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2024.12.09
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中国のデフレ圧力は一段と強まり、世界経済の波乱要因となる懸念
~需要なき生産拡大は「デフレの輸出」を加速させるなど、新たな懸念要因となる可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の中国経済は不動産不況が重石となっているが、当局は五月雨式に景気下支え策を公表するなど政策転換に動いている。こうした動きを反映して、幅広く生産拡大の動きが強まるなかで企業マインドも改善している。しかし、足下の生産拡大は買い替え策などに伴う需要先喰いのほか、外需を巡る駆け込みが影響している可能性がある。企業マインドは改善するも、雇用調整圧力がくすぶるなど家計消費を取り巻く環境は厳しさを増す展開が続いており、先行きは過剰生産に伴うデフレの輸出が深刻化するリスクもくすぶる。
- 需要の弱さがデフレ圧力を招く懸念がくすぶるなか、11月のインフレ率は前年比+0.2%と5ヶ月ぶりの伸びに鈍化しており、生活必需品のみならず、財、サービスなど幅広く物価に下押し圧力が掛かる動きがみられる。さらに、川上段階の物価に当たる生産者物価も調達価格は前年比▲2.5%、出荷価格も同▲2.5%とマイナス基調が続いており、川上段階から川中、川下にかけて物価上昇圧力が高まりにくい状況が続いている。先行きも商品市況の下落の動きが伝播していくことに鑑みれば、ディスインフレ基調が続くであろう。
- 金融市場では、中央経済工作会議で何らかの景気下支え策が打ち出されるとの期待がみられる。来年の経済成長率目標の設定などに関する報道も出ているが、中国のGDP統計は供給サイドの統計であり、需要が伴わないなかで供給拡大の動きが進めば、デフレの輸出が深刻化するリスクもある。人民元安が米トランプ次期政権によるディールの材料となる可能性もあり、世界経済にとって難しい局面が続くであろう。
足下の中国経済を巡っては、不動産不況をきっかけに景気は頭打ちの様相を強めるなか、当局は五月雨式に景気下支えに向けた取り組みを公表するなど、政策転換に舵を切る姿勢をみせてきた。金融緩和と財政出動を通じた総合的な政策対応の強化により、今年の経済成長率目標(5%前後)の実現を後押しするとの考えをみせるものの、財政出動については具体的な額は示されず、実体経済をどれほど後押しするかは見通せない状況にある。他方、金融市場においては、当局が示したPKO(株価維持策)を好感する形で長期に亘って低迷した中国本土株が大きく底入れする動きをみせたものの、足下では一連の対策において直接的な需要喚起に繋がる方策が示されず、その効果が不透明であることを理由に上値が抑えられる展開が続く。なお、先月の全人代(全国人民代表大会)常務委員会後に、当局は総額10兆元(GDP比8%弱)に上る対策を公表したものの、これも地方政府の債務負担軽減に用いられるなど直接的な需要拡大に繋がる訳ではない。こうした状況ではあるものの、足下の企業マインドは一連の景気下支え策を好感する形で力強さを欠く推移が続いた製造業で大きく改善する動きが確認されるほか、生産活動が活発化する動きもみられる。とはいえ、足下の家計消費に底入れの動きが確認されている背景には、買い替え促進策の動きに加え、主要EC(電子商取引)サイトによるセールの前倒し実施などに伴う需要『先喰い』の影響に加え、米大統領選で勝利したトランプ次期大統領が中国からのすべての輸入品に10%の追加関税を課す方針を明らかにするなど、そうした影響を警戒した『駆け込み』の動きが生産活動を押し上げている可能性に注意する必要がある。さらに、上述のように足下においては幅広い分野で生産活動が活発化しているものの、雇用調整圧力がくすぶるなど家計消費の足かせとなる動きがみられるなど、足下の内需に先喰いの動きがみられることを勘案すれば、先行きの内需は早晩下振れすることが懸念される。足下の中国景気は外需や内需のなかでも投資に依存する展開が続いているが、先行きは米中摩擦の一段の激化が見込まれることを勘案すれば、外需については米国以外の国や地域への輸出を活発化させることが予想されるとともに、過剰生産能力に伴う余剰分を低価格で輸出に回す『デフレの輸出』の動きが強まることも考えられる。金融市場においては、月内にも開催予定の来年のマクロ経済運営の方針を討議する中央経済工作会議において、何らかの景気下支え策が打ち出されるとの期待がみられるものの、過去には経済成長率目標の数字以外の具体策などが示された例が少ないことに鑑みれば、『期待外れ』に終わる可能性は高い。他方、中国のGDP統計は供給サイドの統計で構成されており、足下の生産拡大の動きはGDPの押し上げに資すると見込まれる一方、内需の回復が遅れるなかで上述のように外需に依存せざるを得ない展開が続けば、世界経済のかく乱要因となる可能性に留意する必要がある。

