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2024.10.31
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中国、景気刺激策の効果で景況感底打ちも不透明要因は依然山積
~金融市場が抱く期待に息切れ感、時間稼ぎの間に構造改革に動けるか、タイムオーバーとなるか~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの中国経済は、不動産不況をきっかけにした景気減速が深刻化するなど成長率目標実現のハードルが高まっている。当局は5月に不動産対策を公表したほか、中銀も金融緩和に舵を切ったが、金融市場は足下を見透かす対応が続いた。こうしたなか、9月末以降は五月雨式に景気刺激策を公表し、金融市場は「政策に売りなし」の言葉通り活況を呈する動きがみられる。しかし、具体策に乏しい内容ゆえに早くも息切れが懸念されるほか、金融市場は「次」を期待する動きをみせるなど難しい状況に直面している。
- 五月雨式の景気刺激策公表による金融市場の活況は企業マインドの追い風になると期待されるなか、9月の企業マインドは製造業、非製造業ともに好不況の分かれ目を上回るなど底打ちが確認されている。ただし、製造業では見切り発車的な生産拡大が確認されるほか、非製造業では国慶節連休による一時的な押し上げが影響している可能性に留意する必要がある。さらに、マインド改善にも拘らず製造業、非製造業ともに雇用回復が遅れており、家計消費をはじめとする内需を取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。
- 報道では、来月の全人代常務委員会で総額10兆元規模の特別国債の発行が承認されるとのリーク記事が出ている。額面はGDP比8%弱に達するも、その使途は需要喚起に繋がるものではなく景気下支えに繋がるかは未知数である。金融緩和と財政出動による時間稼ぎのうちに構造改革の進展が求められるが、米ドル高の再燃など外部環境が変化するなかで対応は難しさを増す可能性もある。中国経済の行方は世界経済に大きな影響を与えるだけに、当局には金融市場が抱く期待を失望に変えない努力が求められる。
このところの中国経済を巡っては、不動産不況をきっかけにした景気減速の動きが一段と深刻化しているほか、共産党や政府が掲げる今年の経済成長率目標(5%前後)の実現のハードルが高まる事態に直面している(注1)。こうしたなか、当局は不動産不況の元凶となっている不動産在庫の解消を目的に、地方政府が『妥当な価格』で未完成の住宅を買い上げた上で低所得者層向けの安価な保障性住宅に転用するほか、地方政府が売却した土地の買い戻しを認めることにより、過剰供給問題に対応する方針を明らかにした。また、人民銀行(中銀)も需要喚起を目的とする住宅ローン金利や頭金規制の引き下げに加え、最大で1兆元規模の貸付制度を創設し、うち5000億元を大手21銀行に対する3000億元の再融資プログラムを含めた保障性住宅向け貸付に、残りの5000億元を担保補完貸付制度に振り向ける方針を明らかにした。他方、事態の深刻さに対して公表された対策の『本気度』の小ささを見透かすように、金融市場は一時的に盛り上がりをみせるもすぐに勢いを失うとともに、実体経済も一段の下振れを余儀なくされる事態に見舞われた(注2)。その後も中銀は政策金利の引き下げなど全面的な金融緩和に動く一方で利下げ幅は小幅に留めるなど小出しの対応を続けるとともに、国際金融市場における米ドル高が人民元安を招くことを警戒してイールドカーブのスティープ化を図るなど、金融緩和の効果を相殺するというちぐはぐな対応を続けた。しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ観測の高まりを機に国際金融市場を取り巻く環境が大きく変化したこともあり、中銀と国家金融監督管理局、証券監督管理委員会が合同で記者会見を行い、一段の利下げと預金準備率の引き下げのほか、既存の住宅ローン金利の引き下げ、住宅ローンの頭金規制の統一、借り換えに伴う資金支援比率の引き上げなど住宅需要喚起策を公表した。さらに、不動産市況の下支えを目的とする特別目的債券発行による遊休地購入のほか、信用力の高い企業を対象に不動産開発業者からの土地取得を目的とする融資を可能とする方針を示した。