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2024.12.18
アジア経済
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タイ中銀、高まる「不確実性」への余力を残すべく金利維持を決定
~外部要因による不確実性を警戒する一方、政府との金融政策を巡る対立再燃の懸念はくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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- タイ中銀は18日の定例会合で政策金利を2会合ぶりに2.25%に据え置いた。足下のインフレ率は中銀目標の下限を下回るなど落ち着いた動きをみせるなか、政府は中銀に度々利下げを要求する動きをみせてきた。バーツ安の動きが一服したことを受けて、中銀は10月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動き、直後に財務相と中銀総裁が直接会談を行い、金融政策と財政政策の共同歩調を取る一方で金融政策の判断は中銀に任されることで合意した。ただし、バーツ相場に対する両者の見方に隔たりがあるほか、その後も両者の間に金融政策を巡る温度差がうかがえた。中銀は政権のバラ撒き志向などが物価や為替に与える影響を警戒して慎重姿勢を示しており、どういう判断を下すかに注目が集まった。こうしたなかで今回の決定は「全会一致」であるとともに、不確実性の高まりに対応すべく現状は余力を残したいとの思惑がうかがえる。米トランプ次期政権の通商政策など不透明要因が山積するなか、中銀は当面様子見姿勢を維持すると見込まれる一方、政府との間で金融政策を巡る対立が再燃する可能性には要注意と言えよう。
タイ銀行(中銀)は、18日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を2会合ぶりに2.25%に据え置く決定を行った。昨年来のタイでは、プラユット元政権が実施した燃料補助金によりエネルギー価格が抑えられて物価に下押し圧力が掛かったことに加え、足下では食料インフレの動きが一巡していることも重なり、インフレ率は中銀目標(2±1%)の下限を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせている。こうしたことから、昨年の総選挙を経て発足したセター前政権は中銀に対して公然と利下げ実施を要求する動きをみせてきたほか、8月にセター氏が退任を余儀なくされたことで後任となったペートンタン首相も同様に中銀に利下げ実施を要求してきた。他方、中銀は国際金融市場における米ドル高を受けた通貨バーツ安が輸入インフレのほか、セター、ペートンタンの両政権がバラ撒き志向が強く、その財政運営を巡る懸念やインフレ圧力を増幅させることを警戒して引き締め姿勢を維持してきた。しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けて米ドル安が進行してバーツ相場は一転底入れの動きを強めるなど輸入インフレの懸念が後退するとともに、バーツ高が外需の足かせとなる懸念が高まったため、中銀は10月の前回会合でコロナ禍後初の利下げに動いた(注1)。その直後にはピチャイ財務相とセタプット中銀総裁による直接会談が行われ、中銀は景気を下支えすべく財政政策を側面支援しつつ、インフレ率を1~3%に収めるという現行のインフレ目標を維持することで合意する一方、財務相は暗に中銀に対して利下げを求めるも、決定そのものは中銀に委ねるとの考えを示した(注2)。ただし、政府と中銀の間には『バーツ相場の見方』を巡って乖離がうかがえるなか、その後は米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて米ドル高の動きが再燃しており、バーツ高の動きは一服して調整の動きを強めたため、中銀は引き続き慎重姿勢を維持する考えをみせた。また、先月末に年次協議(4条協議)を終了したIMF(国際通貨基金)が公表文において利下げを事実上後押しする指摘を行ったことを受け、直後にピチャイ財務相はこれを『お墨付き』と捉える形で利下げ余地に言及しつつ、景気下支えに向けて金融、財政政策の協調の深化が必要になるとの認識を示す一方、セタプット中銀総裁は慎重姿勢を維持する可能性に含みを持たせるなど、金融政策に対する両者の『温度差』がうかがえた(注3)。さらに、ペートンタン政権は来年から最低賃金を1日当たり400バーツと現状(同330~370バーツ)から最大で2割以上引き上げる方針を示しており、この動きも物価上昇圧力に繋がる可能性がある。そして、中銀による慎重姿勢がバーツ相場を下支えする動きがみられたものの、足下では米ドル高圧力が強まるなかで再び上値が抑えられており、中銀がどのような政策判断を行うかが注目された。会合後に公表した声明文では、今回の決定は「全会一致」であったとした上で、同国経済について「主要国の政策に起因する外部環境の変化や不確実性といった課題に直面している」ほか「現行の金利水準は潜在成長率並みで推移する景気動向や物価の安定、想定される不確実性に耐え得る金融政策の対応力を含め、経済や金融の安定に資するもの」との考えを示している。その上で、経済成長率について「今年は+2.7%、来年は+2.9%」と従来見通しを据え置く一方、「分野ごとに直面する状況は異なり、主要国の政策を巡る不透明感が輸出や投資動向に影響を与える可能性がある」との見方を示している。また、物価動向について「今年は+0.4%、来年は+1.1%」と従来見通し(今年は+0.5%、来年は+1.2%)からわずかに下方修正しており、「国際原油価格が低水準で推移するなかでエネルギー価格は安定し、中期的なインフレ期待も目標域での推移が見込まれる」としている。なお、足下において信用拡大のペースが鈍化していることについては「政府主導の家計部門や中小・零細企業向け債務救済プログラム(You Fight, We Help)の効果を見極めることが適切」とするなど、その効果を見極めた上で『次の手』を示すとの意向をみせている。また、足下でバーツ安圧力が高まっていることを念頭に「主要国の政策がタイ金融市場に与える影響を注視する必要がある」とした上で、先行きの政策運営について「経済の持続的成長や金融安定の維持に配慮しつつ、不透明感が増すなかで経済・金融情勢を注視しつつ適切な対応を講じる」とするなど、あらためて慎重姿勢を示したと捉えられる。



注1 10月16日付レポート「タイ中銀がコロナ禍後初の利下げも、先行きも慎重姿勢を維持か」
注2 10月30日付レポート「タイ、財務相と中銀総裁が会談、「バーツ相場の見方」が焦点に」
注3 12月4日付レポート「タイ、金融政策を巡る政府と中銀の見方には依然隔たりがある模様」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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