「中国経済光明論」が跋扈するなかで実態がみえにくくなる懸念

~スローガン在りきの政策運営の背後でデフレ懸念に繋がる動きは一段と深刻化する可能性~

西濵 徹

要旨
  • 2023年の中国は経済成長率が政府目標をクリアしたが、供給サイドをけん引役に景気の底入れが続く一方、需要サイドは力強さを欠くなど需給ギャップが広がる動きがみられる。昨年の経済成長率は「名実逆転」するなどデフレ懸念が強まっているが、人民元安を警戒して中銀は利下げに動けないなど「自縄自縛」状態に嵌っている。よって、足下の中国経済を取り巻く環境には不透明感が一段と高まる状況にある。
  • 1月の製造業PMIは49.2と底打ちするも4ヶ月連続で50を下回る推移が続いており、生産活動は活発化するも国内外で受注は弱含むなど先行きに対する不透明感がくすぶる状況にある。他方、非製造業PMIは50.7と上昇しており、サービス業は3ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しているが、製造業同様に国内外双方で受注は弱含むなど先行きへの不透明感がくすぶる。さらに、製造業、非製造業問わず雇用調整圧力が強まることで、先行きの内需が弱含むとともにディスインフレ圧力が強まる懸念がくすぶる状況にある。
  • 昨年末に実施された中央経済工作会議では「中国経済光明論」を高らかに謳う方針が示され、その喧伝に向けて何でもありの様相をみせるなかで統計の「水増し」が疑われる動きもみられる。中国経済の実情をみえにくくするとともに、スローガン在りきの政策運営は世界経済の「悩みの種」となる展開も予想される。

2023年の中国の経済成長率は+5.2%と政府目標(5%前後)をクリアするとともに、10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+5.2%、前期比年率ベースでも+4.1%とプラス成長で推移するなど堅調に推移している様子がうかがえる(注1)。なお、足下の景気は供給サイドをけん引役に底入れの動きが続いている一方、需要サイドを巡っては内・外需双方で不透明要因が山積するなど力強さを欠く推移をみせるなど需給ギャップの拡大が意識されやすい状況にある。当局によるゼロコロナへの拘泥が長期化した『後遺症』により若年層を中心とする雇用回復が遅れるなか、不動産市況の調整の動きが幅広い分野にバランスシート調整圧力を招いており、家計消費をはじめとする内需の足かせとなる展開が続いている。また、米中摩擦に加えて、デリスキング(リスク低減)を目的とする世界的なサプライチェーン見直しの動きが外需の足かせとなっている上、昨年の反スパイ法(反間諜法)改正や治安管理処罰法改正案を巡る不透明感も重なり、足下の対内直接投資は純流出に転じるなど景気の足を引っ張る懸念も高まっている。このように需給ギャップが広がる懸念が広がっていることを反映して、昨年の名目成長率は+4.6%と実質(+5.2%)を下回るなど『名実逆転』状態となるなどデフレを意識せざるを得ない状況に直面している。他方、昨年の国際金融市場においては米ドル高の動きを反映して人民元相場が調整の動きを強めたため、米ドル建で換算したGDPは29年ぶりの減少に転じるなど世界経済における存在感低下を招く一因になったと捉えられる。よって、金融市場においては景気下支えに向けた金融緩和に動くとの観測が強まっているものの、中銀(中国人民銀行)は24日に来月5日付で預金準備率を50bp引き下げる動きをみせるも、人民元安を招くことが懸念される政策金利の引き下げには及び腰となるなど『自縄自縛』状態に陥っている可能性がある。こうしたなかで足下の中国経済を取り巻く環境には不透明感が高まっているものと捉えられる。

図 1 対内直接投資の純流出入額の推移
図 1 対内直接投資の純流出入額の推移

このように足下の景気を巡っては足かせとなる懸念がくすぶるなか、国家統計局が公表した1月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.2と前月(49.0)から+0.2pt上昇するなど頭打ちしてきた流れが反発する動きがみられるものの、4ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を下回る推移が続いており、製造業企業を取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。足下の生産動向を示す「生産(51.3)」は前月比+1.1pt上昇するなど生産拡大の動きが確認されているものの、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(49.0)」は同+0.3pt、「輸出向け新規受注(47.2)」も同+1.4pt上昇するも内・外需ともに受注動向は50を下回る推移が続いており、足下の生産拡大の動きは期待先行で底入れの動きを強めている様子がうかがえる。事実、こうした状況を反映して生産活動が拡大する動きがみられるにも拘らず「購買量(49.2)」は前月比+0.2pt、「輸入(46.7)」も同+0.3ptとともに小幅な上昇に留まるとともに50を下回る推移をみせるなど原材料の調達を抑制させる展開が続いており、「受注残(44.3)」が同▲0.2ptと受注動向が下振れしていることも影響していると捉えられる。このところの商品市況の調整の動きは「投入価格(50.4)」が前月比▲1.1pt低下する動きに繋がっている一方、家計部門が節約志向を強めるなかで価格競争が激化していることを反映して「出荷価格(47.0)」も同▲0.7pt低下するなどデフレ傾向を後押しする可能性はくすぶる。さらに、生産活動を活発化させているにも拘らず「雇用(47.6)」は前月比▲0.3pt低下するなど調整圧力が強まる動きが確認されており、家計部門にとっては雇用環境を巡る不透明感が消費意欲の重石となるとともに、節約志向を一段と強めることも考えられる。なお、企業規模別では「大企業(50.4)」は前月比+0.4pt上昇して50を上回る推移が続く一方、「中堅企業(48.9)」は同+0.2pt、「中小企業(47.2)」は同▲0.1ptと中堅企業や中小企業を取り巻く状況は厳しい展開となるなど、足下の中国経済が『国進民退』色を強めている様子がうかがえる。

