インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トランプ氏の「終戦宣言」をアジア新興国はどう考えるか

~米国への不信感増大、影響力低下が見込まれ、日本の外交的立ち位置が重要になる~

西濵 徹

要旨
  • イスラエルと米国によるイランへの軍事行動を契機に、中東情勢が緊迫している。イスラエルと米国は、ハメネイ師ら要人の殺害など当初の目的をある程度達成したものの、イラン革命防衛隊は報復攻撃を活発化させた。さらに、世界の原油消費量の約2割が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖しており、事態収束の見通しは立っていない。
  • トランプ政権は、2025年6月のイスラエルとイランとの衝突が12日間で終了したことに加え、年明け以降のベネズエラやメキシコでの成功体験をもとに短期決着を想定したとみられる。しかし、情報機関(NIC)はイランの権力構造崩壊は困難と事前に警告していたとされ、足元においてはその見立ては現実のものとなっていると考えられる。
  • 水面下でパキスタン、トルコ、エジプトなどを仲介とした非公式協議が進められているが、米国の15項目案に対しイランは独自の5項目を逆提示するなど隔たりは大きい。また、イラン側は協議の存在自体を否定しており、フーシ派によるバブ・エル・マンデブ海峡の海上輸送妨害の可能性も重なり、中東からアジアへの海上輸送路は大幅な迂回を強いられている。
  • こうしたなか、トランプ氏は2〜3週間以内の軍事行動終了を示唆し、ホルムズ海峡封鎖解除を条件としない幕引きも模索しているとされる。イスラエル軍も大規模攻撃の完了を表明するなど、両国は収束に向け動き始めている模様である。一方、UAEが封鎖解除に向け参戦準備を進めているとの報道もあるなど、イラン情勢を巡っては足元でも流動的である。
  • 情勢が沈静化すれば中東産原油の高騰は緩和され、輸入に依存するアジア新興国には恩恵が期待される。しかし、イラン議会がホルムズ海峡の通行料徴収計画を承認しており、イランに制裁を行う国の船舶は通行不能となる恐れがある。ホルムズ海峡を巡って、イランの存在感拡大と中国の影響力増大、米国への不信感の高まりが複合的に進む可能性があり、日本の外交的立ち位置がこれまで以上に問われる局面となる可能性には注意が必要である。

イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢は緊張が高まる展開が続いている。イスラエルと米国は、軍事行動を通じて、イランの最高指導者であったハメネイ師をはじめとする多数の政府要人を殺害するなど、当初の目的を達成した格好である。一方、イラン革命防衛隊はイスラエルのほか、中東にある米軍基地や関連施設、米国と関係が深い国々に対する報復攻撃を活発化させている。さらに、革命防衛隊はペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上輸送の要衝であり、ペルシャ湾岸産油国の原油輸出の大部分、世界の原油消費量の約2割が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖している。その後も、イスラエルと米国はイランへの攻撃を継続し、イランも報復を展開するなど事態鎮静化に向けた道筋の見えない状況が続いている。

2025年6月のイスラエルによるイランへの攻撃をきっかけとする両国の報復合戦を巡っては、その後の米国とカタールの仲介により双方が勝利宣言を行い、12日間で終結した。こうしたことから、トランプ米大統領も今回の軍事行動も短期戦で決着させられると見越した可能性はある。しかし、米国家情報長官室(DNI)傘下の国家情報会議(NIC)は、仮に大規模な軍事作戦を展開しても、イランの軍部と聖職者を軸とする権力構造の崩壊は困難とする事前報告を行っていたとされる。トランプ氏はこうした報告を無視し、イランの体制弱体化を狙うイスラエルのネタニヤフ首相の見方に沿う形で軍事行動に踏み切った。背景には、1月のベネズエラへの軍事行動により体制内穏健派を取り込んで体制を転換させ、2月にメキシコの麻薬カルテルリーダーの殺害作戦を支援するなど、成功体験が相次いだことも影響した可能性はある。

しかしながら、イランはこれらと状況が異なるうえ、今回は米国が積極的に軍事行動に関与して自らが仲介役となることもできないため、事態の長期化は避けられなかったといえる。その一方、報道によれば、米国とイランが水面下で協議を行っており、双方と関係が深いパキスタン、トルコ、エジプトなどが仲介役となる形で非公式に接触を取っているとされる。非公式協議においては、米国が15項目の停戦案を提示する一方、イランも5項目の停戦条件を逆提示したとされるなど、認識の隔たりの大きさがうかがえる。米国側からは協議に関する情報が出されているものの、イラン側からは協議そのものを否定する動きが相次いでいる点も、両者の溝が深いことを示唆している。加えて、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がイスラエルへの攻撃を開始するなど、事態悪化の動きが中東全体に波及する懸念も高まっている。フーシ派は、アラビア半島周辺のほか、紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡の海上輸送を妨害する能力を有している。こうしたことも影響して、中東からアジア向けの海上輸送路はいずれも大幅な迂回を余儀なくされる事態となっている。

こうしたなか、トランプ氏は今後2~3週間以内にイランに対する軍事行動を終了する可能性があると述べるとともに、その前提条件としてイランが米国と合意する必要はないとの認識を示した。そのうえで、米国時間の4月1日午後9時に国民向けの演説を行い、イラン情勢について説明することが明らかにされた。その前にも、トランプ氏がイランによるホルムズ海峡の事実上封鎖の解除を条件としない形での軍事行動の終了を示唆する旨の報道が出るなど、トランプ氏が早期の事態収束を模索する姿勢を強めている様子がある。イスラエル軍もイランに対する大規模攻撃を完了したと表明するなど、米国とイスラエルの双方が事態の「幕引き」に向けた動きを前進させている模様である。その一方、UAE(アラブ首長国連邦)がホルムズ海峡の事実上の封鎖の解除に向けて、米国と協調する形で戦闘に参加する準備を進めているとの報道も出ており、どちらに転んでもおかしくない状況にあると考えられる。

イラン情勢が沈静化に向かうことは、中東産原油が大幅に上昇している状況の解消が見込まれる。アジア新興国にとっては、一部の国では石油備蓄の枯渇が懸念されたこともあり、喜ばしいことは間違いない。とはいえ、前述のようにトランプ氏はホルムズ海峡の封鎖解除を伴わない形での幕引きを模索するとともに、終結後はホルムズ海峡に米国が関与しない考えを示しているとされる。イラン議会はホルムズ海峡を通過する船舶から通行料を徴収する計画を承認しており、イランに対して経済制裁を課している国々に関連する船舶は通過できなくなるとされる。ホルムズ海峡を巡るイランの存在感が増すとともに、イランと友好関係を有する中国の意向がこれまで以上に反映されやすくなる可能性もある。その一方、事態悪化のきっかけを作った米国に対する不信感が高まることは間違いなく、アジア新興国における米国の影響力低下を一段と加速させることも考えられる。日本としての外交的な立ち位置、立ち回りがこれまで以上に重要になろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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