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2024.08.21
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インドネシア中銀、足下のルピア高を好感し利下げの前倒しにも言及
~10-12月に利下げの蓋然性は一段と上昇も、引き続き外部環境如何の状況は変わっていない~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシア中銀は21日の定例会合で、政策金利を4会合連続で据え置く決定を行った。足下のインドネシア経済はインフレ鈍化による実質購買力の押し上げやサプライチェーン見直しの動きを追い風に、内需をけん引役にした堅調な推移をみせている。中銀は年明け以降もルピア安が懸念されるなかで通貨防衛を目的とする利上げに動くなど、難しい対応を迫られてきた。しかし、足下では米ドル高の一服によりルピア相場は底入れの動きを強めるなど輸入インフレ懸念は後退している。他方、プラボウォ次期政権はバラ撒き政策を志向するなど財政運営に対する不透明感がくすぶるが、ジョコ政権は次期政権への移行を見据えた動きを強めるなど政策運営のシフトが進んでいる。こうした状況ながら、中銀は今回の決定に関して、従来からの安定を重視したとの考えを示すとともに、経済や対外収支、物価の見通しを維持している。なお、同行のペリー総裁は米FRBの利下げを念頭に年内の利下げ余地に加え、前倒しの可能性に言及した上で一段のルピア高を望む考えを示している。同行が利下げに動く時期は着実に近付いているが、その行方については引き続き米FRBの政策運営など、外部環境如何の状況は変わらない点には要注意と言える。
インドネシア銀行(中銀)は、21日に開催した定例の金融政策決定会合において、政策金利である7日物リバースレポ金利を4会合連続で6.25%に据え置く決定を行った。インドネシアでは、2月に実施された大統領選においてプラボウォ国防相が、同時に実施された副大統領選でプラボウォ氏とタッグを組んだジョコ大統領の長男であるギブラン氏が勝利しており、10月に新政権が発足する。こうしたなか、足下のインドネシア経済は4-6月の実質GDP成長率が前年同期比+5.05%と前期(同+5.11%)からわずかに鈍化するも引き続き潜在成長率並みの伸びが続き、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も5%を上回る伸びをみせるなど、堅調な推移となっている(注1)。その内訳を巡っても、中国の景気減速やそれに伴う商品市況の低迷が外需の足かせとなる一方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げが家計消費を下支えするほか、世界的なサプライチェーンの見直しの動きも追い風に企業部門による設備投資需要も底堅く推移するなど、内需の堅調さが景気をけん引している。ここ数年のインドネシアにおいては、商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、通貨ルピア安による輸入インフレが重なる形でインフレが上振れし、中銀は物価と為替の安定を目的に累計275bpの利上げを実施してきた。なお、インフレは一昨年後半に一時7年ぶりの高水準となるも、その後は商品高の一巡などを追い風に頭打ちに転じており、昨年半ば以降は中銀目標の域内で推移するとともに、足下では一段と下振れする動きをみせている。ただし、中銀は年明け以降も国際金融市場での米ドル高を受けたルピア安による輸入インフレを警戒して通貨防衛を目的とする利上げに動くなど、難しいかじ取りを迫られるとともに、引き締め姿勢を維持する対応をみせてきた。なお、足下では米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を織り込む形で米ドル高圧力が後退しており、ルピア相場も底入れの動きを強め、足下では年初来の水準となるなど輸入インフレの懸念は後退している。他方、16日に政府が公表した来年度予算案では、歳出規模は3613.1兆ルピアと今年度予算に対して+9.4%、今年度見通しに対して+5.9%上回る水準としており、首都移転関連のほか、プラボウォ次期政権が目玉政策に掲げる学校給食の無償化をはじめとする教育・社会福祉関連、貧困支援関連を中心とする予算配分の拡充の動きが影響している。予算案についてはジョコ現政権とプラボウォ次期政権の経済チームが共同で作成した模様だが、現政権の財務相として国際金融市場からの信認が厚いスリ=ムルヤニ氏の処遇は依然不透明であり、プラボウォ氏の意向が強く反映されたものと考えられる。なお、歳出規模は大幅に拡大するも、財政赤字は616.2兆ルピア(GDP比▲2.53%)と今年度見通し(609.7兆ルピア(同▲2.7%))からの赤字幅はわずかに留まるとしている。歳入の前提となる経済成長率も来年は+5.2%と今年(5.0~5.2%)並みとするが、歳入の見積もりが些か楽観的に傾いている可能性は否めない。さらに、19日にジョコ大統領は内閣改造を実施し、同氏が所属する最大与党の闘争民主党所属の閣僚をプラボウォ氏の側近に交代させるなど、政権移行を見据えてプラボウォ氏との結束強化を図る動きをみせており、政策運営についてはすでに次期政権へのシフトが進んでいると捉えられる。


こうしたなか、今回の決定について会合後に中銀が公表した声明文では引き続き「安定を重視したもの」との考えを示している。その上で、足下の国際金融市場について「不透明感は解消に向かいつつあるがリスクを注視している」とした上で、「米国の景気減速やインフレ鈍化が米FRBの利下げを前倒しさせる可能性がある」としつつ「潜在的な米国の景気後退や米大統領選の行方を注視する」との考えを示している。そして、同国経済について「堅調に推移している」とした上で「今年の経済成長率は+4.7~5.5%になる」、対外収支も「資金流入を追い風に経常赤字はGDP比▲0.9~▲0.1%となる」と従来の見通しを据え置いている。また、ルピア相場について「資金流入を追い風に強含んでおり、周辺国の通貨と比較しても強い」とした上で「先行きも強含みする傾向が続く」としつつ、物価動向も「中銀目標の域内での推移が見込まれる」との見方を示している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は米国経済の行方について問われ「米国経済の動向やFRBの声明を勘案すれば、9月から年内に2度の利下げが行われる可能性は75%程度ある」との認識を示した上で、「25bpずつ利下げが行われ、来年にも25bpずつ計3回の利下げが行われるであろう」との見通しを示している。その上で「過去にも米FRBの政策運営が米国金利に与える影響を注視している」として、「インドネシアにおいても10-12月には利下げ余地が生じる」としつつ「7-9月での可否についてはルピア相場が一段と強含みするかを注視している」、「ルピア高の継続を希望する」、「インドネシア経済にはルピア高の方が輸入インフレ抑制を通じた物価安定の観点から良い」、「ルピア高は雇用創出力が高い輸入依存型産業の追い風になる」、「ルピア高は金融市場の安定にも資する」とルピア高を歓迎する考えを示している。そして、資金流入を後押しすべく「魅力的な利回りのSRBI(中銀が保有する国債を担保にしたルピア建短期債)の活用を進める」と述べるなど、一段のルピア高を目指す考えを示している。ペリー総裁は先月の前回会合後に年内の利下げの可能性に言及したが(注2)、その後のルピア高を受けてその蓋然性が一段と高まっていると捉えられる上、ルピア相場の行方如何では前倒しにも言及するなど方向性の転換の時期は近付いている。ただし、これらはすべて引き続き米FRBの政策の行方をはじめとする外部環境如何という状況はまったく変わっていない点に引き続き留意する必要があろう。
注1 8月5日付レポート「インドネシア、政権交代を前に堅調な景気底入れの動きを確認」
注2 7月17日付レポート「インドネシア中銀は「外部環境如何」としつつ10-12月の利下げに言及」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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