図 2 製造業 PMI の推移
図 2 製造業 PMI の推移

一方、製造業と同様に昨年以降は頭打ちの動きを強めてきた非製造業PMIも1月は50.7と前月(50.4)から+0.3pt上昇して好不況の分かれ目となる水準を維持しており、相対的に企業マインドは堅調さが続いていると捉えられる。業種別では過去2ヶ月に亘って好不況の分かれ目を下回る推移をみせた「サービス業(50.1)」が前月比+0.8pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準に回復する一方、当局による公共投資の進捗促進や前倒しの動きを反映して底入れの動きを強めてきた「建設業(53.9)」が同▲3.0pt低下して一服する動きが確認されており、不動産価格の調整の動きに歯止めが掛からない展開が続くなど需要が弱含みする動きがみられるなかで建設投資の足かせとなっている可能性が考えられるなど、過去数ヶ月とは対照的な様相をみせている。サービス業のなかでは鉄道輸送関連や物流関連、金融関連で好調さがうかがえる一方、このところ低迷が続く資本市場サービス関連や不動産関連に加え、公共サービス関連が弱含みする対象的な動きをみせており、調整の動きに歯止めが掛からない展開が続く不動産市場を巡る状況が足かせとなっていると捉えられる。なお、足下の生産活動に底打ちの動きが確認されているものの、先行きの生産活動を左右する「新規受注(47.6)」は前月比+0.1pt、「輸出向け新規受注(45.2)」は同▲5.7ptと大幅に低下して内・外需双方で受注動向は50を下回る水準となっている上、「受注残(43.7)」も同▲0.2pt低下するなど先行きの生産活動を取り巻く状況は厳しさを増している。また、製造業同様にこのところの商品市況の調整の動きを反映して「投入価格(49.6)」は前月比±0.0ptと横這いで推移しているほか、こうした動きに加えて家計部門の節約志向や価格競争の激化を受けて「出荷価格(48.9)」は同▲0.4pt低下するなど幅広くディスインフレ圧力が強まる流れが続いている。そして、「雇用(47.0)」も前月比▲0.1pt低下して雇用調整圧力が一段と強まる動きもみられるなど、家計部門を取り巻く状況は一層厳しさを増すことは避けられないであろう。

図 3 非製造業 PMI の推移
図 3 非製造業 PMI の推移

なお、昨年末に実施された中央経済工作会議においては、今年のマクロ経済政策の運営に当たって過去に行われた施策の『焼き増し』とみられる対応が羅列されるなど、足下の中国経済が直面する状況に鑑みれば物足りないと捉えられる。その後に当局が公表している政策についても『小粒感』が強い展開が続いているほか、突如株価対策を目的に2兆元規模の安定化基金創設のほか、ファンドに対して株価指数先物の空売り制限を要請するなどPKO(株価維持政策)に舵を切る動きをみせているものの、起こっている問題への対応としてはちぐはぐ感が否めない。他方、中央経済工作会議においては『中国経済光明論』を高らかに謳うべきという指針が示されるとともに、後押しすべく経済統計にも影響を与える可能性が高まっている。事実、今月26日から始まった春節期間中の人の移動(春運)を巡って、交通運輸部が今年は延べ数として90億人を上回ると昨年から約2倍となるとの見通しを示す一方、その集計方法について自家用車による移動を含めたとするなど『水増し』が疑われるような動きがみられる。こうした状況は、今回のPMIをはじめとして今後公表される経済統計に対する疑念をあらためて惹起することが予想されるほか、中国経済の実態をこれまで以上にみえにくくする可能性がある。ただし、党中央が中国経済光明論を声高に唱える背景には、すべての政策運営を巡って『習近平の中国の新時代の特色ある社会主義』の実現というスローガン在りきで進められていることを勘案すれば、こうした状況を脱却することは極めて難しいのが実情である。党中央が中銀への関与を強めるなど政策の手足を縛る動きがみられることも重なり(注2)、世界経済にとっては中国経済の不透明感という『悩みの種』が尽きない展開が続くことになろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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