トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

トランプ新政権が発足

~就任日の関税実施は見送る一方、移民とエネルギー政策に重点~

前田 和馬

2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任した。米国大統領の返り咲きはクリーブランド氏以来132年振りとなる。就任式は寒波のために議事堂の外ではなく、議事堂内の広間で実施された。バイデン前大統領を含めた歴代大統領や共和・民主両党の連邦議会議員のほか、米国外からはイタリアのメローニ首相、アルゼンチンのミレイ大統領、日本からは岩屋外相などが出席した(これまでの就任式では各国の駐米大使が出席するのが一般的)。

トランプ新大統領は就任演説において、米国第一主義(アメリカ・ファースト)を通じて「これから米国の黄金時代が始まる」と述べた。また、同演説では具体的な政策への言及が目立った。具体的には「南部国境における非常事態宣言の発令や軍隊の派遣などを通じて、不法移民対策を強化すること」、「原油増産を通じて、生活コストを下げること」、「外国歳入庁の創設によって関税収入を拡大させる一方、政府支出を効率化すること」などを指摘した。また、自身への訴訟に繋がったと主張する「司法の武器化」を終了させることに加えて、「中国が運営するパナマ運河を取り戻す」ことも主張した(パナマ大統領は同運河の運営を巡る中国の関与を強く否定)。

また、2024年11月に表明した「対中関税10%、対メキシコ・カナダ関税25%」の実施は就任日に見送られた。一方、関税発動を見据えた大統領令に署名し、貿易赤字の原因、不公正な貿易慣行、為替操作の有無などを調査するほか、2026年7月のUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直しに向けた手続きの開始や、2020年に締結した米中貿易合意の履行状況を評価する方針を示した。加ええて、記者団とのやりとりにおいて、2月1日にメキシコとカナダに関税を課す方針に言及した。とはいえ、こうした関税表明は移民対策に対するメキシコ側の譲歩(後述)を引き出す狙いがある可能性も否めず、実際に言及通りに実施するかは依然不透明である。

同日に公表した「トランプ・バンス政権の優先事項」では下記の4項目を挙げ、特に移民とエネルギー政策に重点を置いた。既に署名した、或いは今後署名する多くの大統領令によって、各種政策を推進するとみられる。

①再び米国を安全に(移民政策)

「国境と米国社会を守るために大胆な行動をとる」と述べ、国境の壁の建設、亡命申請者のメキシコでの待機、不法越境者による亡命の廃止などを挙げた。また、南部国境へ派遣された軍隊が(国家安全保障に関わる)国境警備を担うほか、犯罪歴のある移民の強制送還に取り組む方針が示された。

20日時点において、移民希望者が亡命申請を行うための「CBP One」アプリの使用が既に停止されており、同アプリを通じた面会予約がキャンセルされたと報じられている。なお、移民流入の抑制効果を巡っては、不法移民の流入元であるメキシコ側の協力が得られるのかに加えて、(国内法の執行に関与できない)軍隊の投入が実効性を持つのかが焦点となるだろう。また、不法移民の強制送還に関しては、リベラル系都市において民主党系の知事や市長がトランプ政権に協力するのか、実行するうえでの予算・人員面の不足はないのかなどの課題が多く、早期に数百万人の送還を実現するハードルは非常に高い。ちなみに、Wall Street Journalが1月9~14日に実施した世論調査によると、米国民の74%が「犯罪歴のある不法移民を拘留・強制送還するのが望ましい」と回答する一方、こうした強制送還の対象に「10年以上米国に居住し、納税しており、犯罪歴がない」不法移民を含めるべきとの意見は26%に留まっている。

②再び米国の購買力を上げ、エネルギーを支配する(エネルギー政策)

「エネルギー緊急事態宣言」を発令し、バイデン政権下で導入された各種のエネルギー規制(国有地における石油・ガス開発の制限、掘削手数料の引き上げ、及び液化天然ガスの輸出審査凍結)を撤廃する方針を示した。また、気候変動対策を巡っては、国際的な枠組みであるパリ協定からの再離脱、及び景観を損ねている大規模風力発電所へのリース終了を挙げた。こうした化石燃料への促進策がエネルギー価格を低下させるほか、関税策を含む「米国第一の通商政策」も通じて、米国の購買力を向上させる方針(Make America Affordable)を強調した。

こうしたエネルギー関連規制の緩和は中長期的な原油供給を増加させ、ガソリン価格等の低下圧力になることが期待されるものの、開発等に要する時間を踏まえると短期的な効果は抑制される可能性がある。また、今後の原油価格動向を占ううえでは、対イラン制裁を含む米国の外交方針が中東情勢に与える影響も焦点となるだろう。

③既得権益を一掃する(行政改革)

政府官僚機構を改革するため、必要不可欠なものを除いて新規採用を凍結するほか、「必要以上の報酬を受け取るDEI(多様性・公平性・包括性)活動家の猛攻撃を終わらせる」と主張した。また、同日の大統領令において、各省庁が迅速にリモートワークを終了し直接勤務する手続きを進めることを決定した。

④米国の価値観を取り戻す(保守系政策)

「男性と女性を生物学的な現実として確立し、過激なジェンダー・イデオロギーから女性を守る」ことを表明した。また、「米国のランドマークは、我が国の歴史にふさわしい名称となる」と言及したうえで、北米最高峰の「デナリ山」を「マッキンリー山」に戻す大統領令に署名した(2015年、当時のオバマ大統領がマッキンリー元大統領にちなんで名付けられていた呼称をアラスカ州の意向を受けて改名)。

図表
図表

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