インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

RBAの「タカ派傾斜」を是認し得る堅調な雇用環境、豪ドル相場は?

~今次緩和サイクルの「浅さ」を招く可能性も、豪ドルの対円相場は米ドル/円相場に連動~

西濵 徹

要旨
  • オーストラリア準備銀行(RBA)は今月の定例会合でコロナ禍一巡後初の利下げに動いた。足下の景気は頭打ちの様相を強めるなか、高止まりしてきたインフレもRBAが注目するすべての指標で目標域(2~3%)に収まるなどインフレが落ち着きを取り戻す動きをみせていることも、RBAの利下げを後押ししたとみられる。しかし、RBAは先行きの政策運営について慎重姿勢を示すとともに、その理由に堅調な労働市場を挙げている。RBAはデータ次第との見解を示すなかで労働市場の動きが「次の一手」を探る材料となっている。

  • こうしたなか、1月の失業率は4.1%とわずかに悪化したが、これは労働市場への参入意欲の高さが招いている。さらに、雇用者数は前月比+4.4万人と10ヶ月連続で拡大し、正規雇用を中心に堅調な動きが続き、幅広い地域で雇用底入れが確認されている。なお、総労働時間は減少し、賃金の伸びも頭打ちするなど物価への影響は不透明だが、企業マインドは底入れするなか、労働需給はひっ迫した展開が見込まれる。

  • 金融市場では米ドル高が意識されやすい展開が続く一方、RBAのタカ派維持が見込まれるなか、当面の豪ドルの対米ドル相場は方向感の出にくい展開となる可能性が高い。他方、日本円に対しては日銀の利上げ観測を受けて米ドル/円相場の上値が抑えられるなか、当面は上値の重い展開が続くと見込まれる。

オーストラリア準備銀行(RBA)は今月17~18日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、コロナ禍一巡後で初めてとなる利下げを決定した(注1)。RBAによる利下げそのものも4年3ヶ月ぶりであり、長期に亘って高金利政策を維持してきた状況からの転換に動いた格好である。この背景には、物価高と金利高が長期化に伴い内需に下押し圧力が掛かる展開が続いたことに加え、最大の輸出相手である中国の景気減速など外需を取り巻く環境は厳しさを増しており、足下の景気は頭打ちの様相を強めていることがある。さらに、インフレは長らくRBAが定めるインフレ目標(2~3%)を上回る推移が続いたものの、上述のように景気が頭打ちしていることに加え、アルバニージー政権が今年度から実施している電力料金を対象とする補助金政策の影響も追い風に、足下ではRBAが重視するすべてのインフレ指標は目標域内に収まっており、利下げを後押ししたと捉えられる。

図表1
図表1

ただし、会合後に公表した声明文では、今回の利下げ決定について「インフレに関する歓迎すべき動きを認識したもの」とした上で「さらなる緩和見通しについては慎重姿勢を崩していない」と依然として『タカ派』傾向を仄めかす姿勢をみせた。事実、会合後に記者会見に臨んだ同行のブロック総裁も、足下の状況について「インフレ抑制を巡る勝利宣言を出来る状況にはない」とした上で、「市場で織り込まれている追加利下げは保証されていない」、「先行きの金利動向ついて先走ることはできない」と追加利下げに対する慎重姿勢をうかがわせている。そして、利下げ決定そのものについても「今回の利下げ決定は難しい判断であった」とした上で、その理由に「労働市場が強含んでいることは驚くべきこと」と述べるなど、景気が頭打ちしているにも拘らず労働市場が堅調な推移をみせていることを挙げている。労働市場の動向は賃金を通じて物価に影響を与える上、RBAもデータ次第とするなか、その行方がRBAの『次の手』を左右するものとして注目される。

図表2
図表2

図表3
図表3

こうしたなか、1月の失業率(季節調整値)は4.1%と前月(4.0%)から0.1pt悪化しており、失業者数が前月比+2.3万人と前月(同+0.9万人)から2ヶ月連続で拡大するなど、失業者数が底入れの動きを強めていることが影響している。雇用形態別でも非正規雇用に対する求職者数(前月比+1.2万人)のみならず、正規雇用に対する求職者数(同+1.1万人)もともに拡大しているほか、労働力人口も同+6.7万人と前月(同+6.9万人)から引き続き大幅に拡大しており、こうした動きを反映して労働参加率も67.3%と前月(67.2%)から+0.1pt上昇して過去最高を更新するなど労働市場への参加意欲の高さが影響している。さらに、雇用者数も前月比+4.4万人と前月(同+6.0万人)から10ヶ月連続で拡大するなど底入れの動きが続いており、雇用形態別では非正規雇用者数(同▲1.0万人)が減少する一方、正規雇用者数(同+5.4万人)の拡大が雇用全体を押し上げるなど、雇用を取り巻く環境の底堅さがあらためて確認されている。地域別でも、最大都市シドニーをはじめとする大都市部のみならず、幅広い地域で雇用拡大の動きが確認されるなど、労働市場が依然としてひっ迫状態にあることを示唆している。なお、総労働時間はわずかに減少しているほか、賃金上昇の伸びも頭打ちの様相を強めるなど物価への影響については不透明ではあるが、足下の企業マインドは幅広く底入れするなど改善を示唆する動きをみせていることに鑑みれば、雇用環境は引き続き堅調な推移をみせる可能性は高まっている。

よって、上述のようにRBAが労働市場を巡る状況を注視しつつ、先行きの政策運営を決定するとの姿勢を示唆していることに鑑みれば、RBAによる緩和サイクルは『浅いもの』に留まる可能性は高まっていると見込まれる。金融市場においては、米トランプ政権の政策運営を巡る不透明感のほか、米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げのハードルが高まるとの見方を反映した米ドル高の再燃に加え、RBAが利下げに動くとの見通しを反映して豪ドルの対米ドル相場は頭打ちの動きを強めてきた。しかし、足下では米ドル高の動きに一服感が出るなかで底打ちに転じる流れがみられるほか、RBAが上述のように『タカ派的』な利下げに留めたことが豪ドル相場を下支えしているものの、当面は米ドル高が意識されやすい環境が続くなかで方向感の出にくい展開となる可能性が高まっている。他方、日本円に対しては日本銀行による利上げが意識されるなかで米ドル/日本円相場に動きが出ており、そうした流れを反映して当面は上値が抑えられやすい展開となることも考えられる。

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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