インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ベトナムの24年成長率は+7.09%に加速も、先行きには懸念山積

~「トランプ2.0」の動向や電力不足懸念、政府が掲げる高過ぎる目標の行方にも要注意~

西濵 徹

要旨
  • ここ数年のベトナム経済は、米中摩擦や世界的なサプライチェーン見直しの動きが追い風となる状況が続く。昨年の台風被害の影響が懸念されたが、10-12月の実質GDP成長率は前年比+7.55%と過去2年で最も高い伸びとなり、景気の底入れが確認されている。輸出の堅調さやそれを受けた対内直接投資の活発な動きのほか、外国人来訪者数の拡大など外需が景気を押し上げる展開が続く。他方、インフレ鈍化にも拘らず家計消費は力強さを欠くなど外需の活発化が内需を押し上げる有機的な動きとはなっていない。分野ごとの生産動向には、外需を巡る不透明感を警戒する向きもみられ、外部環境の行方に要注意である。
  • 2024年通年の経済成長率は+7.09%と政府目標を上回るとともに、1人当たりGDPも共産党が掲げる目標を1年前倒しで達成するなど、昨年発足したラム体制の追い風になると期待される。他方、今月発足する米国のトランプ次期政権はディールを重視し、ベトナムは米国にとって有数の貿易赤字国であるなかでその「矛先」が向かうリスクは高い。また、電力不足回避へ石炭火力発電への依存を強めるなどカーボンニュートラル目標の後ろ倒しは必至とみられる。政府は今年の経済成長率目標を+6.5~7.0%としているが、内・外需双方に不透明要因が山積するなかで高過ぎる目標を掲げることにも注意が必要と捉えられる。

ベトナム経済を巡ってはここ数年、米中摩擦の動きに加えて世界経済の分断が進むなか、デリスキング(リスク低減)を目指したサプライチェーン見直しの動きなどを追い風に、中国に代わる生産拠点の『受け皿』として対内直接投資が活発化するとともに、そうした流れを受けた米国向けをはじめとする輸出拡大の動きが景気をけん引する展開が続く。さらに、昨年は世界最大のコメ輸出国であるインドによるコメ禁輸や異常気象の頻発を理由とする食料インフレを受けた物価上昇の動きが家計消費の足かせとなる事態に直面したものの、足下ではそうした動きは一巡している。また、国際金融市場においては米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高の動きが再燃しており、通貨ドン相場は調整の動きを強めるなど輸入物価を押し上げる懸念は高まっているものの、足下のインフレ率は中銀目標を下回る推移が続いている。他方、昨年9月には台風11号(ヤギ)が直撃して同国北部で深刻な被害が発生するとともに、幅広く経済活動に悪影響が出ており、同国政府は経済的な被害が33億ドル(GDP比0.8%)に及ぶとの試算を公表するなど景気の足かせとなることが懸念された(注1)。こうした状況ながら、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+7.55%と前期(同+7.43%)から一段と加速して過去2年で最も高い伸びとなるとともに、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースではプラス幅こそ鈍化するも、3四半期連続で堅調な推移をみせるなど底入れの動きが確認されている。サプライチェーン見直しの動きが続くなかで対内直接投資は引き続き活発な流入が続いているほか、こうした動きに加え、米国景気の堅調さや通貨ドン安による輸出競争力の押し上げも重なる形で輸出が底入れの動きを強めていることも景気を押し上げている。さらに、中国からの来訪者数は依然としてピークを下回る水準に留まるものの、中国以外からの来訪者数の活発化の動きを追い風に足下の外国人来訪者数はコロナ禍直前のピークに迫る水準となるなど勢いを増す動きをみせており、サービス輸出の押し上げに繋がっている。他方、インフレ鈍化にも拘らず足下の家計消費は勢いを欠く推移をみせるなど、上述した台風被害の影響が内需の足かせとなっている様子がうかがえる。このように、足下の景気は引き続き外需がけん引役となっているほか、外需の拡大を前提にした企業部門による設備投資が下支え役となる動きがみられる一方、家計消費は力強さを欠く動きをみせており、外需と内需が有機的に繋がる状況とはなっていないと捉えられる。分野ごとの生産動向も、農林漁業など第1次産業で底入れの動きがみられるほか、サービス業など第3次産業の好調な推移をみせる一方、製造業や鉱業など第2次産業の生産が鈍化しており、外需を取り巻く環境に不透明感が高まっていることが影響している可能性がある。

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なお、昨年の経済成長率は+7.09%と前年(+5.05%)から加速して2年ぶりの高い伸びとなるとともに、政府の経済成長率目標(+6.8~7.0%)の上限をも上回る伸びとなるなど堅調に推移していることは間違いない。さらに、政府に拠れば昨年の1人当たりGDPは米ドルベースで4,700ドルと前年(4,223ドル)から増加し、2021年に開催されたベトナム共産党大会において掲げられた目標(2025年時点における1人当たりGDPを4,700~5,000ドルとする)を1年前倒しする形で達成したことになる。ここ数年、共産党内においては昨年7月に逝去したチョン前党中央委員会書記長(党書記長)が主導した「反腐敗・反汚職」運動の下で多数の高官が更迭されるなど混乱が続いてきたものの、堅調な経済成長が続いていることはチョン氏の逝去を受けて後任の党書記長となったラム体制にとって、来年の次期党大会を前に幸先の良いニュースになっていると捉えられる。他方、今月発足する米国のトランプ次期政権は『ディール(取引)』を重視するとともに、追加関税を取引材料に各国と協議する姿勢をみせており、米国にとってベトナムは中国、メキシコに次ぐ貿易赤字国となっていることに鑑みれば、この圧縮を求める形でその『矛先』が向かう可能性に注意する必要がある。さらに、ここ数年のベトナムにおいてはチョン前政権下での反腐敗・反汚職運動が足かせとなる形で電力をはじめとするインフラ投資の進捗が遅れており、電力不足が幅広い経済活動の足かせとなることが懸念されている(注2)。政府は電力不足を回避すべく発電用石炭の輸入を活発化させており、電力不足が再び顕在化する事態とはなっておらず、結果的に足下の景気底入れの動きを促す一助となっていると捉えられる。ベトナム政府は2021年に開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)において、2050年までに温室効果ガスのネット排出ゼロ(カーボンニュートラル)の実現を目指す方針を示しているが、現状においては電力不足回避に向けて石炭火力発電に依存せざるを得ない状況が続いており、この目標は事実上後ろ倒しが避けられない状況にある。政府は今年の経済成長率目標を「+6.5~7.0%」としているほか、先月にはチン首相が8%成長を目指すとの意欲を示すなど高い目標を掲げているものの、内・外需双方に不透明要因が山積していることを勘案すれば、高過ぎる目標を掲げることには要注意である。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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