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2024.07.11
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韓国中銀は将来的な利下げに言及、ウォン相場の行方はどうなる
~家計債務や首都ソウルの不動産市況に警戒の一方、色々な思惑が交錯する展開が続く可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国中銀は11日の定例会合で政策金利を12会合連続で3.50%に据え置いた。このところの金融市場では米ドル高や地政学リスク、構造問題も重なりウォン安圧力が掛かり、国内外で景気の不透明感がくすぶるなかで中銀が早晩利下げに追い込まれるとの見方も相場の重石となってきた。足下のインフレは鈍化が続く一方で中銀目標を上回る推移が続く一方、調整が続いた不動産市況は首都ソウルを中心に底打ちに転じるなど変化の兆しが出ている。こうしたなかで中銀は金利を据え置く一方で将来的な利下げに言及するなど、これまでに比べてハト派姿勢に傾いている様子がうかがえる。李総裁は慎重な政策運営を維持するとしたが、当面のウォン相場は利下げを織り込む一方で方向感の乏しい展開が続く可能性があろう。
このところの国際金融市場においては、米国におけるインフレの粘着度の高さを理由とする米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に対する見方を反映して米ドル高の動きがくすぶるとともに、多くの新興国通貨が調整圧力に晒される展開が続いている。韓国の通貨ウォンを巡っても、折からの米ドル高の動きに加え、隣国北朝鮮を巡る地政学リスク、対外収支構造面では経常収支は黒字基調で推移しているものの、米中摩擦や世界的なサプライチェーン見直しなどによる世界経済の分断を受けてウォン安による価格競争力の向上の恩恵も受けにくくなるなかで財輸出は伸び悩み、財貿易収支の黒字幅は縮小するなど外貨の獲得力が低下している。さらに、中銀はここ数年のインフレや不動産市況の急騰に対応すべく、物価と為替の安定を目的に累計300bpの利上げを実施するとともに、その後も引き締め姿勢を堅持しているものの、世界的な金利高を追い風に証券投資が流出超となる動きが活発化しており、経常黒字にも拘らず外貨準備が積み上がりにくい状況にある。また、このところのウォン安を受けて中銀は断続的に為替介入を実施しており、こうした動きも重なる形で足下の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準とするARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算される状況にある。こうした構造的な問題も重なる形でウォン安の動きに歯止めが掛かりにくい状況に直面していると捉えられる(注1)。なお、一昨年半ばに約20年ぶりの水準に昂進したインフレはその後も商品高の一服や中銀による引き締め姿勢の長期化も重なり頭打ちの動きを強めているものの、直近6月のインフレ率は前年同月比+2.4%、コアインフレ率も同+2.2%とともに中銀目標(2%)をわずかに上回る水準で推移している。足下の物価動向を巡っては、食料品やエネルギーなど生活必需品の物価上昇の動きに一服感が出ているものの、このところのウォン安が輸入インフレを通じて幅広く財価格を押し上げることが懸念される状況に直面している。他方、韓国では家計部門が抱える債務残高がGDP比で100%を上回るなどアジア太平洋地域のなかでも突出した水準にある上、その大宗を住宅ローンが占めるなか、中銀の引き締め政策の長期化を受けた不動産市況の頭打ちはバランスシート調整圧力を招いており、物価高と金利高の動きも相俟って家計消費の足かせとなってきた。足下においては首都ソウルを中心とする不動産市況に底打ちの兆しがうかがえるものの、ソウル以外の都市については調整の動きが続くなど景気の足かせとなり得る状況が続いている。よって、金融市場においては中銀が景気下支えの観点から早晩利下げを迫られるとの見方が強まっているものの、11日の定例会合では12会合連続で政策金利を3.50%に据え置いている。会合後に公表した声明文では、世界経済について「緩やかな成長が続く一方でインフレは鈍化傾向が続いている」としつつ、国際金融市場を巡って「米ドル高が続いており、先行きは主要国の物価動向や金融政策、中東情勢、主要国の政治情勢に留意する必要がある」との認識を示している。他方、同国経済について「内需と外需の動きに乖離が生じている」としつつ「今年通年の経済成長率は5月時点の見通し(+2.5%)に沿った動きが続く」とした上で、物価動向について「消費回復の緩やかさや商品市況のベース効果が鈍化を促す」としつつ「今年通年のインフレ率は5月時点の見通し(+2.6%)をわずかに下回る可能性がある」との見方を示している。また、ウォン相場については「日本円や人民元の下落の影響を受けている」とした上で、家計債務は「住宅ローンを中心に増加が続いており、不動産のプロジェクトファイナンスに関連するリスクは依然残る」との認識を示している。先行きの政策運営については「金融市場の安定に留意しつつ、景気安定と中期的な物価安定を目指す」との従来姿勢を示した上で、「物価動向には不確実性があり、ウォン相場、ソウル周辺の不動産価格、家計債務の影響を見極める必要がある」としつつ「充分な期間に亘って引き締めスタンスを維持しつつ利下げのタイミングを検討する」として、将来的な利下げの可能性に言及する動きをみせている。会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定も「全会一致であった」としつつ「利下げが家計債務の動向や金融の安定性に与える影響を注視する必要がある」として「利下げに軸足を移す準備の時期に入った」との考えを示す。一方、「米FRBの政策変更がウォン相場や家計債務に与える影響を注視する」、「2人の政策委員が向こう3ヶ月以内に利下げを検討すべき」として年内の利下げの可能性に言及する一方、「金融市場の利下げ期待は些か行き過ぎ」としてけん制する姿勢をみせている。ただし、今回中銀が将来的な利下げに言及したことを受けて、先行きのウォン相場はそうした見方を織り込む動きが見込まれる一方、当面は米FRBの動きをみながら動意の乏しい展開が続く可能性が高まっている。
注1 6月27日付レポート「韓国ウォン安圧力が強まる環境と構造的要因を考える」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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