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メローニ首相が鍵を握るEU人事

~無所属議員の合流で影響力を増す保守会派~

田中 理

要旨
  • イタリアのメローニ首相が率いる保守会派は、所属会派を決めていなかった政党や議員が選挙後に合流したことで、リベラル会派を抜き、欧州議会の第三勢力となった。議会運営で協力する親EU会派がEUの重要ポストを分け合う人事案を検討しているが、保守会派もポストを要求している。欧州議会での承認投票に不安が残るフォン・デア・ライエン委員長は、メローニ首相の要求を無視することが難しい。EUに懐疑的な政党が集まる保守会派が、EUの重要ポストを手に入れることがあるのかに注目が集まる。

6月初旬に行われた欧州議会選挙は、EUに懐疑的な保守会派や極右会派が議席を伸ばしたが、親EU会派が過半数の議席を死守し、EUの政策運営や高官人事への影響は限定的との受け止めが大勢だろう(図表1)。

図表1
図表1

だが、ことはそれほど単純ではない。中道右派が最大会派の座を守り、同会派の筆頭候補である欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が再任に向けて前進したが、欧州首脳は17日に開かれた非公式会合の場で、高官人事で合意できなかった。議会運営で協力する親EU会派間で主要ポストを分け合い、フォン・デア・ライエン氏(中道右派、ドイツ出身、女性)が委員長を続投、ポルトガルのコスタ前首相(中道左派、ポルトガル出身、男性)が欧州理事会の常任議長(いわゆるEU大統領)に、エストニアのカラス首相(リベラル、エストニア出身、女性)が外交・安全保障上級代表に、欧州議会のメッツォラ議長(中道右派、マルタ出身、女性)が続投し、二大会派でポスを分け合う前例を踏襲し、中道左派にバトンタッチする人事案が取り沙汰されている(図表2)。これら4ポストの人事案が合意に至らなかったのか、各国に1ポストが割り当てられる欧州委員(EUの閣僚に相当)の人事案が難航しているのかは定かでない。6月27・28日に予定されるEU首脳会議の場で改めて協議が行われる。

図表2
図表2

EU高官人事に異を唱えているのが、今回の欧州議会選挙で躍進した保守会派だ。同会派には、イタリアの政権を率いる右派ポピュリスト政党「イタリアの同胞」、ポーランドの前政権を率いたナショナリスト政党「法と正義」、スペインの極右政党「ボックス」、フランスの新興極右政党「再征服」、スウェーデンの極右政党「スウェーデン民主党」などが加わる。開票直後は改選前から数議席を積み増した程度だったが、その後に同会派に合流する政党や議員が増え、リベラル会派を抜き、議会の第三勢力となった(図表3)。欧州議会では選挙後に会派の移動や合流が頻繁にあり、開票直後の結果は確定的ではない。同会派の事実上のリーダーであるイタリアのメローニ首相は、第三勢力となった同会派に重要ポストを割り当てることを要求している。

図表3
図表3

最近創設された政党の多くは、所属会派を決めずに欧州議会選挙を戦った。21日現在で会派に属していない90議席のうち、50議席が右派政党、29議席が左派政党、11議席が中道政党ないし独立派の議員で、これらのうち80議席程度がEUに懐疑的な政党が占めている。保守会派に合流する政党は今後も増えそうだ。仮に無所属右派の50議席が全て保守会派に合流した場合、同会派の議席は第二会派の中道左派に肉薄する(図表4)。また、極右会派の事実上のリーダーであるフランスの極右政党「国民戦線」のルペン氏は、保守会派と極右会派の共闘を呼び掛けている。メローニ氏は今のところ態度を保留しているが、希望する高官人事を手にすることができない場合、EUに懐疑的な勢力を結集することで、欧州議会やEU運営での影響力を発揮することに舵を切る可能性もある。保守会派と極右会派に無所属右派が全員加われば、中道右派に匹敵する一大勢力となる。

図表4
図表4

フォン・デア・ライエン委員長は、前回2019年の委員長就任時の欧州議会での承認投票をどうにか乗り切った(図表5)。中道右派会派の筆頭候補でなかった同氏の就任には、同一会派内からも造反者が出たほか、欧州議会運営で協力する中道左派会派に所属するドイツの「社会民主党」も、ドイツ出身の同氏の委員長就任に反対票を投じたとされる。今回フォン・デア・ライエン氏は、中道右派の正式な筆頭候補で、会派内から前回ほどの抵抗はないと見られるが、同氏の続投に反対する声も一部にある。欧州議会選挙を前にフォン・デア・ライエン氏が保守会派との協力の可能性を示唆したのも、欧州議会での承認投票での協力取り付けを視野に入れたものだろう。承認投票が否決された場合、同一人物を委員長候補として再び投票に諮ることはできない。欧州議会での投票に不安が残るフォン・デア・ライエン氏としては、メローニ首相の要求を無視することも難しい。EUに懐疑的な政党が集まる保守会派が、EUの重要ポストを手に入れることがあるのかに注目が集まる。

図表5
図表5

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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