デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

フランスはいざ解散・総選挙へ

~現実味を帯びる極右首相誕生~

田中 理

要旨
  • 欧州議会選挙で大統領支持会派が極右政党に大敗したフランスでは9日夜、マクロン大統領が下院の解散を決断、6月30日に初回投票、7月7日に決選投票が行われる。極右政党出身の首相誕生への国民の危機感、選挙戦の顔交代、野党勢力の分断などに一縷の望みを託すが、大統領支持会派の苦戦が避けられそうにない。このままの勢いで極右政党が下院の第一党となれば、マクロン大統領は極右政党から首相を選ばざるを得なくなる恐れがある。フランスでは国家元首である大統領が政治の中心であるが、極右首相が誕生した場合の政権運営の行方は未知数だ。EUの中心国フランスでも極右主導の政権が誕生した場合、EUの屋台骨を揺るがしかねない。フランスとEUの未来を左右する運命の選挙まで残り1ヶ月余り、フランスの政局展開から目が離せない。

6月6~9日に欧州連合(EU)加盟国で欧州議会選挙が行われ、各国の投票速報が次々と発表されている。フランスでは、ルペン氏の極右政党・国民連合(RN)が31.5%で最多票を獲得し、フランス選出欧州議会議員の最大勢力となる。二番手につけたマクロン大統領のリベラル会派・再生(ルネッサンス)の得票率は14.5%にとどまり、極右政党に大差を付けられた。かつての二大会派の一角・中道左派の社会党(PS)が14.0%で猛追、メランション氏の強硬左派・フランスの不服従(LFI)が10.1%、マクロン支持で揺れるかつての二大会派の一角・中道右派の共和党(LR)が7.2%、環境政党・欧州・エコロジー=緑の党(EELV)が5.5%、ゼムール氏が結党した極右政党・再征服(R!)が5.2%で、議席獲得に必要な5%のラインをクリアしそうだ(図表1)。

(図表1)フランス欧州議会選挙の結果
(図表1)フランス欧州議会選挙の結果

投票結果を受け、マクロン大統領は9日に国民議会(下院)を解散し、6月30日に初回投票、7月7日に決選投票を行うことを表明した。フランスでは2022年の国民議会選挙で大統領支持会派が議会の過半数を失い、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を乱発する厳しい議会運営を強いられてきた(図表2)。政権の支持率低迷で厳しい財政緊縮が困難ななか、5月31日には大手格付け会社がフランスの国債格付けを従来の「AA」から「AA-」に引き下げた。秋の来年度予算審議に向けて、議会運営の紛糾は避けられず、野党勢は1月に就任したアッタル首相が率いる内閣への不信任案を相次いで提出し、議会の解散・総選挙を求めていた。筆者は6月3日のレポート「フランス国債格下げ、マクロン大統領に痛手」で、欧州議会選挙での敗北後、野党の内閣不信任決議が通り、年内に解散・総選挙が行われる可能性があると指摘したが、マクロン大統領は選挙後のテレビ演説で「欧州議会選挙の結果を無視することはできず、国民に選択の機会を提供する」と述べ、自ら議会の解散を決断した。マクロン大統領は就任以来、国際社会やEU運営で強いリーダーシップを発揮する一方、国内では時に強硬手段を使って改革を断行し、傲慢で国民の声に耳を傾けないとの批判に晒されてきた。選挙結果を無視すれば、与党の更なる地盤沈下が避けられないとの判断だろう。

(図表2)フランス国民議会(下院)の会派別構成
(図表2)フランス国民議会(下院)の会派別構成

第五共和制下のフランスでは、大統領の出身政党と議会の多数派が食い違うこと(コアビタシオン)が何度か発生し、政権運営を難しくしてきた(図表3)。こうした事態を回避するため、2000年の国民投票で大統領任期を従来の7年から5年に短縮し、大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うように改められた。その後は大統領の与党が直後の議会選挙で敗北したことはなく、コアビタシオンが発生していない。だが、欧州議会選挙での大敗直後に行われる今回の国民議会選挙では、大統領支持会派の苦戦が避けられない。このままの勢いで国民連合が国民議会の第一党となれば、マクロン大統領は極右政党から首相を選ばざるを得なくなる恐れがある。マクロン大統領としては、極右首相誕生への国民の危機感、選挙制度が与党に有利に働く可能性、選挙戦の顔交代、野党勢力の分断などに一縷の望みを託しているのだろう。

(図表3)フランス第五共和制の大統領と首相の一覧
(図表3)フランス第五共和制の大統領と首相の一覧

比例代表制で行われたフランス選出の欧州議会選挙と異なり、国民議会選挙は577の小選挙区毎に2回投票制で行われる。初回投票で50%以上の票を獲得し、選挙人名簿(有権者)の4分の1以上の票を獲得すれば、その候補が議席を獲得する。初回投票での当選者がいない場合、初回投票の上位2名と選挙人名簿の12.5%以上の票を獲得した候補が決選投票に進み、決選投票での最多票獲得者が議席を獲得する。極右首相誕生に対する危機バネが働くことに期待しているのだろう。

また、今回のフランスの欧州議会選挙で大統領支持会派・ルネッサンスの選挙戦を率いたのは、全国的な知名度が低い欧州議会議員のハイヤー氏だった。国民議会選挙では、フィリップ元首相、アッタル現首相、ルメール財務相、ダルマナン内相など、人気と知名度を兼ね備えた政界の重鎮がこぞって選挙戦を展開する。対する野党勢は、欧州議会選挙で国民連合の選挙戦を率いて、同党の躍進を主導したバルデラ党首、党勢低迷から脱した社会党の支持拡大の原動力となったグルックスマン欧州議会議員が、国民議会に鞍替えしない限り、選挙戦を率いることはない。

2022年の国民議会選挙では、不服従のフランス、欧州・エコロジー=緑の党、共産党などの左派政党が統一会派・新人民連合環境社会(NUPES)を結成し、最大野党となった。欧州議会選挙で別々に戦ったこれらの政党が再び統一会派を結成できるかは分からない。特に欧州議会選挙で躍進した社会党は左派統一会派から距離を置くか、自らが会派を率いることを主張する可能性がある。

フランスでは首相選出に関する明示的なルールはなく、非議員の首相を任命することもできるが、内閣不信任を回避するためには議会の多数派が支持する首相を任命する必要がある。フランスでは国家元首である大統領が政治の中心であるが、大統領が主に外交と国防を、首相が内政全般を担う。大統領は閣僚の任命権や議会の解散権などを通じて、首相に圧力を掛けることができるが、極右首相が誕生した場合の政権運営の行方は未知数だ。極右主導の連立発足で基本合意したオランダや秋の総選挙で極右が第一党になる可能性が高いオーストリアに加えて、フランスでも極右主導の政権が誕生した場合、EUの屋台骨を揺るがしかねない。フランスとEUの未来を左右する運命の選挙まで残り1ヶ月余り、フランスの政局展開から目が離せない。

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