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2023.11.06
アジア経済
ニュージーランド経済
ニュージーランド総選挙、最終結果は右派2党で半数満たず、ポピュリスト政党との連立工作へ
~老練な政治家ピータース氏率いるNZファーストの連立入りは政策運営に如何なる影響を与えるか~
西濵 徹
- 要旨
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- ニュージーランドで先月実施された総選挙の結果、6年ぶりの政権交代が行われる見通しが強まった。暫定結果では国民党とACT党の2党で過半数を上回るとされたが、最終結果では半数をわずかに下回り、ニュージーランド・ファースト党が連立協議に加わる見通しとなっている。老練な政治家であるピータース氏が率いる同党との連立協議は難航も予想される。外交政策を巡る対立や先住民であるマオリ政策の後退が懸念される。前回総選挙で党勢が失墜したニュージーランド・ファースト党は今回一定の存在感を示しており、連立協議を強気に進めると見込まれ、次期政権の方向性や地域情勢に影響を与えることも予想される。
ニュージーランドでは、先月14日に3年に一度の議会(代議院:一院制(基本定数120))総選挙が実施された。直後に選挙管理委員会が公表した暫定結果では、最大野党である中道右派の国民党と、その友党である右派のACT党を併せた獲得議席数が61議席とギリギリで半数を上回ることが示されるなど、6年ぶりとなる政権交代が行われる見通しとなった(注1)。なお、暫定結果には選挙区外や海外において投票された『域外票』が含まれず、域外票を巡っては伝統的に与党で中道左派の労働党支持者の割合が高いとされるなか、その行方如何では比例票の行方に影響が出るとの見方が示されていた。こうしたなか、選挙管理委員会が3日に公表した最終結果では、暫定結果に比べて国民党の獲得議席数が2議席減少してACT党と併せた獲得議席数は59議席と基本定数の半分を下回る水準に留まることとなった。さらに、確定議席を巡っては、マオリ党の小選挙区での獲得議席数が2議席増えて計6議席となったため、総議席数は基本定数の120を上回る122議席となっており、過半数の基準そのものが増える格好となっている。よって、国民党とACT党の2党だけでは政権樹立が困難となるなか、国民党のラクソン党首は政権樹立に向けて右派ポピュリスト政党のニュージーランド・ファースト党に連立政権入りを要請する方針を明らかにしており、同党が『キャスティング・ボート』を握る格好となった。同党は元々国民党の議員であったピータース氏が結成した保守主義、ナショナリズム、ポピュリズムを政治理念に掲げる政党ながら、過去には国民党、労働党双方と連立政権を樹立したほか、ピータース党首自身も2度に亘って外相や副首相に就任するなど老練な政治家として知られる。よって、同党を交えた連立協議を巡っては、大臣ポストや次期政権による政策運営の方向性などに関する協議が難航することも予想される。なかでも外交関係を巡っては、ラクソン氏は景気刺激に向けたインフラ投資の拡充を図るべく中国からの支援を「絶対に受け入れる」と述べるなど中国が進める一帯一路に参加する意向を持っている模様である一方、ニュージーランド・ファースト党はナショナリズム色の強い政策を謳う動きをみせており、協議がどのように進むかが注目される。同国はUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組(ファイブ・アイズ)の一角であり、仮にラクソン次期政権が対中融和姿勢を強めればその結束に悪影響を与える懸念があるほか、中国の動きにも影響を与える可能性が考えられるだけに、その動向に注意を払う必要性は高い。他方、次期政権での連立入りを目指すACT党は公約に労働党政権が設立したマオリ保健局の廃止を掲げているほか、ニュージーランド・ファースト党はピータース党首がマオリにルーツを持つものの(過去にマオリ担当相も歴任)、マオリ選挙区の廃止や公共の場でのマオリ語の表記、使用を制限する主張を展開しており、先住民であるマオリとの格差是正に向けた取り組みが後退する懸念が高まっている。オセアニア地域では先月、隣国の豪州においてアボリジニなど先住民を巡る憲法改正の是非を問う国民投票が実施されたが、すべての州で反対が多数を占めるとともに、全体として反対派が6割以上に上る形で否決されるなど、先住民社会との和解の道のりが容易でないことが示された。今回の総選挙においてマオリ党は小選挙における議席数を増やす一方、ニュージーランド・ファースト党も2020年の前回総選挙ではすべての議席を失うなど党勢が失墜するも、今回は比例分で8議席を獲得して存在感を示しており、連立協議を強気に進めることも考えられる。その意味では、連立協議を巡る国民党とACT党、ニュージーランド・ファースト党の動きが次期政権の方向性を占うとともに、地域情勢の行方をも左右する可能性に留意する必要がある。

注1 10月16日付レポート「ニュージーランド総選挙、(現時点では)野党勝利で6年ぶりの政権交代へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

