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2024.06.28
米国経済
米国経済見通し
米国経済全般
米国の雇用増は持続可能か?(供給編)
~高齢化と移民抑制を背景に、2025年以降は緩やかに雇用の伸びが減速~
前田 和馬
- 要旨
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- 米国の労働需要は景気連動性の弱い医療や政府部門が堅調であり、当面は堅調さを維持する可能性が高い。一方、労働供給の観点に基づくと雇用拡大の持続性には3つの懸念がある。
- 先行きの米国生まれ人口の労働供給を巡っては、現役世代の労働参加率上昇が高齢化の影響を相殺する場合においても、潜在的な雇用の伸びは最大で月間+8万人程度に留まる。このため、米国人のみの労働供給では現行の雇用拡大ペースを維持できない。
- 不法入国を中心とした移民流入は足下の労働供給を月平均で約+16万人押し上げており、少なくとも年内にこうした効果が消失する可能性は低い。しかし、移民流入は徐々に縮小すると見込まれ、2027年における労働供給への押上げ効果はバイデン再選シナリオで月間+7万人、トランプ当選シナリオで-2~+3万人へと減少すると試算される。
- 今後10年の職種別雇用動向をみると、相対的に賃金が低い職種、或いは賃金は良好であるものの医療やITなど特定スキルを要する職種の雇用が拡大すると予想される。特定職種に対する労働供給の不足という需給のミスマッチが、一時的に雇用拡大を抑制するリスクに警戒が必要だろう。
- 労働市場における需要・供給双方の動向を踏まえると、年内に雇用者数の伸びが急減速する可能性は低い。一方、2025年以降の雇用増加ペースは、米国人の高齢化及び移民流入の減少を背景に、2027年にかけて月平均で+5~15万人程度へと減速していく可能性が高い。
雇用拡大における労働供給面でのリスク
5月雇用統計における非農業部門雇用者数は3か月移動平均で+24.9万人(4月:+23.7万人)と、6か月連続で節目となる+20万人を上回るなど、堅調な雇用拡大が続いている。6月19日付け「米国の雇用増は持続可能か?(需要編)」では産業別の雇用動向を概観した。足下の雇用増は「建設業」「娯楽・宿泊業」「教育・医療」「政府部門」の4部門による寄与が大きく、特に教育・医療や政府部門の雇用は景気動向の影響を受けにくいため、先行きも求人数が急減する可能性は低い。このため、労働需要の観点を踏まえると、雇用者数は緩やかに減速しつつも増加基調を維持するシナリオが示唆される。
しかし、雇用者数の変化は労働市場における需要と供給がマッチした結果であり、労働供給の観点からは「米国生まれ人口による労働供給の減速」「不法移民流入を抑制する政策の方向性」「スキル等の需給のミスマッチ」という3つの懸念点があることに留意が必要だ。これらが少なくとも年内の雇用拡大を大幅に抑制する可能性は低いとみられるものの、2025年以降の労働供給の拡大は月平均で+5~15万人へと緩やかに減速していくことが予想される。
米国生まれ人口の労働供給は高齢化が拡大を抑制
米国における労働力人口は米国生まれが81.4%(2023年時点)、移民(外国生まれ)が18.6%をそれぞれ占めている。米国生まれ人口の年齢別分布をみると、Z世代(1990年代後半~2010年代序盤)及びベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)に人口が集中しており、これは先行きの労働力人口を占ううえで二つの意味を持つ(図表1)。
まず、Z世代は義務教育、或いは大学等の高等教育を終えた後に労働市場へと参入するため、全体の労働力人口は先行きも拡大基調で推移する見通しだ。2024年時点ではZ世代の中心層が15~19歳、20~24歳に集中する一方、こうした人口のボリュームゾーンは労働市場の主な担い手である「プライムエイジ(25~54歳)」へ徐々にシフトしていく。実際、プライムエイジに該当する米国生まれ人口は2023年から2030年までに約500万人増加する見込みであり、先行きの労働力人口の成長を押し上げる要因となる。
一方、ベビーブーマー世代の高齢化はこうしたプライムエイジ層による労働力人口の拡大を一部相殺する。米国における全体の労働参加率(16歳以上人口に対する労働参加人口の割合)は長期的な低下トレンドにあり、現役世代の労働参加率が上昇しない限り、先行きもこうした傾向には歯止めがかからない。16歳以上人口に占める65歳以上の割合は2005年の16.2%から2023年には22.7%へと上昇した結果、同期間における米国生まれ人口の労働参加率(=労働力人口/16歳以上人口)は65.8%から61.8%へと低下している。
コロナ以前の2015~19年においては、緩やかな高齢化が進行する一方、プライムエイジの労働参加率上昇が労働力人口の拡大をけん引していた。労働参加率はパンデミック初期に大きく落ち込んだものの、その後は経済正常化や現金給付等の財政支援効果の剥落を背景に35~44歳や45~54歳の年代で上昇基調にある(図表2)。とはいえ、55~64歳の労働参加率は株高等の資産効果(アーリーリタイア)を背景に低迷するなど、全ての年齢層の労働参加率が一様に上昇しているわけではない。

