インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア中銀、景気支援志向も、政策運営は外部環境如何が続く

~財政健全化が急務のなかで物価押し上げ材料が山積、慎重姿勢を維持せざるを得ない展開が続く~

西濵 徹

要旨
  • マレーシア中銀は22日の定例会合で政策金利を10会合連続で3.00%に据え置いた。商品高の一巡などを受けて足下のインフレは落ち着いた推移が続く。他方、財政健全化が急務となるなか、アンワル政権は財政健全化を目的に歳入増を目指すなど物価上昇に繋がる材料は多い。さらに、来月からの最低賃金上昇も物価上昇を招く可能性があり、アジア新興国の中銀が利下げに動く流れが広がるなかでも同行は慎重姿勢を維持してきた。足下の景気に急ブレーキが掛かる動きがみられる一方、米ドル高再燃を受けてリンギ相場を取り巻く環境に不透明感が増すなかで慎重姿勢をあらためて堅持したとみられる。同行は足下の金利水準は景気下支えに繋がるほか、引き続き景気と物価動向を注視するとの考えを示す。政府と中銀は今年の成長率見通しを+4.5~5.5%とするが、内・外需双方に不透明要因が山積するなかでそのハードルは高いと見込まれる。しかし、今後も政策運営は外部環境に手足を縛られる展開が続くことは避けられない。

マレーシア・ネガラ・銀行(中銀)は、22日に開催した定例の金融政策委員会において政策金利を10会合連続で3.00%に据え置く決定を行った。マレーシアのインフレを巡っては、過去数年に亘るインフレ高進を招いた商品高の動きが一巡するとともに、昨年のアジア新興国では異常気象の頻発などを理由とする食料インフレに直面したものの、足下ではそうした動きが一服していることも重なり、頭打ちするなど落ち着いた動きをみせている。アジア新興国のなかには、インフレが鈍化していることに加え、昨年後半は米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けて米ドル高が一服して自国通貨安圧力が後退したことも重なり、中銀が利下げに動くなど景気下支えに舵を切る流れが広がりをみせた。上述したように、マレーシアにおいてもインフレは落ち着いた動きをみせる一方、コロナ禍を経て同国の財政状況は急速に悪化しており、足下の公的債務残高は法定上限(GDP比65%)に達していると試算されるなど財政健全化が急務になっている。こうした事態を受けて、アンワル政権は今年度予算において歳出規模を過去最大とするなど景気下支えを図る一方、増税や燃料補助金の削減などを通じた歳入増により財政赤字のGDP比圧縮を図る方針を示している。具体的には、売上税やサービス税の段階的な拡大、年間10万リンギを上回る配当所得への所得税導入、今年半ばを目途にレギュラーガソリン(RON95)への補助金廃止に動くなど、物価上昇に繋がる可能性がある。また、来月からは最低賃金を月1,700リンギと現行水準(同1,500リンギ)に引き上げる方針を示しており、これも物価上昇圧力を招く可能性がある。こうしたことから、中銀は引き締め姿勢を維持する慎重姿勢をみせるなど、他のアジア新興国中銀と異なる姿勢をみせてきた。さらに、昨年後半は米ドル高が一服する動きがみられたものの、その後は米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高の動きが再燃しており、底入れする動きをみせたリンギ相場は頭打ちに転じるなど資金流出圧力に直面している。足下の同国経済を巡っては、構造面で外需依存度が極めて高いなかで外需を巡る環境が厳しさを増していることを受けて景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されるほか(注1)、先行きは内・外需双方に景気の重石となる材料が山積するなど、中銀にとっては景気下支えに向けた誘因が大きくなっていると捉えられる。こうした状況ながら、上述のようにインフレに繋がる材料が山積も山積しており、現時点においては物価動向を警戒して慎重姿勢を維持していると捉えられる。会合後に公表した声明文では、世界経済について「昨年は主要国の堅調さや世界貿易の好調さを反映して想定を上回り、今年も良好な労働市場や物価、緩和的な金融政策に加え、ハイテク関連の生産拡大の動きが下支え役になる」とする一方、「通商・投資政策を巡る不確実性や、それに伴う金融市場のボラティリティの高まりに注意する必要がある」との見方を示している。同国経済については「昨年は想定内で推移し、今年は底堅い内需をけん引役に力強さが見込まれる」とする一方、「通商・投資政策を巡るリスクが主要国の景気減速や生産下振れを招く可能性がある一方、ハイテク関連の生産拡大の波及効果や外国人観光客数の上振れ、投資進捗が押し上げ要因となる可能性がある」との見通しを示す。また、物価動向について「世界的なコスト環境の緩和、内生的な押し上げ要因も乏しく引き続き管理可能な水準に留まる」としつつ、「商品市況は下振れ傾向にあるなかで当面の物価は緩やかな展開が見込まれ、政策変更に伴う物価への影響は抑えられる」ものの「政策変更の波及効果や商品市況、金融市場の動向が上振れリスクになる可能性はくすぶる」との見方を示す。リンギ相場についても「引き続き外部環境に左右される」として「世界的な政策を巡る不確実性に伴うボラティリティに直面する可能性はある」としつつ、「良好な景気見通しと政策運営は資金流入を促して持続的な下支え役になる」との認識を示している。その上で、政策運営について「現行の金利水準は引き続き景気を下支えするとともに、物価と景気見通しと整合的」、「景気とインフレの安定を図るべく足下の動きを注視しつつ、物価安定と持続可能な経済成長を目指す」との従来からの考えを示しており、先行きも現行の慎重な政策運営を維持する可能性は高いと見込まれる。なお、政府と中銀は今年の経済成長率見通しを+4.5~5.5%としているが、外需の不透明感が高く、内需も勢いを欠く推移が見込まれるなかでその実現のハードルは高いものの、政策運営は外部環境に手足を縛られる展開が続くであろう。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 リンギ相場(対ドル)の推移
図2 リンギ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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