インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国当局が旗を振る内需喚起策は持続的なものとなるか?

~資産デフレが債務拡大余地を狭めるリスク、人民元安懸念が政策の手足を縛る可能性にも要留意~

西濵 徹

要旨
  • 中国経済においては、不動産不況に若年層を中心とする雇用回復の遅れが内需の重石になるとともに、景気の足かせとなってきた。こうしたなか、当局は内需喚起への取り組みを強化させており、耐久消費財の買い替え促進や大規模設備更新を追い風に企業マインドも改善する動きがみられる。しかし、企業マインドは改善するも雇用調整圧力がくすぶるなかで根強いディスインフレ圧力がくすぶる展開が続く。当局は今後も内需喚起の動きを強化する姿勢をみせるが、不動産市況の底がみえないなど資産デフレ圧力がくすぶるなかで家計債務の拡大余地が狭められる懸念はくすぶる。さらに、企業債務はすでに底入れするなかで政策支援を追い風に上振れすれば過剰債務の懸念が再燃するリスクもある。金融市場では当局が一段の金融緩和に動くとの観測がある一方、米中金利差拡大を理由に人民元安が進んでいる。人民元安が習近平指導部の思惑に反する懸念もあり、内需喚起策の持続力には不透明感がくすぶるのが実情であろう。

中国経済を巡っては、不動産不況に加え、コロナ禍を経た若年層を中心とする雇用回復の遅れが家計消費をはじめとする内需の重石となるとともに、内需の低迷が景気の足かせとなる展開が続いてきた。こうしたなか、中国当局は昨年後半以降、内需喚起に向けて家計部門を対象とする耐久消費財を対象とする買い替え促進に向けた補助金政策(以旧換新)、企業部門を対象とする大規模設備の更新を促すべく、金融緩和と財政出動による総合的な政策支援に動く方針を示している。その後も、経済政策を巡って経済成長を支えるべく『より積極的な』財政政策と、『適度に緩和的な』金融政策に動くなど方針転換に舵を切り、内需喚起を積極化させる姿勢をみせている。そして、先月の中央経済工作会議においても、経済政策を巡る重大項目の筆頭に内需喚起を掲げるなど、あらためて政策支援の動きを積極化させる方針を示している。こうした動きも追い風に、足下の企業マインドは製造業、サービス業問わず底入れするとともに、幅広い分野で生産活動が活発化する動きが確認されるなど、頭打ちの流れが続いた景気を取り巻く環境は変化している様子がうかがえる(注1)。また、当局による耐久消費財の買い替え策を追い風に、足下の自動車販売台数はEV(電気自動車)をはじめ新エネルギー車をけん引役にして伸びが加速しており、家計消費が喚起される動きが確認されている。他方、上述のように企業マインドは幅広い分野で改善する動きがみられる一方、生産拡大の動きにも拘らず雇用調整圧力がくすぶり、近年の中国国内における人件費上昇を受けて企業部門は省力化投資を活発化させており、『雇用なき生産拡大』とも呼べる動きがみられる。さらに、上述のように当局は内需喚起を目的に、企業部門に対して大規模設備の更新を促す動きをみせており、結果的に今後も省力化投資が一段と活発化することで雇用機会が喪失するとともに、若年層を中心とする雇用回復が進みにくい事態も予想される。こうした状況は、足下では政策支援により家計消費が押し上げられる動きがみられるにも拘らず、ディスインフレ圧力が根強いことに加え、先行きもディスインフレ圧力がくすぶる懸念が高いことに現れている(注2)。よって、当局は今年も引き続き内需喚起に向けた取り組みを一段と強化する方針を示しているものの、中国景気の先行きに対する不透明感がなかなか払拭できない一因になっていると捉えられる。こうした背景には、近年の中国においては家計部門向けの信用拡大の動きが内需拡大を促す一助になってきたと捉えられる一方、コロナ禍を経て不動産需要に陰りが出るとともに、不動産市況も頭打ちに転じるなど資産デフレ圧力が強まっていることも重なり、コロナ禍以降の家計向け信用残高のGDP比は頭打ちしており、内需の足を引っ張る一因になってきたことがある。足下では当局による不動産対策を受けて新築住宅に下げ止まりの兆しがみられるものの、中古住宅に加え、地方部などでは依然として底がみえない状況にあり、家計部門における資産の大宗を不動産が占めるなかでバランスシート調整圧力に晒されやすい展開が続くことも予想される。当局の内需喚起策を受けて家計部門向け信用残高は増加すると見込まれるが、先行きも資産デフレを理由とするディスインフレ圧力がくすぶるなかでGDPの重石となれば、若年層を中心とする雇用不安の動きも相俟って信用拡大の余地を狭める可能性に留意する必要がある。また、企業部門も同様に政策支援を追い風に設備更新を積極化させている可能性がある一方、企業部門向け信用残高のGDP比はすでに底入れの動きを強めており、政策支援により一段と上振れすれば債務の過剰感にあらためて注目が集まる事態も予想される。このところの金融市場においては、当局が景気下支えに向けて一段の金融緩和に動くとの観測がある一方、いわゆる「トランプ2.0」の下で米FRB(連邦準備制度理事会)による一段の利下げのハードルが高まるとの見方を反映して米中間の金利差が拡大しており、人民元安圧力が掛かりやすい状況にある。人民元相場は管理フロート制下にあるうえ、事実上の資本規制が敷かれているものの、先安観が強まれば資金流出の動きが強まり、人民元相場を巡る不安定感が増す事態も予想されるほか、人民元安が進めば習近平指導部が目論む世界経済における中国経済の存在感向上を阻む要因となることも懸念される。その意味では、当局が進める内需喚起策の持続力には極めて不透明感が高いと捉えることができる。

図表
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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