以上を踏まえて、米国生まれ人口の労働供給に関して、二つのシミュレーションを示したのが図表3である。まず、年齢別の労働参加率が不変である場合、16歳以上人口の労働参加率は高齢化を背景に2023年実績の61.8%から2030年には60.5%へ低下すると試算される。プライムエイジ人口の拡大が労働参加率の低下によって一部相殺される結果、労働力人口の増加幅は2024年で+月当たり平均で+2.8万人(年間+34万人)となり、2030年までは+2~3万人(同、約+30万人)の推移に留まる。次に35~54歳を中心に労働参加率が緩やかな上昇トレンドを維持し、労働参加率がコロナ以前の水準へと持ち直す場合、労働供給の拡大は2024年で平均+7.9万人(年間+94万人)、その後も2030年までは+7万人(同、約+90万人)の拡大が持続すると試算される。
先行きの米国生まれ人口の労働供給が労働参加率の動向に大きく依存する一方、いずれのシナリオにおいても米国人のみの労働供給では現状の雇用拡大ペースが維持できないことには留意が必要だ。仮に増加した労働力人口が全て就業する場合においても、米国人によるオーガニックな雇用の拡大ペースは月間+2~8万人程度であり、足下における非農業部門雇用者数の伸びである月+20万人には遠く及ばない。

移民流入は徐々に正常化へ
米国生まれ人口の労働供給に大幅な拡大が望めない中、足下の雇用動向においては移民の存在感が強まっている。労働力人口の変化を米国生まれと移民(外国生まれ)に分解すると、従来は米国生まれ人口による影響が大きかった一方、2022年以降は移民による労働供給の拡大が顕著である(図表4;注1)。議会予算局の2024年2月時点の予測に基づくと、移民の純流入は2024年に330万人に達すると見込まれるなど、コロナ以前(2017~19年平均:73万人)と比べると急拡大を示している(図表5)。

こうした移民急増の主因は不法移民の大規模流入だ(移民政策の変遷、及び後述の移民流入シナリオの詳細に関しては4月15日付レポート「バイデン政権下で流入する730万人の不法移民」を参照)。中南米諸国の情勢不安、堅調な米国経済、及びバイデン政権の寛容な移民政策(或いは寛容な印象)を背景に、メキシコ沿いの南部国境からの不法越境者に歯止めがかかっていない。この間、米国民の8割弱がこうした移民急増を「危険な状況」或いは「大きな問題」と捉えるなど、不法移民対策の強化を求める声は支持政党を問わずに根強い。このため、11月の大統領選の結果に関わらず、当面は不法移民に対する取締り強化の流れが持続する可能性が高く、これに伴い足下で急増した移民流入も徐々に鎮静化していくことが予想される。
実際、バイデン大統領は6月4日に不法移民の抑制を狙った新たな大統領令を発令した。具体的には南部国境の不法越境者が週平均で2,500人/日を超えた場合(24年5月実績:3,930人/日;図表6)、亡命申請を受理せずにメキシコ等に即時送還する施策であり(不法越境者が1,500人/日を下回るまで同措置を継続)、部分的な国境閉鎖措置とみられている。しかし、同大統領令が先行きの労働市場に与える影響を占ううえでは二つの留意点がある。
まず、大統領令の有効性を巡る不透明感が強い。24年2月に上院が超党派で合意した国境対策案(下院多数派の共和党の反対により法案成立の可能性は低い)には国境警備隊の増員を含む約200億ドルの追加予算が含まれていた一方、大統領令には追加の財政措置が原則的に含まれないため、移民関連組織のリソース不足は今後も解消しない。加えて、不法越境者の強制送還を巡っては、米国に隣接していない国々への飛行機輸送費用の追加拠出が難しく、受入国(移民の母国)との調整に難航が予想されることも踏まえると(注2)、同大統領令における即時送還の実効性には疑問が残る。
次に、仮にこうした大統領令の効果が現れる場合においても、労働市場への影響が発現するまでには一定のラグが生じると予想される。通常、不法越境者は国境警備隊に拘束後、亡命申請をすることで米国内へ釈放されて移民裁判所による亡命審理を待つかたちとなるが、亡命申請中の米国滞在者は入国から半年程度で労働許可を得ることが可能となる(180-Day Asylum Employment Authorization Document[EAD] Clock)。例えば2024年後半に労働市場に参入する移民の多くは2024年前半に米国へ入国したと考えられるため、今回の大統領令が2024年後半の移民流入を抑制する場合においても、それが移民による労働供給の減少として顕在化するのは2025年以降となる可能性が高い。
以上を踏まえて、先行きの移民による労働供給をシミュレーションしたのが図表7である(移民の労働参加率の前提は図表7の注を参照)。まず、①バイデン大統領が再選する場合、2025年以降に予算手当を含む国境管理強化策が本格的に施行され(現行の超党派合意案に近いものが上下院で可決)、不法移民の流入が緩やかに減少することが見込まれる。2027年に移民全体の純流入がトランプ政権以前の長期トレンド(2000~16年実績:年間+112万人)へ回帰する前提の下、移民による労働供給は2024年の月間+16.1万人(年間:+193万人)から27年には+7.1万人(同、+85万人)へと減少する。次に、②トランプ氏が大統領選で勝利しより厳格な国境管理政策を採る一方、ねじれ議会を背景にビザを含む移民政策は概ね現状が維持されるシナリオである。この場合、2027年における移民の純流入は第一次トランプ政権と同程度まで低下、移民による労働供給は月間+3.0万人(+37万人)へと減少する。最後に③トランプ氏が大統領選で勝利するほか、同時に実施される議会選では上下院とも共和党が圧勝し(トリプルレッド)、1965年以来となる移民政策の大転換が実現するシナリオである。同シナリオは実現の可能性が低いものの、2026年以降に移民が純流出に転じると仮定すると、2027年の移民による労働供給は月間-2.4万人(年間:-29万人)と労働供給に対する下押し圧力となる。