また、PKO(株価維持政策)として金融機関による株式保有拡大を目的とするスワッププログラム(5000億元)、企業の自社株買い促進に向けた低利融資(最大3000億元)を公表した。その後に開催された共産党中央政治局会議では金融緩和と財政出動により成長率目標の実現を後押しする方針を示したほか、財政部も特別国債の『大幅な発行増』を通じた低所得者層への補助金給付や不動産市場支援、国有銀行の資本拡充に動く方針を示した。そして、住宅都市農村建設部も地方政府が優良な住宅開発案件を選定して商業銀行に融資を促す制度(ホワイトリスト)を大幅に拡充する(2.3兆元→4兆元)ほか、都市部の老朽化住宅の再開発促進を図る方針を明らかにしている。このように、当局が五月雨式に対応を公表していることを受けて、金融市場では「政策に売りなし」という『逸話』に沿う形で株価は大きく底入れする動きが確認された。しかし、一連の対応を巡っては財政出動に言及するも、その『規模感』が示されないなど内容に不透明感がくすぶるなか、株式相場は上値の重い展開をみせるなど早くも『次』を催促している様子がうかがえる。現状においては五月雨式に対応を公表することで金融市場の期待を繋いでいるとみられるものの、具体性を欠く対応が続けば足下を見透かされる可能性に留意する必要がある。

上述した当局による五月雨式の対応公表を受けて、株式相場は大きく底入れするなど金融市場を取り巻く環境が好転していることは、関連分野のみならず、幅広く企業マインドの好転に繋がることが期待される。事実、31日に国家統計局が公表した10月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.1となり、前月(49.8)から+0.3pt上昇して6ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準(50)を上回るなど底入れの動きが確認されている。足下の生産活動を示す「生産(52.0)」は前月比+0.8pt上昇して2ヶ月連続で50を上回る水準となるなど生産拡大の動きを強めるとともに、6ヶ月ぶりの水準となるなど底入れが進んでいる様子がうかがえる。先行きの生産動向に影響を与える「新規受注(50.0)」も前月比+0.1pt上昇して6ヶ月ぶりに50に達するなど内需を取り巻く環境が改善している一方、「輸出向け新規受注(47.3)」は同▲0.2pt低下して50を大きく下回る水準で推移しており、欧米のみならず、新興国の間でも中国製品に対する追加関税の賦課や検討に動く流れが広がりをみせていることが影響している。ただし、受注の回復が道半ばの状況にあることを勘案すれば、足下における生産拡大の動きは『見切り発車』的な動きと捉えることができるほか、内需の回復が遅れれば一転して下押し圧力が強まることが懸念される。他方、中国による一連の景気刺激策の公表を受けて国際金融市場では中国景気の底入れを期待して商品市況が大きく底入れする動きがみられるなか、「原材料価格(53.4)」は前月比+8.3ptと大幅に上昇して5ヶ月ぶりの水準となるとともに、コスト上昇分を製品価格に転嫁する動きを反映して「出荷価格(49.9)」も同+5.9pt上昇しているものの、内需の回復が遅れるなかで充分に価格転嫁ができていない。なお、上述のように商品市況は大きく底入れしているものの、「購買量(49.3)」は前月比+1.7pt、「輸入(47.0)」も同+0.9ptと上昇するもともに50を下回る水準に留まるなど、金融市場が『期待先行』感を強めている様子もうかがえる。そして、生産活動は大きく底入れしているにも拘らず「雇用(48.4)」は前月比+0.2pt上昇するも依然として50を大きく下回る推移が続いており、生産活動が必ずしも雇用拡大に直結しておらず、家計部門を取り巻く環境の改善に繋がるかは不透明な状況にある。その意味では、先行きの内需を取り巻く環境には不透明感がくすぶる状況は変わっていないと捉えられる。

