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欧州議会選挙で動き出す政局

~EU人事とフランス政局の行方が注目~

田中 理

要旨
  • 欧州議会選挙では事前予想通りに保守会派や極右会派が躍進したが、中道右派会派が最大会派の座を死守し、中道左派会派、リベラル会派とともに議会運営で協力する可能性が高い。その意味では今回の欧州議会選挙のEUの政策運営に与える影響は限定的だが、右派躍進を受けて中道右派会派による政策の中心軸が右傾化することや、フランスなど欧州議会選挙の結果が国内政局に波紋を広げることで、今後のEU運営に影響しかねない。最大会派の座を守った中道右派会派の筆頭候補である欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、二期目の続投に向けて前進した。鍵を握るのは、イタリアのメローニ首相が率いる保守会派。フォン・デア・ライエン氏の議会承認に協力する見返りに、EUの高官ポストを要求するか、極右会派と共闘することで欧州議会内での発言力を高めるか、慎重に見極めているのだろう。

6~9日に欧州連合(EU)加盟国で行われた欧州議会選挙は、中道右派会派の「欧州人民党(EPP)」が議席を伸ばし、最大会派の座を死守した(図表1)。第二会派の中道左派「社会民主進歩同盟(S&D)」、第三会派のリベラル「欧州刷新(リニュー・ヨーロッパ)」、環境会派の「欧州統一左派・北部緑の左派(GUE|NGL)」が議席を落とした一方、移民の流入増加による社会的な軋轢の高まりや度重なる危機による国民生活の疲弊を背景に、保守会派の「欧州保守改革(ECR)」や極右会派の「アイデンティティと民主主義(ID)」が議席を伸ばした(図表2)。

(図表1)2024年欧州議会選挙の結果
(図表1)2024年欧州議会選挙の結果

(図表2)欧州議会の会派と主な所属政党
(図表2)欧州議会の会派と主な所属政党

ただ、保守や極右の伸張は概ね事前の世論調査通りで、ハンガリーのオルバン首相が率いる右派系ナショナリスト政党「フィデス」や、極右会派を追放されたドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」など、会派に所属しない政党も含めて右派勢力が総結集した場合も、過半数には届かない(図表3)。前回同様に、中道右派、中道左派、リベラルの3会派で議会の多数派を構成する可能性が高い。その意味では今回の欧州議会選挙のEUの政策運営に与える影響は限定的だが、右派躍進を受けて中道右派会派による政策の中心軸が右傾化することや、フランスやベルギーなど欧州議会選挙の結果が国内政局に波紋を広げることで、今後のEU運営に影響しかねない。

(図表3)欧州議会選挙の会派間協力と議席数
(図表3)欧州議会選挙の会派間協力と議席数

フランスでは欧州議会選挙での大敗を受け、マクロン大統領が国民議会(下院)を解散し、前倒しの総選挙が行われる(6月10日付けレポート「フランスはいざ解散・総選挙へ」を参照されたい)。このまま極右政党が国民議会の多数派を握れば、極右出身の首相が誕生する恐れがある。ベルギーでは欧州議会選挙と同日に行われた総選挙の結果を受け、デ・クロー首相が辞任の意向を固めた。極右政党の躍進は事前の世論調査に比べて限定的で、次期政権に参加する可能性は低いとみられている。極右主導の連立発足で基本合意したオランダや秋の総選挙で極右が第一党になる可能性が高いオーストリアに加えて、フランスでも極右主導の政権が誕生した場合、EUの屋台骨を揺るがしかねない。

最大会派の座を守った中道右派会派の欧州委員会委員長候補(筆頭候補)であるフォン・デア・ライエン現委員長は、二期目の続投に向けて前進した。但し、前回2019年の就任時の欧州議会での承認投票は、身内の中道右派会派からも複数の造反者が出たほか、中道左派会派に属するドイツの「社会民主党(SPD)」が同国出身のフォン・デア・ライエン氏の委員長就任に反対票を投じた結果、ぎりぎりでの信任となった(図表4)。こうした経験を踏まえ、フォン・デア・ライエン氏は今回の欧州議会選挙に先駆けて、保守会派との協力の可能性を示唆し、これに中道左派会派が反発している(6月4日付けレポート「EUの未来を占う欧州議会選挙」を参照されたい)。

(図表4)2019年の欧州議会でのフォン・デア・ライエン委員長の承認投票
(図表4)2019年の欧州議会でのフォン・デア・ライエン委員長の承認投票

極右会派も保守会派との協力を模索している。極右会派のリーダー格であるフランスの極右政党「国民連合(RN)」のルペン氏は、保守会派のリーダー格であるイタリアの極右政党「イタリアの同胞(FdI)」を率いるメローニ首相に、選挙後の連携を呼び掛けている。両会派が手を組めば、中道左派会派を抜き、欧州議会の第二会派となる(図表5)。保守会派と極右会派の間では、ウクライナ支援などを巡って溝もある。イタリア首相就任以来、現実的な政策運営で欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長やEUの指導者達の信頼を勝ち得たメローニ氏は、ルペン氏からの呼びかけに静観姿勢を崩していない。フォン・デア・ライエン氏の議会承認に協力する見返りに、欧州委員(EUの閣僚)などEUの高官ポストを要求するか、ルペン氏と共闘することで欧州議会内での発言力を高めるか、慎重に見極めているのだろう。

(図表5)欧州議会選挙の会派間協力と二大会派
(図表5)欧州議会選挙の会派間協力と二大会派

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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