トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

ハリス氏は左派色を強める可能性

~副大統領候補にワルツ・ミネソタ州知事を指名~

前田 和馬

8月6日、民主党のハリス副大統領は11月大統領選に向けた副大統領候補としてミネソタ州のワルツ知事を指名した。副大統領候補としては激戦州であるペンシルベニアのシャピロ知事、及び元宇宙飛行士のケリー上院議員(アリゾナ州選出)がこれまで有力視されていた一方、ワルツ氏は両氏と比べて全米における知名度がやや劣る点で候補としての注目度が高くなかった。同氏は陸軍州兵及び高校教師を経て、2007年に連邦下院議員として政界に進出、2019年からはミネソタ州知事を務めている。

ワルツ氏の副大統領候補選出には以下3つの理由が指摘できる。

まず、ワルツ氏は共和党色の強いミネソタ州第1区にて下院議員選挙を6回勝利しており、中西部における農村部を中心に共和党から票を奪えるとの期待が強い。農村部における支持政党の構成を見ると、2000年には共和党51%、民主党45%と小幅な違いが見られた一方、2023年時点においては共和党60%、民主党35%と民主党への支持が大きく落ち込んでいることがわかる(図表1)。また、親イスラエルでユダヤ系のシャピロ氏と比べると、ワルツ氏はハリス氏と同様にパレスチナ情勢を懸念する考えを持っていると思われるため(注1)、バイデン政権を親イスラエルと非難する若年層の支持獲得には追い風になることが見込まれる。

次に、ワルツ氏は下院議員としての経験が12年と長く、ペロシ元下院議長など多くの民主党下院議員が同氏を推薦していたと報じられるなど、ハリス政権誕生後の議会との調整に大きな役割を果たす可能性がある。第118議会(2023~25年)における可決法案数は、ねじれ議会及び党派性の強まりを背景に歴史的な低水準に留まっており、政策を推進するうえでは政権による円滑な議会運営が欠かせない。

最後に、大統領選における伴走者としての「相性(chemistry)」もハリス氏が最終決定を下すうえでの重要な要素になった模様だ。ワルツ氏の人柄のみならず、ハリス氏との間に政策スタンスでの一致点が多いこともワルツ氏選出に影響したとみられる。

経済政策を巡って、ワルツ知事は2023年5月にミネソタ州で過去最大ともいわれる減税策(One Minnesota Budget)を成立させている。具体的には税収増による余剰金を原資として、低中所得者に対する現金給付、子供の貧困削減を目指した児童税額控除の創設、高齢者に対する社会保障負担の低減(社会保障収入に対する免税)、教育関連予算の拡充、アウトドア娯楽産業等へのインフラ投資の拡充などが挙げられる。また、同政策パッケージには全米で4番目の州となる公立学校の給食無償化(朝食及び昼食)、及び年収8万ドル以下を対象とした公立カレッジの授業料無償化が含まれるなど、低中所得者を支援する姿勢が明確だ。加えて、2026年には育児や家族の看護、自身の病気療養を理由とした有給休暇の付与が義務化される予定であり(法案は2023年に成立済み)、ワルツ氏は労働者保護の取り組みにも積極的とみられている。

ハリス氏が2020年民主党予備選時に掲げた政策は左派的なものが目立っていた一方(詳細は7月26日付け「ハリスノミクスvs.トランポノミクス」参照)、新ビジネス的な政策スタンスにあるシャピロ氏が副大統領候補として選ばれた場合、中道的な経済政策のアジェンダを通じてバイデン政権からの継続性が強調される可能性が高かった。しかし、ハリス氏とワルツ氏は低中所得者層向けの支援拡充という方向で足並みを揃えている可能性があり、この場合にはバイデン政権よりも分配政策を重視する姿勢を強調することが見込まれる。ハリス・ワルツ陣営の政策アジェンダがバイデン政権からどの程度修正されるのか、今後の選挙キャンペーン中の同氏の発言、及び民主党全国大会(8月19~22日)で採択される政策綱領が注目される。

一方、共和党のトランプ・バンス陣営は民主党の移民政策への批判を強めるだろう。ワルツ氏が教師として中国に約1年間滞在した経歴を「親中的」と指摘するほか、2023年に不法移民による運転免許証申請が可能となる法案を成立させたことを「移民に寛容的すぎる」と批判する可能性が高い(19州で同様の措置があり、ミネソタ州が異例の対応をしているわけではない)。移民問題は大統領選の重要な論点であり、ハリス氏がバイデン政権の移民担当としての実績が乏しいことも踏まえると、副大統領候補の移民に寛容なイメージは今後のハリス陣営の懸念材料となる可能性がある。

図表1:都市・郊外・農村部における共和党支持者の割合(2023年8月時点)
図表1:都市・郊外・農村部における共和党支持者の割合(2023年8月時点)

【注釈】

  1. ワルツ氏は下院議員時代はイスラエルに肯定的な見方を示してきた一方、2024年の民主党ミネソタ州予備選において約20%の投票者が「支持者なし」でバイデン政権のガザ政策に抗議を表明したことを巡って、「ガザの状況は耐えがたい」と外交政策への批判に理解を示している。

【参考文献】

  1. NBC News (2024), “Harris selects Minnesota Governor Tim Walz as her vice presidential running mate,” (2024-8-7参照)

  2. Politico (2024), ”Why Pelosi and other House Dems were privately pushing Walz,” (2024-8-7参照)

  3. Politico (2024), “55 Things to Know About Tim Walz, Kamala Harris’ Pick for VP,” (2024-8-7参照)

  4. Pew Research Center (2024), “Party affiliation of US voters in urban, rural and suburban communities,” (2024-8-7参照)

  5. Office of Governor Tim Walz (2023), “Governor Walz Signs One Minnesota Budget into Law,” (2024-8-7参照)

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