インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア、24年成長率は+5.1%に加速も足下の景気に急ブレーキ

~先行きは外需に「トランプ2.0」の余波、国内もインフレ懸念など景気の重石となる材料は山積~

西濵 徹

要旨
  • マレーシアでは、アンワル政権が経済の立て直しを優先に掲げる一方、コロナ禍を経て財政状況が悪化しており、財政健全化が急務となっている。今年度予算では増税や補助金削減に動く方針を示すなか、足下では米ドル高の再燃でリンギ安圧力がくすぶるなど、インフレ圧力がくすぶる展開が見込まれる。よって、足下のインフレは落ち着いた推移をみせるが、中銀は慎重姿勢を維持せざるを得ない状況にある。また、外需を取り巻く環境も厳しさを増すなか、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比+4.8%と鈍化し、前期比年率ベースでは▲5.72%とマイナス成長になったと試算されるなど景気に急ブレーキが掛かっている。昨年通年の経済成長率は+5.1%となったが、先行きは米トランプ次期政権の対中政策の余波が外需の重石となり、中銀の引き締め姿勢が内需の足かせとなる展開が見込まれる。今年は経済成長率のゲタのプラス幅も縮小しており、当面の景気は勢いを欠く推移をみせる可能性が高いと予想される。

マレーシアでは、アンワル政権が主導してコロナ禍で疲弊した経済の立て直しを優先した政策運営が採られている。ただし、コロナ禍対応を目的とする歳出増を受けて財政状況は悪化しており、足下の公的債務残高は法定上限(GDP比65%)に達すると試算されるなど、景気下支えを図る一方で財政健全化への取り組みも急務となっている。よって、今年度予算では歳出規模を過去最大とするなど景気下支えを進め一方、増税や燃料への補助金削減などによる歳入増に取り組むことで財政赤字をGDP比▲3.8%に抑えるとしている。具体的には、売上税やサービス税の段階的な拡大のほか、年間10万リンギを上回る配当所得への所得税導入、今年半ばを目途にレギュラーガソリン(RON95)への補助金廃止などに動くとしている(注1)。他方、来月からは最低賃金を月1,700リンギと現行水準(同1,500リンギ)に引き上げるなど、過去数年に亘ってインフレに直面した家計部門を支える取り組みを強化する方針を示している。こうしたことから、足下のインフレは落ち着いた推移をみせているものの、上述のように先行きについては物価上昇に繋がる要因が山積している。また、昨年後半は米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル高の一服に伴いリンギ相場は大きく底入れするなど、輸入物価を抑えることに寄与してきた。しかし、その後は米トランプ次期政権による政策運営に対する不透明感を理由に米ドル高が再燃しており、リンギ相場は再び上値が抑えられている。アジアの中銀のなかにはインフレ鈍化を受けて利下げに動く流れがみられるものの、上述のようにインフレは落ち着いた動きをみせているにも拘らず、先行きの物価に上振れ要因が山積するなかで中銀は慎重姿勢を維持せざるを得ない状況に直面している(注2)。その一方、マレーシア経済はASEAN(東南アジア諸国連合)内でも構造面で輸出依存度が相対的に高い上、財輸出の約2割、外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど中国経済への依存度も高い。その上、財輸出に占める鉱物資源関連の割合も2割弱を占めるため、中国景気の減速を受けた国際商品市況の調整の動きは価格、数量の両面で外需の足かせとなることが懸念される。こうしたなか、昨年10-12月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+4.8%と前期(同+5.3%)から鈍化して3四半期ぶりに5%を下回る伸びとなるなど頭打ちの動きが確認されている。前期比年率ベースでも▲5.72%と前期(同+7.56%)から4四半期ぶりのマイナス成長に転じたと試算されるなど、底入れの動きを強めてきた景気に急ブレーキが掛かっている様子がうかがえる。分野ごとの生産の動きも、過去数四半期に亘って低迷してきた鉱業部門の生産は大きく底入れする一方、鉱業以外のすべての分野で生産が下振れする動きが確認されるなど、幅広い分野で景気を取り巻く環境が厳しさを増している様子がうかがえる。なお、昨年通年の経済成長率は+5.1%と前年(+3.6%)から加速するとともに、昨年10月に政府が示した見通し+4.8~5.3%の範囲内に収まった。ただし、10-12月が前期比年率ベースで3年連続のマイナス成長となり、今年の経済成長率に対するゲタは+0.5ptと昨年(+0.8pt)からプラス幅が縮小している。さらに、先行きは米トランプ次期政権が関税を『ディール(取引)』の材料に中国への圧力を強めることが予想されており、中国景気を巡る不透明感に加え、サプライチェーンを通じた悪影響の余波も外需の足かせとなることは避けられそうにない。上述したように、同国経済は外需依存度が高いことに鑑みれば外需が景気の足かせとなるとともに、インフレ懸念を理由に中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ないことで内需も勢いを欠く推移が見込まれ、景気は鈍化傾向を強める展開が続くと見込まれる。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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