このように、足下の中国経済を巡っては内需を取り巻く環境は厳しさを増しており、需要の弱さを反映してデフレに陥る懸念が高まっているが、11月の消費者物価も前年同月比+0.2%と前月(同+0.3%)から鈍化して5ヶ月ぶりの低い伸びに留まるなど、引き続きゼロ近傍で推移する展開が続いている。前月比も▲0.6%と2ヶ月連続で下落するとともに、前月(同▲0.3%)からそのペースが加速するなど下振れする動きが確認されており、このところの国際原油価格の頭打ちの動きなどを反映してエネルギー価格が下振れしているほか、野菜(同▲13.2%)や果物(同▲3.0%)、水産品(同▲1.3%)のほか、牛肉(同▲3.4%)や豚肉(同▲1.9%)などの肉類といった生鮮品を中心とする食料品価格に総じて下押し圧力が掛かる動きがみられるなど、生活必需品を中心に物価上昇圧力が後退していることが影響している。なお、食料品やエネルギーを除いたコアインフレ率も11月は前年同月比+0.3%と前月(同+0.2%)からわずかに伸びが加速しているものの、インフレ率と同様に引き続きゼロ近傍で推移する展開が続くなど、ディスインフレ圧力の根強さを示唆している。さらに、前月比は▲0.1%と前月(同±0.0%)から2ヶ月ぶりの下落に転じており、食料品以外の消費財価格も下振れする動きが確認されるとともに、観光関連(同▲5.6%)をはじめとする幅広いサービス物価も下落しているほか、このところの不動産価格の調整の動きを反映して家賃(同▲0.1%)にも下押し圧力が掛かるなど、資産デフレの動きがディスインフレ圧力を増幅させている可能性もある。そして、上述のように雇用を取り巻く環境は厳しさを増すなかで家計部門は財布の紐を固くしているほか、企業部門もECサイトを中心に価格競争を激化させる動きをみせており、結果的に物価が上昇しにくい環境となっていることも考えられる。

こうした状況は川上の企業部門においても物価上昇圧力が高まりにくい環境を招いており、11月の生産者物価(調達価格)は前年同月比▲2.5%と前月(同▲2.7%)からマイナス幅は縮小しているものの、22ヶ月連続のマイナスとなるなど物価の重さを示唆する展開が続いている。前月比は▲0.1%と前月(同▲0.3%)からマイナス幅は縮小するも、5ヶ月連続で下落しており、原油をはじめとする国際商品市況の調整の動きなどを反映して原材料関連を中心に調達価格に下押し圧力が掛かっていることが影響している。なお、公共投資の進捗促進の動きを反映して、建築資材関連や非鉄金属関連などで物価上昇圧力が強まる動きがみられるものの、これら以外の幅広い分野で全般的に物価に下押し圧力が掛かっている様子がうかがえる。こうした状況を受けて、11月の生産者物価(出荷価格)も前年同月比▲2.5%と前月(同▲2.9%)からマイナス幅は縮小するも25ヶ月連続のマイナスで推移しており、川中段階にかけて物価に下押し圧力が掛かる展開が続いている。前月比は+0.1%と前月(同▲0.1%)から6ヶ月ぶりの上昇に転じており、国際商品市況の調整を受けた調達価格の下振れを反映して鉱物資源関連で物価に下押し圧力が掛かる一方、中間財関連で緩やかに物価上昇圧力が掛かる動きがみられる。消費財関連では、食料品価格に下押し圧力が掛かる動きがみられる一方、日用品関連でほぼ横這いの動きが続いているほか、原材料価格の上昇を反映して耐久消費財関連の物価で緩やかに上昇圧力が強まる動きがみられるものの、全体としては物価上昇圧力が高まりにくい状況が続いていることは変わっていない。上述したように、足下では川上の段階で物価に下押し圧力が掛かる動きがみられるなか、先行きは川中から川下段階にかけてこうした動きが伝播することに鑑みれば、先行きについては物価の下振れが意識される展開が続くと予想される。

なお、上述したように金融市場においては、中央経済工作会議において何らかの景気下支えに向けた動きが示されるとの期待が高まっており、一部の報道においては来年の経済成長率目標が「4.5~5.5%程度」になるとの見方も示されている。しかし、中国のGDP統計は供給サイドの統計であることに鑑みれば、仮に需要に基づかない形で生産活動が活発化してもその『数字』を埋め合わせることは可能と捉えられる。さらに、中国国内における内需が弱いなかでそうした動きが活発化すれば、外需への依存度を強めることが予想されるとともに、当局が金融緩和に舵を切っていることに加え、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて米ドル高の動きが再燃していることも相俟って、輸出競争力向上の観点から人民元安が進むことも考えられる。他方、米国のトランプ次期政権はあらゆる物事に関連して「ディール(取引)」を持ちかけることが予想されるとともに、過度な米ドル高(人民元安)の進行に対して追加関税をはじめとする『圧力』を持ちかけることも見込まれる。そうなれば、景気に対する不透明要因が高まることも考えられるなど、中国景気に期待することは難しい展開が続くとともに、世界経済にとっても不透明な状況が続くことは避けられないであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