他方、製造業と対照的に堅調な動きをみせてきたものの、足下では頭打ちの動きを強めるなど景気の足かせとなる動きがみられた非製造業PMIについても、9月は50.2と前月(50.0)から+0.2pt上昇するなど底打ちする動きが確認されている。業種別では「建設業(50.4)」は引き続き50を上回る水準を維持するも前月比▲0.3pt低下するなど頭打ちしており、不動産関連の低迷が足を引っ張る動きが見られる。一方、「サービス業(50.1)」は同+0.2pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、当面の最悪期を過ぎつつある様子がうかがえる。ただし、サービス業の回復については国慶節連休の時期が重なったという要因に留意する必要があり、観光に関連する鉄道輸送業や航空輸送業、エコロジー関連業、公共施設関連業で改善の動きが顕著にみられるほか、運輸業や通信関連業などの改善の動きもけん引役になっている。さらに、金融市場の活発化の動きを反映して金融業や資本市場サービス関連における改善の動きも顕著になっている。一方、1年のなかでも旅行が活発化する時期のひとつであるにも拘らず宿泊関連業は依然として低迷するなど家計消費の弱さが足かせとなる動きがみられるほか、一連の景気刺激策にも拘らず不動産業も低迷が続くなど、回復は道半ばの状況にあると捉えられる。こうした状況は先行きの動向に影響を与える「新規受注(47.2)」は前月比+3.0pt上昇するも依然として50を大きく下回る水準に留まるなど、内需の弱さが足かせとなる可能性はくすぶる一方、「輸出向け新規受注(50.0)」も同+3.0pt上昇して9ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、対照的に外需への依存度を強めている様子がうかがえる。また、製造業と同様に商品市況の底入れの動きを受けた原材料価格の上昇圧力に直面していることを反映して「投入価格(50.6)」は前月比+2.4pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準となっているほか、価格転嫁の動きを反映して「出荷価格(48.5)」も同+2.4pt上昇するも依然として50を下回る推移が続いており、内需の弱さが価格転嫁を難しくしている状況は変わらない。そうした状況は、企業マインドの底入れが進んでいるにも拘らず「雇用(45.8)」は前月比+1.1pt上昇するも依然として50を大きく下回るなど、製造業以上に雇用調整圧力がくすぶる展開が続いていることに現れている。よって、先行きについては引き続き不透明感が払しょくできていない状況にあると捉えられる。

上述のように当局が五月雨式に景気刺激策を公表するなか、来月4~8日の日程で開催予定の全人代常務委員会において、景気支援を目的に向こう数年間で総額10兆元規模の国債の追加発行を承認することを検討しているとのリーク記事が出ている。具体的には、同様にリーク記事で出ている向こう3年間を対象に総額6兆元の特別国債発行を通じて地方政府による傘下の融資平台を通じた簿外債務へのリスク対応に充てられる資金のほか、向こう5年を対象に最大4兆元の特別国債発行を通じた遊休地の買い取りが行われるとされる。なお、来月5日に実施される米大統領選の結果如何では次期政権による中国への対応が大きく変化することも予想されるため、その場合には財政出動の規模が増大する可能性も想定されている模様である。仮に総額10兆元の特別国債発行が承認されれば、その規模はGDP比8%弱となるものの、その使途をみれば直接的な需要押し上げに繋がるものではないことに留意する必要がある。さらに、これらは地方政府によるインフラ事業を主要な使途として発行する専攻債に追加する形で発行されるとしているが、地方政府にとっては土地利用権収入が主な財源となっているにも拘らず、足下では市況低迷により大きく下振れする展開が続くなど財源不足に直面しており、こうした対応が事態打開に繋がるかは見通せない。不動産市場のみならず、中国経済が抱える構造的な課題を勘案すれば、金融緩和や財政出動を通じた『時間稼ぎ』の間に様々な構造改革を併せて行うことが求められるものの、その行方についても見通しが立たない。さらに、上述の一連の景気刺激策の公表に際しては、国際金融市場における米ドル高の一巡と米ドル安の進行という外部環境の変化も大きく後押ししたとみられるものの、足下では一転して米ドル高が再燃しており、人民元安を警戒する習近平指導部の判断を鈍らせることも懸念される。中国経済の行方は世界経済を大きく左右するなか、当局には金融市場が抱く期待を失望に変えないための対応が求められる。

注1 10月18日付レポート「中国景気は一段と鈍化、通年目標のハードルは極めて高い状況に」
注2 5月31日付レポート「政策頼みが続く中国景気、不動産対策は市場の期待通りに進むか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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