徹底解剖!アメリカ大統領選2024(8)

~日本経済への影響~

星野 卓也

目次

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Q.アメリカ大統領選、日本経済にはどう影響する?

A. 最大の経済大国であるアメリカの政策は、世界各国の経済に影響を与える。そして、日本も例外ではない。特に、バイデン氏(民主党)とトランプ氏(共和党)とでは通商政策や環境政策、外交などにおいてスタンスが異なっている。バイデン現大統領が当選する場合は現在の政策スタンスが続くとみられるが、トランプ氏に大統領が交代する場合は、日本経済にも様々な経路で影響が及ぶと考えられる。以下では、トランプ氏が大統領に就任した場合の日本経済への影響を考えていく。

Q.日本の経済・財政政策への影響は?

A. 過去をみていくと、日本の経済政策はアメリカをはじめとする海外の経済政策の影響を強く受けてきた。例えば、2000年代の小泉政権における構造改革路線は、アメリカのレーガン政権における規制緩和を重視した「小さな政府」路線の影響を大いに受けたものだ。昨今、岸田首相が掲げている「新しい資本主義」は官民一体投資や中期的・計画的な財政支出を柱としているが、この間アメリカでも「バイデノミクス」と銘打って、脱炭素やインフラなどへ財政支出の拡大が進んできた。民間主導の経済成長を目指す「小さな政府」型の政策から、脱炭素・安全保障・重要物資の生産拠点などに対する官の支出拡大を重視する「大きな政府」型の施策へと経済政策の潮流が変わっていった。日本もその流れの中で経済政策の方向性が変わってきた経緯がある。この意味で「アメリカが取り組む政策は、日本も取り組みやすくなる」という作用が底流では働いているといえる。

この意味で、トランプ氏の重視する安全保障関連の施策は日本でも進みやすくなるとみられる。現在、日本は防衛費の拡充を進めている最中だが、更なる充実などの議論も起こりやすくなるかもしれない。また、経済安全保障関連も同様だろう。重要物資の国内生産拠点の充実やサイバーセキュリティなどの取り組みは加速しやすい環境になるとみられる。

Q.通商政策を通じた影響は?

A.トランプ氏は以前大統領を務めていた際、関税の引き上げをはじめとした保護主義的な貿易政策を推し進めた。現職のバイデン大統領も中国に対する関税を中心に政策を引き継いでいる。

現在、トランプ氏は更なる保護主義政策の強化を掲げている。次期大統領となった場合には「中国からの輸入品に一律60%、すべての輸入品に一律10%課税」する方針も示している。これが実現する場合は、日本の対米輸出は直接影響を受けることになる。日本の貿易統計(2023年)を確認しておくと輸出に占める対米向けのシェアは20%に上る。最近は対中国向けが最大シェアを占めていたが、直近2023年はアメリカが最大の輸出相手国となっている。また、対米輸出の品目別シェアをみると、自動車などを含む輸送用機器が36%と最も大きくなっている。

また、保護主義政策は世界の貿易取引を抑制することで、世界生産を押し下げる方向に作用する。直接的な関税の影響と世界経済の成長率の低下(当研究所は関税措置による世界GDPの押し下げ効果を▲0.2pt~▲0.4ptと試算)を通じて、自動車をはじめとする輸出産業を中心に影響が及ぶと予想される。

資料.輸出全体の対米・対中輸出の占めるシェア、資料.対米輸出の品目別シェア
資料.輸出全体の対米・対中輸出の占めるシェア、資料.対米輸出の品目別シェア

Q.エネルギー価格への影響は?

A.日本のエネルギー輸入コストに与える影響は不透明。トランプ氏は「エネルギー独立」を掲げて、米国の石油・ガス開発強化を通じて安価なエネルギーを供給する方針を示している。アメリカはシェール革命を通じて天然ガスの生産量は世界第1位の国となっている。アメリカのエネルギー供給量が拡大すれば、世界のエネルギー市場にも影響を及ぼし、価格低下圧力を及ぼすことになるだろう。日本はエネルギーの多くを輸入資源に依存している国であり、資源価格の低下につながれば日本経済にプラスに作用することになるだろう。しかし、トランプ氏就任で資源価格が上昇する可能性もある。例えば、トランプ氏は過去イランとの核合意破棄を行うなど、強硬な外交姿勢を取ることが予想される。中東諸国との関係悪化が地政学リスクを高めれば、エネルギー価格の上昇につながる恐れがある。

また、為替レートも日本のエネルギー価格に大きく影響する。 本シリーズ(7)でも議論しているが、トランプ氏就任による為替への影響も双方向考えられる。トランプ氏は従来から「ドル安」を通じて、米国国内の製造業に有利な環境を求める傾向があった。しかし、基本的に自国通貨安はインフレにつながるものである。以前トランプ氏が大統領だったときは、アメリカを含む先進国経済の課題は低インフレにあり、通貨安志向、移民規制や関税政策などのインフレ的な政策も受け入れられやすい土壌にあった。足もとの経済環境が様変わりしており、トランプ氏のドル安志向がそのまま政策に反映されていくかは不透明な部分が大きい。

Q.日本企業への影響は?

A.以前、トランプ氏が大統領を務めていた際には、貿易不均衡の是正を求めて、日本企業に対しても米国内での生産拡大を強く求めた。こうした動きに日本企業も対応する形で、アメリカでの生産能力増強を行う投資を実施した。トランプ大統領が再任されれば、再びアメリカへの生産拠点拡充を求めることが考えられる。

特に自動車産業については、関税や米国生産を求める動きに加え、貿易協定や環境政策の動向も重要だ。足もとで、中国の安価なEVの第三国からの流入に対する懸念を念頭に、アメリカ・メキシコ・カナダの貿易協定であるUSMCAの原産地規則(貨物の原産地を定めるルール)を厳格化する議論がある。トランプ氏が大統領に就任することでこうした流れが強まり、メキシコに生産拠点を設けてアメリカへ輸出を行う日本の自動車メーカーは戦略の見直しを迫られる可能性がある。

一方、環境規制の緩和が追い風になる可能性も。トランプ氏はバイデン氏の掲げる環境政策に反対姿勢を鮮明にしており、パリ協定からの離脱や、燃費規制の緩和を掲げている。EV普及にも後ろ向きである。これは日本の自動車産業には追い風となる可能性がある。EVシフトの減速がハイブリッド車などを得意とする日本企業にとって有利に働く側面があるためだ。

Q.日本の政治への影響は?

A. 対米関係は日本にとって重要だ。トランプ氏は安倍政権時代に財務大臣を務めてきた麻生太郎氏や、首相として直接会談した経験もある菅義偉氏との交流関係が深いと考えられる。麻生氏は直近でも、今年4月にトランプ氏との会談を行っている。

日本は9月に自民党総裁選を控えている。11月の米大統領選よりは前のタイミングであり、この時点で大統領選の情勢が総裁選に与える影響は限られそうだが、トランプ氏への大統領交代が実現する場合は、岸田首相続投の場合でも首相交代の場合でも、麻生氏や菅氏のトランプ氏とのパイプは重要性を増すと考えられる。

Q.バイデン氏とトランプ氏、どちらが日本経済にとってプラス?

A. これまでの議論の通り、一概に結論づけることは難しい。トランプ氏勝利の場合、エネルギー資源の供給拡大やEVシフトの減速による恩恵も考えられるが、保護主義的な政策による輸出への影響や、地政学リスクの高まりを通じたエネルギー価格高騰のリスクも懸念される。トランプ氏の政策の中心には米国第一主義がある。日本経済の目線ではポジティブな側面、ネガティブな側面の双方が想定される。

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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