  1. 輸入物価指数は原則的に関税の影響を含まない。一方、中国の輸出企業が追加関税分を負担する形で価格を引き下げる場合、米国における輸入物価の押し下げ圧力として働くため、米国内における関税の影響が緩和される。

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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