株高不況 株高不況

IT 関連財の在庫調整 「はっきりと視界に捉える」にはもう少しの辛抱

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年後半にマイナス金利を撤回するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年4-6月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.4%、NASDAQは+0.5%で引け。VIXは13.9へと低下。
  • 米金利はカーブ全般で小幅に金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.265%(▲2.1bp)へと低下。
    実質金利は1.847%(+1.5bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲77.4bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは146前半へと上昇。コモディティはWTI原油が81.6㌦(+0.5㌦)へと上昇。銅は8472.5㌦(+24.0㌦)へと上昇。金は1954.0㌦(+17.5㌦)へと上昇。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

経済指標

  • 7月中古住宅販売成約指数は前月比+0.9%と市場予想に反して2ヶ月連続の増加も、前年比では▲13.8%と低調。住宅ローン金利上昇に伴い、比較的低金利の住宅ローン契約者(債務者)が保有物件の売却を躊躇う傾向にあり、それが中古住宅の流通在庫枯渇を招くことで中古住宅価格が高止まりし、結果的に中古住宅販売が抑制されている。もちろん中古住宅の販売増加は経済成長率加速に資するものであるが、それは同時にインフレ加速要因でもある。Fedが住宅市場の再加速を注視している現状、金融市場目線でみれば住宅市場がこれ以上明確に回復することは望ましくないだろう。

注目点

  • 日本の7月鉱工業生産はIT関連財の在庫調整完了にはなお時間を要すことを痛感させたが、それでも大きくみれば、先行きの改善期待を支持する結果であった。株価は既にサイクル好転を織り込んだ水準にあり、特に半導体製造装置を手掛ける銘柄のバリュエーションは相当切り上がっているとはいえ、業績拡大の道筋が拓けつつあることを示すデータは存在する。この間、自動車の挽回生産が進展していることも朗報。

  • 7月の生産は前月比▲2.0%と2ヶ月ぶりの減産であった。2~4月に自動車生産の大幅回復によって増産となった後、5月は自動車と電子部品・デバイス工業の生産が減少したことで減産。6月はその反動で増加したが、7月は自動車が前月比+0.6%と増産を維持したものの、生産用機械(主に半導体製造装置)が▲4.8%、電子部品・デバイス工業が▲5.1%と共に弱く、鉱工業全体で減産となった。

  • 8月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は8月が前月比+2.6%、9月が+2.4%と増産傾向が続く見通しであった。もっとも、経産省がバイアスを補正した8月の予測値は▲1.4%と弱く、2ヶ月連続の減産を示唆。国内経済の底堅さは維持されるものの、欧米経済の減速、中国経済の回復遅れが重荷となったとみられる。注目の輸送機械工業の生産計画は8月が前月比▲3.0%と減産も、9月は+2.4%と増産に回帰。サプライチェーンの乱れも快方に向っているものの、稼働率は不可解なほど高まらない。とはいえ、世界的に新車不足が残存し、中古車価格が高止まりしていることからも明らかなように新車の潜在需要は豊富に存在している。そうした下で自動車生産が増加する確度は高い。海外経済の減速が足かせになるとはいえ、鉱工業生産全体として回復傾向が続く可能性は高いと判断される。

図表7
図表7

図表9
図表9

  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、7月の生産は上述のように前月比▲5.1%であった。指数水準は93.3へと低下し、前年比では▲11.4%へマイナス幅拡大(7月は▲8.6%)。過去数ヶ月、在庫調整の進展もあり底打ち感がみられていたものの、ノートPCやスマホなどの需要減衰を背景とするシリコンサイクルの悪化に巻き込まれた状況はなお継続している(半導体製造装置も似た構図)。生産計画に目を向けると8月は+3.7%と増産も9月は▲3.2%と弱く、均してみれば緩慢な増産傾向に留まる。

図表10
図表10

  • 7月は出荷のマイナス幅が▲14.2%(6月は▲5.4%)に拡大すると同時に在庫の伸び率が+4.8%(6月は▲0.7%)と再度プラス圏へ押し戻され、出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は▲18.9%と大幅悪化。3ヶ月平均では12.6%とマイナス幅縮小傾向が維持されたが、在庫調整が一筋縄ではいかないことを痛感させた。在庫循環図の位置取りは、左上(在庫増・出荷減)から左下方向(在庫減・出荷減)に向けて進んだ。

図表11
図表11

図表12
図表12

図表13
図表13

  • 長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価は連動性を有してきた。株価指数において半導体の製造を直接手掛ける企業の存在感は大きくないが、半導体製造装置や部材(化学品)など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体の動きを説明するという構図が背景にある。日本株は、半導体市況の好転に対する期待からこの5~6月に大幅な上昇を記録した。今後ノートPC・スマホの販売低迷が長期化したり、データセンタ向け投資が抑制されたりして需給バランスの改善が遅れる可能性はあるが、AI向け半導体需要の爆発的増加にも支えられ、在庫調整が進展すれば、日本株のダウンサイドリスクは後退し、指数は高値更新に向けて前進すると考えられる。

図表14
図表14

  • なお、表題の「はっきりと視界に捉えられる状況」は8月30日の田村日銀政策委員の講演からお借りした表現。緩和修正に前向きな見解を有することで知られている田村委員は2%目標の持続的・安定的な実現が「はっきりと視界に捉えられる状況になった」、「想定以上に物価が上振れる可能性も否定できない」、「来年の春季労使交渉においても高めの賃上げが期待できる」「来年1から3月頃には、その時点の賃上げのモメンタムやそれまでに得られる年後半の物価動向などのデータから、解像度が一段と上がると期待している」として早期の緩和修正を仄めかす見解を示した。現時点で中枢メンバーはそうした見方に傾いていないが、賃金・物価が予想外に強く伸びる状況が続けば、日銀の中心的見解が一気に変化する可能性は否定できない。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。