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2024年大統領選のTV討論会(ハリスvs.トランプ)

~ハリス氏が勝利し、討論会後には更なる追い風~

前田 和馬

9月10日、2024年11月の米国大統領選に向けたTV討論会が激戦州ペンシルベニアで実施された(ABC News主催)。民主党・ハリス副大統領と共和党・トランプ前大統領の初対決であり、討論会の印象は無党派層の投票行動に大きな影響を与える可能性がある。6月27日のバイデンvs.トランプのTV討論会と同様、時間は90分間、会場は無観衆、メモの持ち込みは禁止、発言中以外はマイクのスイッチが切られる運用となった。

ハリス氏が優位に討論会を進めたとの見方が強い。CNN/SSRSが番組終了後に実施した世論調査速報において(討論会を視聴した有権者605人が対象)、ハリス氏が勝利したとの回答が63%と、トランプ氏の37%を上回った。なお、6月討論会後の世論調査ではトランプ氏勝利が67%と、バイデン氏の33%にダブルスコアをつけていた。

まず、討論会の印象ではハリス氏が終始落ち着きを示した一方、トランプ氏はやや冷静さを欠く場面がみられた。政治メディアPoliticoは、周りの助言に反してトランプ氏が「ハリス氏の罠にかかった(挑発に乗った)」と指摘した。例えば、ハリス氏は実績不足との批判が目立つ移民問題の議論の際に「トランプ氏の集会では途中退席が目立つ」と言及、トランプ氏は移民政策の問題点を責める前に「ハリス氏の集会に行く人はいない」などと本題ではない反論に時間を割いた。

次に、トランプ氏の幾つかの試みは失敗したように見受けられる。バイデン・ハリス政権の物価高や移民問題への対応不足を強調したものの、バイデン氏への度重なる言及は「過去のこと」ばかりを話している印象を与えた可能性がある。一方、ハリス氏は「私はバイデンではない。新しいリーダーが必要だ」「後戻りしない。次のページをめくる」と述べるなど、未来志向の印象を与えるよう努めた。また、トランプ氏は関税や妊娠中絶の議論の際に「ハリス氏はうそつき」と指摘し、自身の主張の正当性を強調しようと試みた。しかし、トランプ氏の「不法移民が犬や猫を食べている」との主張に対して、ABC Newsの司会者が「そのような事実はない」と訂正したため、トランプ氏が極端な主張をしている印象を与えた可能性がある。なお、こうした司会者によるファクトチェックはCNN主催の前回討論会ではなかったことであり、共和党関係者はリベラル系のABCが公平なスタンスではないとの見方を強めている(共和党予備選に出馬していたラマスワミ氏は「このディベートは3対1(ハリス氏と二人の司会者vs.トランプ氏)」と言及)。

一方、トランプ氏は討論会の最後に「ハリス氏は副大統領なのに、(自身のプランを)なぜ今やっていないのか」と指摘しており、こうした主張は米国民に一定の説得力を与えている可能性が高い。前述のCNN/SSRSが討論会後に実施した世論調査において、最大の争点である経済政策でトランプ氏を信頼するのは55%と、ハリス氏の35%を依然リードしている。

なお、政策論争での目新しい点はなかった。ハリス氏は「機会の経済」を掲げ、中間層を強化するための税額控除拡充や中小企業への支援策を強調した。一方、トランプ氏はバイデン政権下の移民流入やインフレが経済的苦境を招いていると指摘し、減税を実現することで米国経済を再興すると主張した。また、ハリス氏は一律関税が実質的な消費税になると主張した一方、トランプ氏は前政権の(対中)関税引き上げはインフレを招かなかったと反論した。他方、フラッキング(シェールオイル・ガスの採掘法)規制を巡って、ハリス氏は「フラッキングを禁止しない。(過去と主張が異なるとの指摘に対して)自身の価値観は変わっていない」と言及した一方、トランプ氏は「ハリス氏は12年間これに反対していた。ハリス氏の就任初日にフラッキングは終わる」と述べた。

なお、TV討論会の内容がその後の世論調査に影響を及ぼすまでには一定の時間を要する可能性がある。支持が変わりうる無党派層がどの程度討論会を視聴していたかは不透明であり、中継を見ていな有権者はその後の報道やSNS上の情報などを通じて、自身の投票意向を変化させる可能性が高い。また、TV討論会の内容による選挙結果への影響を巡っては、民主党・クリントン氏が2016年の計3回の討論会を優位に進めたものの、実際の選挙戦ではトランプ氏に敗れたことは留意が必要だ。

また、討論会の終了後には著名歌手のテイラー・スウィフト氏が自身のSNSにてハリス氏への支持を表明した。自身がトランプ支持であるようなフェイク画像が出回っていることに対して、正しい情報を発信する必要があると述べている。スウィフト氏の支持は若年層の投票行動に一定の影響を及ぼす可能性があり、今後の支持率の動向が注目される。

今後の注目イベントとして、副大統領候補である民主党・ウォルツ氏と共和党・バンス氏のテレビ討論会が10月1日に開催される。なお、大統領候補(ハリスvs.トランプ)の2回目のTV討論会は開催の有無を含めて未定であるものの、ハリス陣営は今回の良好なパフォーマンスを踏まえて2回目の討論会に前向きな意向と報道されている。

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前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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