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- 素材好調で業況+2ポイント改善
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日銀短観の6月調査は、大企業・製造業の業況判断DIが前回比+2ポイントの改善になった。素材業種の改善幅が大きく、自動車などの悪化を上回ったことがある。日銀は、7月末の会合での追加利上げに対して、より自信を深めたことは間違いない。
自動車悪化なかりせばもっと改善
大企業・製造業の業況判断DIは、前回比+2ポイント(3月11→6月13)と改善した。内訳では、検査不正の悪影響で自動車が前回比▲1ポイント悪化し、その波及効果で鉄鋼も同▲16ポイントとなった。そうした下押し材料に対して、繊維(同+11ポイント)、化学(同+8ポイント)、石油・石炭製品(同+8ポイント)、紙パ(同+7ポイント)と素材業種を中心に改善が進んだ。要因は、輸出環境の改善である。海外需給が好くなり、さらに円安の追い風も加わる。日銀にすれば、「自動車の検査不正がなければ、もっと大きく業況判断DIが改善したはず」と思ったに違いない。
今回は、先行きの業況判断DIが+1ポイントの改善を見込んでおり、自動車の検査不正の波及が一時的なものとみていることがわかる。基調的な物価動向を気にしている日銀は、「もしも、検査不正がなかりせば、景気拡大の趨勢的な勢いはもっと増したはず」と感じたに違いない。
大企業・非製造業の業況判断DIは、前回比▲1ポイントの悪化となった(3月34→6月33)。小売の業況は、前回比▲12ポイントと落ち込み、宿泊・飲食サービスも同▲3ポイント、対個人サービスも同▲4ポイントと軒並み悪化した。インバウンド関連が悪化に転じたことは予想外である。これらの分野では、既往のコストアップが国内顧客に嫌気された可能性はある。この傾向は、中小企業・非製造業でも同様である。


海外需給は改善
製商品需給は、国内での改善が+1ポイントに止まるのに対して、海外の改善が+4ポイントと大きかった。これは素材業種の業況判断DIを支える要因だ。在庫の状況も大幅に不足する方向に変化している。海外向けの輸出が、需給を引き締める要因に作用していることがわかる。
価格判断DIも、素材業種を中心に、販売価格・仕入価格ともに「上昇」超をさらに広げている。円安環境の中で、需給改善が進んでいるので、価格は上がりやすい。国際商品市況も、銅価格が上がっているほか、原油価格も幾分上昇気味である。海外要因が、ここにきて改善していることは事前の短観予想よりも業況判断DIがよくなった要因と言える。

輸出計画の上振れ
企業にとって円安予想は、より進む格好になっている。全規模・全産業の想定為替レートは、2024年度1ドル144.77円(前回141.42円)とさらに円安予想が進んだ。対ユーロは、1ユーロ155.40円(同151.86円)とさらに円安方向への修正幅が大きい。
事業計画では、こうした前提条件の変化も加わって、輸出計画を上方修正させている。大企業・製造業では、2023年度実績が+0.6%ポイントの上方修正で、2024年度計画が+2.2%ポイントの上方修正である。国内売上よりも前向きな事業計画の修正状況である。
素材業種と加工業種の間でコントラストが鮮明になったのは、2024年度の経常利益計画である。前回比での修正率は、素材業種が+12.3%ポイントだったのに対して、加工業種は▲8.1%ポイントのマイナス方向である。やはり自動車の検査不正は、経常利益計画への悪影響が深刻だったことがよくわかる。
設備投資は製造業で好調
大企業・製造業の設備投資計画は、2023年度実績、2024年度計画がともに2桁の高い伸び率になった。これは、円安基調の中で設備投資の国内回帰が進んでいることがあるだろう。設備投資の力強さを象徴している。業況判断DIでも、業務用機械が前回比+6ポイント改善、はん用機械が同+4ポイント改善となっている。
中小企業の設備投資は、製造業の2024年度計画が前年比13.0%と高い伸び率になった。製造業の設備投資の好調が、大企業だけではなく、中小企業にまで及んでいることは、投資需要の裾野が広がっていることを示している。こうした内需改善は、これまで目立たなかった円安メリットを印象づけることになるだろう。


追加利上げの支援材料
日銀は、7月30・31日の次回決定会合で追加利上げを模索している。今回の短観は、その判断材料として重視される。特に、指標性の高い大企業・製造業の業況判断DIが+2ポイントの改善になったことは、追加利上げに自信を持たせるだろう。
もっと細かい点に注目すると、3月のマイナス金利解除が企業にとってほとんどマイナス要因となっていなかったことが挙げられる。3月調査から6月調査の変化をみると、借入金利水準判断は「上昇」超が22から38へと+16ポイントも跳ね上がった。それにも拘わらず、金融機関の貸出態度判断DIも、資金繰り判断DIも前回比では不変であった。これは、日銀にとって緩和修正をゆっくりと進めることが、企業のダメージにつながっていないという自信を与えるものである。現在は、ゼロゼロ融資の支援延長がなくなり、中小企業金融の不安が気になるところだ。今回短観では、そうした中小企業の資金繰り・金融機関態度のDIが不変であり、日銀には不安後退を意識させる。
今回の短観は、植田総裁にとって、7月会合での追加利上げを躊躇させない判断材料になったと筆者はみている。
熊野 英生
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