過渡期に懸念される労働需給のミスマッチ
米国生まれ及び移民の「量的」な労働供給の見通しを踏まえると、2025年以降の労働供給は高齢化と移民抑制を背景に減速する可能性が高い。一方、産業別にみると、足下の雇用拡大は「建設業」「娯楽・宿泊業」「教育・医療」「政府部門」など一部セクターへの集中が目立っており、今後は労働市場における「質的」な需給のミスマッチが雇用拡大を抑制するリスクに警戒が必要だろう。
図表8は2023年9月に米労働省が公表した「Employment Projections」を基に、2022年から32年にかけての職種別の雇用者数変化、及び2023年時点の年収(中央値)を示したものである。図表8からは2つの特徴が指摘できる。

まず、採用にあたってのハードルが高くない一方、相対的に賃金が低い職種の雇用増加である。具体的にはホームヘルパー・介護補助者、倉庫作業・商品補充、荷役作業などの職種がこれに該当し、高齢化やオンラインショッピングの拡大がこの背景として指摘できる。これらの職種は就職に際して大学卒業等の学歴要件が少ない一方、年収は全職種平均を下回っており、同等の学歴要件を持つ職種と比べても待遇が芳しくない傾向にある(賃金の中央値[2023年]:全職種:4.8万ドル、ホームヘルパー・介護補助者:3.3万ドル、倉庫作業・商品補充:3.6万ドル、荷役作業:3.8万ドル)。このため、米国生まれ人口がこうした職種を避け、就職が比較的困難な移民がこうした求人に就いている可能性がある。こうした状況で移民が減少した場合、賃金上昇が緩慢に留まり人手不足が継続(求人数が高止まり)する可能性があり、一時的に雇用の伸びが抑制されるリスクがある。
次に、相対的に賃金水準は良好であるものの、医療やITなどの特定スキルを要する職種の雇用拡大である。具体的には医療産業の看護師やナース・プラクティショナー(一定の診断や治療が可能な看護師)、IT関連のソフトウェア開発者やシステム管理者がこれに該当する。これらの職への就職に際しては大学等の教育機関における専門知識の習得、或いは一定の実務経験が必要になると見込まれる。このため、求人数が高水準に推移する状況においても、労働供給の制約から一時的に雇用が伸び悩むリスクがある。
なお、こうした需給のミスマッチはあくまで数年程度持続するものと考えられ、長期的には解消する可能性が高いことに留意する必要がある。例えば、賃金水準の低い職種を巡っては「人件費に対する資本設備の割安感が強まり、雇用がロボット等に代替される」或いは「資本蓄積が労働生産性と賃金を押し上げる」ことが将来的に予想される。一方、医療やIT関連のスキル労働者に関しても、教育や人材育成には時間を要するものの、賃金水準の高さを背景に労働供給が緩やかに増加する可能性が高い。このため、規制等が需給のミスマッチ解消を阻害しない限り、長期的な雇用の増加ペースは産業別の雇用動向ではなくマクロ経済環境に大きく依存すると考えられる。

【注釈】
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労働力人口や失業率の算出に用いられる雇用統計(家計調査)は10年毎に実施される国勢調査をベースに足下の推移を推計しており、不法移民流入の影響を完全に補足できていない可能性がある。
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AP News “Some nationalities escape Biden’s sweeping asylum ban because deportation flights are scarce,” 2024年6月9日
前田 和馬
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